生ける憲法
生ける憲法(基礎法学翻訳叢書)
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憲法は時代の変化に合わせて発展する。このとき、憲法改正は必ずしも必要ない。アメリカでは、人種差別の禁止、女性の権利の拡大、表現の自由など、重要な権利の多くは憲法改正を経ないまま実現されてきた。実際に憲法を発展させてきたのは判決や法律だった。デッドハンドに囚われないダイナミックな憲法実践が鮮やかに描き出される。
【原著】David A. Strauss, The Living Constitution Constitution (Oxford University Press, 2010)
原書が刊行されたのは二〇一〇年であるが、ちょうどその頃、アメリカでは憲法観をめぐる議論が興隆を迎えていた。アメリカはイギリスやフランス、さらには日本と比べて歴史が浅い分、世界初の近代憲法を自負しており、かなりのフィデリティを抱いている。そして銃、中絶、同性婚などのような重要な問題は憲法解釈に左右されることが少なくないため、憲法解釈方法ひいてはその先にある憲法観をめぐる議論のゆくえが耳目を集めてきた。論争が進むにつれて「生ける憲法」対「原意主義」という対立構造が形成される中、同書(原書)は生ける憲法の議論を書籍として上梓したものである。
ストラウスは憲法を有機的に捉えて、時代を経るにつれて発展すると考える。これに対し、その対立相手である原意主義は憲法の意味が制定された時点に固定化されたものと捉える。換言すれば、ストラウスが提唱する生ける憲法はその名の通り憲法を生きた存在とみなすのに対し、原意主義は憲法制定者の意思が示された憲法典に拘束されるものとする。ある意味、憲法の生死をめぐる争いが展開していたわけである。
二〇二四年現在、生ける憲法と原意主義の論争はなお継続中であり、それどころかむしろヒートアップしている。幾度の論争を経て、議論の内容は高度化・精緻化しているものの、それと同時に両者が融合する傾向にあり、むしろそれとオリジナルな生ける憲法論や原意主義論との間に距離が生じているようにも思える。ゆえに、この論争を理解するためには、まずオリジナルの議論を押さえなければ始まらない。生ける憲法については、その基本書ともいえる本書を読むことが必須である。同時に、その好敵手である原意主義についても、その基本書たるアントニン・スカリア著『法解釈の問題』(勁草書房、二〇二三年)が高畑英一郎教授(日本大学)の手によって翻訳されたばかりである。
土台は整った。あとは頁を捲るだけである。そこには、アメリカ憲法学で最も熱い論争が待っている。
目次
訳者まえがき
謝 辞
序文に寄せて
序章 我々は生ける憲法を求めているか
第1章 原意主義とその罪
第2章 コモンロー
第3章 表現の自由と生ける憲法
第4章 ブラウン対教育委員会判決と生ける憲法の発想(ロー対ウェイド判決)
第5章 憲法典の役割――共通の基盤とジェファーソンの問題
第6章 憲法修正と生ける憲法
訳者解題
あとがき
訳注
人名索引
事項索引