流行
流行
ある限定された時間的・空間的広がりのなかで新しく観察されるようになった特定の思考、表現形式、製品などがその社会に浸透し普及していく現象。哲学者ゲオルク・ジンメルによると、与えられた範例の模倣である流行は、上層が創造し下層が模倣する階層的なものであり、同調化と差異化の両価性をもつ。社会学者のギュスターヴ・ル・ボンは、カントが指摘した人間の性癖としての模倣性を流行の源泉と見なし、群衆心理において感染していくものであると説いた。また、岡本太郎は芸術家が創造したものが模倣され通俗化していくことを流行と捉え、この流行としてのモダニズムが時代の原動力であると著書で述べている。流行は特にファッションの分野で顕著である。流行は衣服の外にある社会文化的な意味を衣服に対応づけるが、哲学者のロラン・バルトは構造主義的発想による応用記号学という立場からモードの分析を行ない、流行が進歩するものではなく変化するだけであると説いた。世界的にファスト・ファッションが席巻する現代のファッション業界であるが、一方でファッション・デザイナー、フセイン・チャラヤンは、刹那的で商業主義的な流行と距離をとり、哲学的思想や社会批判、衣服のプリミティヴな身体性などの根源的なテーマを掲げる服飾作品を通して、ファッションだけでなく現代美術や建築、デザイン、哲学などの複数の領域を横断している。 リファレンス
ジンメル著作集7:文化の哲学
円子修平、大久保健治 訳
白水社 1976
今日の芸術:時代を創造するものは誰か
光文社文庫 1999
モードの体系:その言語表現による記号学的分析
佐藤信夫 訳
みすず書房 1972
フセイン・チャラヤン:ファッションにはじまり、そしてファッションへ戻る旅
美術出版社 2010