科学を語るとはどういうことか
科学を語るとはどういうことか
2021年 増補版
前著は2013年版
(2021年5月30日刊行,河出書房新社,東京,342 pp., 本体価格2,000円
今回の増補版では,松王政浩・谷村省吾の「『科学を語るとはどういうことか 科学者、哲学者にモノ申す 増補版』への提題」が公開され,それを踏まえた増補対談(pp. 309-342)が追加されている.
2013年刊行の『科学を語るとはどういうことか』新版のため、須藤靖氏と伊勢田哲治氏に新たに対談していただくにあたり、松王政浩氏(科学哲学者)と谷村省吾氏(理論物理学者)に、提題をお願いしました。書籍には対談の体裁上、一部のみしか掲載できなかったため、全文を、こちらでお読みいただけるようにしています。これらの提題をもとに繰り広げられた議論については、ぜひ『科学を語るとはどういうことか 増補版』にてお楽しみください。
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目次
はじめに 科学哲学と科学の間の埋めがたき違和感
第1章 科学者が抱く科学哲学者への不信
第2章 ツッコミながら教わる科学哲学
第3章 哲学者の興味の持ち方
第4章 科学者の理解しにくい科学哲学的テーマ1―因果論とビリヤード
第5章 科学者の理解しにくい科学哲学的テーマ2―実在論と反実在論をめぐる応酬
第6章 答えの出ない問いを考え続けることについて
第7章 科学哲学の目的は何か、これから何を目指すのか
終わりに 気の長い異分野間対話のために
増補対談 終わりなき対話のその先で
2013年版について
<業界知識>
業界知識編は私のような科学哲学の全体についてよく知らない読者にはなかなかありがたい.ここでは伊勢田が解説役に回っている.
哲学業界には大きく分けて4つの流儀があり,筋道を立て,隠れた前提を明らかにし,できるだけ明晰に考える「クリティカルシンキング型」(伊勢田はこれに従っている),読者を触発させる文章がよい文章だと考える「思考触発型」,誰も思いつかないようなことを先に言って読者に「へえー」と言わせたもの勝ちというルールに従う「うがったもの勝ち型」,「古典読解型」がある.だから流儀によっては難解な用語や言い回しが好まれるということがある*1.
科学哲学の歴史は大きく4つの時代に分けられ,ウィーン学団による論理実証主義時代,クーンに代表される歴史主義的科学哲学時代,実証主義のリバイバル時代,そして個別科学の哲学の進展の時代ということになる.
ウィーン学団は科学をすべて記号論理学に還元しようという科学改革運動を行い,失敗した.
クーンは,科学はパラダイムの転換によって進むと考えた.そしてパラダイム自体は反証可能ではないし,転換はどちらがよいかという客観的基準無しに生じ,それによる学問的喪失(クーン・ロス)も生じると主張した. 科学者に割と評判の良いポパーは,ウィーン学団と同じ時代の学者で,科学の基礎を帰納法でなく反証可能性に求めた.哲学業界ではこれは机上の空論だったという評価が主流だ. 実証主義のリバイバル時代を代表する考え方の一つはベイズ主義で,科学者が信念を更新していく過程をモデル化した.
1990年以降は個別科学の哲学が盛んになり,量子論の解釈問題を扱ったり,生物学の哲学などがなされている.
その中で何をやるかについては,通常「形而上学」「認識論」「論理学」「価値論」に分けることが多い,それぞれの分野の中でそれぞれの議論がある.*2