磔のロシア
磔のロシア
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ゴーリキー,ショスタコーヴィチ,マンデリシターム,エイゼンシテインら,スターリンによる大粛清の時代をかい潜った六人の作家や芸術家たちは,「独裁」といかに闘い,生き残り,死んだのか.かれらの秘められた事情とは何か.1990年代以降に公開された文献をもとにその真相に迫る,著者入魂の大佛次郎賞受賞作. ■編集部からのメッセージ
本書は,20世紀のロシア,とくに1930-40年代のスターリン時代に生きた芸術家たちの受難とサバイバルの歴史である.時代的には,前著『終末と革命のロシア・ルネサンス』が世紀転換期から30年代までを扱っているのに対し,本書は主に30年代以降のスターリンによる大粛清の嵐が吹き荒れた時代の芸術家たちの生きざまを語る.
スターリン時代に生きた多くの芸術家たちは,いかに巨大な権力にプロテストしえたのか.著者は,90年代以降に公開された文献による研究などをもとに,弱者である芸術家が作品の中に,実は様々な「仕掛け」を埋め込んで権力に抵抗していた(つまり「二枚舌」であった)ことを指摘する.
本書は大きく分けて三つのテーマからなる.最初の二章は,スターリン礼賛の文学作品のもつ二重性を論じる.具体的には,作家ミハイル・ブルガーコフのスターリン礼賛劇『バトゥーム』と,詩人オーシプ・マンデリシタームのスターリン頌歌をとりあげる.中間部の二章は,スターリン権力下における二人の芸術家の死の問題を扱う.詩人ウラジーミル・マヤコフスキーと作家マクシム・ゴーリキー.いずれも自殺か,他殺か,病死か,謀殺かをめぐり,90年代のジャーナリズムに議論を巻き起こした問題である.最後の二章は,作曲家ショスタコーヴィチと映画監督エイゼンシテインの二人をとりあげ,音楽と映画のジャンルにおける「二枚舌」の表象について論じている. 著者のスターリンと,スターリンをとりまく文化現象に関する五年間の研究成果であると同時に,代表作の一つでもある.権力と芸術とのグロテスクな関係をめぐって,スターリン時代の一断面を浮かび上がらせる,著者入魂の書.現在は,主にドストエフスキーの新訳で知られる著者だが,本書の文庫化により,それ以前の研究についても読者の関心を惹きつけることができれば,担当者として幸甚である.第29回大佛次郎賞受賞. 目次
はじめに
独裁者殺し――ブルガーコフ『バトゥーム』の世界
はじめに
1 スターリンからの電話
2 直訴状
3 動機
4 『バトゥーム』の世界
5 スターリン像の両義性
6 独裁者の思惑
エピローグ
恐怖という詩神――マンデリシタームのスターリン頌歌
はじめに――「隔離すべし,ただし保護せよ」
1 『クレムリンの山男』――その動機と波紋
2 現実との和解――「ヴォローネジ・ノート」より
3 『頌歌』――独裁者との和解
4 帰還,そして追放
エピローグ
鬱とテロル――マヤコフスキーの死と真実
はじめに
1 屹立する鬱
2 謀殺説の背景
3 死の入江
4 「栄光」のアイロニー
エピローグ
熱狂を見つめて――ゴーリキーはなぜ殺されたか
はじめに
1 ゴーリキーはなぜ帰還したか
2 「蜜月」の闘い
3 離反
4 最後の闘い
もう一つの仮説,そしてエピローグ
はじめに
1 何が裁かれたのか――『ムツェンスク郡のマクベス夫人』の謎
2 時代背景といくつかの仮説
3 オペラと権力闘争
4 葬送とレクイエムの間に――交響曲第四番
5 「悪霊」へのまなざし――『プーシキンの詩による四つの歌曲(ロマンス)』
6 交響曲第五番――成立の背景
7 「革命」の意味するもの,または解釈学のフォークロア
エピローグ
衝突とカーニバル――エイゼンシテインにおける革命と権力の表象
はじめに
1 革命と暴力の表象――アトラクションのモンタージュ
2 信念の喪失
3 根源の亀裂
4 権力闘争そしてファシズムの嵐
5 『イワン雷帝』成立の背景
6 解釈――第二部フィナーレをどうとらえるか
7 『イワン雷帝』批判――その問題点
8 憂鬱なカーニバル
エピローグ
あとがき
来るべきスターリン学のためのささやかな里程
――岩波現代文庫版あとがきに代えて――
初出一覧
人物紹介+人名索引