現代アート入門
現代アート入門
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デイヴィッド・コッティントン 著
松井裕美 訳
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現代アートがどのように社会と関わってきたのか、それが社会においてどのような位置を占め、どのような意味を持つのかを問うための入門書である。つまり本書は、概要を「知る」だけの入門書ではなく、知識から出発しながら「問いを立てる」ための入門書でもあるのだ
問いを立てる
さて、「問いを立てる」ためには既知を疑い、普段何気なく感じている「好き嫌い」から一旦距離を置く必要がある。だが一般のアート・ファンからアーティストまで、美術の初学者から美術家・美術史家まで、現代アートの価値を確信する者から、それへと懐疑の眼差しを向ける者まで、人それぞれに知識も趣味も習慣も異なり、それによって問いの出発点も様々である。
「問いを立てる」ために、既知を疑い、「好き嫌い」から距離を置く
問いの出発点も様々
そうではなく、相対化された歴史的観点から、現代アートについての言説を構成している諸要因を見極めようとしているのである。賛否両論、どちらから切り込んでも構わない。だが読者がそのどちらから出発するにせよ、その反対の意見にも歴史的な起源があり、社会的ないしは政治的な要因と動機づけがあることが、本書をとおして徐々に明らかにされる。
相対化された歴史的観点
反対の意見にも歴史的な起源があり
社会的ないしは政治的な要因と動機づけがある
「周縁(マージナル)」と「メインストリーム」、「天才」と「著名性」、「男性(性)」と「女性(性)」、制度に抗う反骨精神と新たに整備された近代美術館の制度との結託、「西洋」と「非西洋」、内省的な形式に宿る純粋性と大衆文化をも取り込むハイブリッド性、モダニズム的な「本質主義」とポストモダニズム的な「相対主義」、そうした概念のペアリングのなかで、結びつきと対立、矛盾と総合の歴史が紡ぎ出されていく。
概念のペアリング
「周縁(マージナル)」と「メインストリーム」
「天才」と「著名性」
「男性(性)」と「女性(性)」
「西洋」と「非西洋」
「本質主義」と「相対主義」
etc…
結びつきと対立
矛盾と総合
そこから導き出されるのは、示された様々な見解のどれが正しいのか、という問いではない。そうではなく、本書でも繰り返し出てくる「オルタナティヴ」としてのそれぞれの項目が、芸術家と作品制作、観客、そして美術制度において、どのようなリズムとダイナミズムで配置されていくのかを、歴史の流れのなかで問おうとしているのである。
歴史の流れのなかで問う
モダン・アートが生み出してきた多くの矛盾についての知識と問いとをたずさえたうえで、現代アートに向き合うことである。それは決して「見たまま、感じたままを楽しむ」ような鑑賞のあり方ではない。その根底には、芸術の定義について問い、芸術作品と制度の背景にある社会の様々な問題について考察することを求める著者の姿勢がある
「見たまま、感じたままを楽しむ」ような鑑賞のあり方ではない
芸術の定義について問うこと
芸術作品と制度の背景にある社会の様々な問題について考察すること