民主主義とは民衆の支配であってそれ以上でも以下でもない
民主主義とは民衆の支配であってそれ以上でも以下でもない
これに対して、いや、民主主義とは人民の多数派の支配だとしても、個人や少数派の権利を尊重するものでもあり、それを保障するのが司法の独立や報道の自由だ、というような反論がありうる。しかし、それが仮に民主政治を支えるものだとしても、それはまた別の理念であって、民主主義それ自体ではない。原理的に言えば、デモクラシーとは古代ギリシアに由来する「デモス(民衆/人民)」の支配であって、それ以上でも以下でもない。マイノリティの権利を擁護し多様な意見を尊重すること、また多数決を採用することでさえ、それは民主政治のひとつの手法であってその目的ではない。
デモクラシー(民主主義)とは古代ギリシアに由来する「デモス(民衆/人民)」の支配であって、それ以上でも以下でもない
その点で、多様な意見の代表ないし政党による討議に基づく代議制=議会主義も、民主主義そのものとは別物である。かつてそう喝破したのは、ドイツの思想家・法学者のカール・シュミット(1888-1985年)である(『現代議会主義の精神史的地位』1923年)。シュミットによれば、民主主義は国民の平等(=同質性)に基づいて治者と被治者の同一性を前提とした統治である。これに対して、議会主義は国民の不平等と個人主義に基づいて治者と被治者の差異性を前提とした統治であって、これは民主主義というよりも自由主義の一種と言うべきである。したがって両者、要するに民主主義と自由主義とは明確に区別されなければならない。 民主主義は国民の平等(=同質性)に基づいて治者と被治者の同一性を前提とした統治である
議会主義は国民の不平等と個人主義に基づいて治者と被治者の差異性を前提とした統治である。これは民主主義というよりも自由主義の一種と言うべきである。 民主主義と自由主義の違い
問題は、民主主義がその原理からして、「デモス」の一体性を求め、そうでないものを排除しうるところにある。人民の支配と言っても、まずは「人民」とは何かが問題となり、人民とそうでないものとが分類される。確かに全員が「人民」ということはありうる。そこに表向きは、外部(敵)はないのかもしれない。しかし、小規模でよほど同質的なコミュニティでもないかぎり、そうあることは難しい。まして、現下のグローバル化する世界においては、そのような同質性を民主国家内で維持することが不可能であることは明らかだろう。逆に、それが国民には移民の増加によって毀損されていると感じられる・・・・・がゆえに、一体性を強く求め、そのために強い権力が求められているようにも見える。
問題は民主主義が「デモス(民衆/人民)」の一体性を求めそうでないものを排除しうるところにある
「人民」とは何か
一体性を強く求め、そのために強い権力が求められている
もうひとつの問題は、民主化と世俗化(脱魔術化)が急速に進んだ結果として、民主主義自体が「宗教的」様相を帯びるようになったということである。つまり、人びとのアイデンティティ、あるいは生きる意味のようなものを確証してくれる宗教ないしは〈信じるもの〉の力が弱まるなか、私や私たちの存在証明が民主政治に託されるようになったということである。特に冷戦体制の崩壊で、「世俗宗教」としての共産主義への信用も衰微して以降、その傾向がますます強まっているのではないか。現代フランスの政治思想史家、マルセル・ゴーシェはこれを「代替宗教の破綻」と評した
民主化と世俗化
宗教の力が弱まるなか、私たちの存在証明が民主政治に託されるようになった
冷戦体制の崩壊
「世俗宗教」としての共産主義への信用の衰微
こうして〈敵〉と〈味方〉に選別し、それを「正」と「邪」に置き換えるようなレトリックの政治は、確かに「ポピュリスト」のそれだと考えられる。しかし、問題はやはりそれが「民主的」でもありうるということだろう。というのも、人民に代表されている(少なくとも選挙で選ばれた)〈我々〉に歯向かう〈彼ら〉は「人民の敵だ」という指摘は、理屈の上では一応成り立つからだ。しかも、それがいまや妥協を許さない「神々の闘争」の様相を呈している。そのなかで、近代化(=脱魔術化?)したはずの時代には信じられないような偏見や迷信、陰謀が大きな力を恢復しつつある。 〈敵〉と〈味方〉に選別し、それを「正」と「邪」に置き換えるようなレトリックの政治は、確かに「ポピュリスト」のそれだ 問題はそれが「民主的」でもありうるということ
妥協を許さない「神々の闘争」の様相を呈している
近代化(=脱魔術化?)したはずの時代には信じられないような偏見や迷信、陰謀が大きな力を恢復しつつある
もちろん、その種の闘争は今に始まったわけではない。民主化=宗教化の原点を求めて歴史をひもとくと、私たちはひとつの歴史的事件に出くわす。1789年、フランスで勃発した大革命である。その原理は、フランス革命のなかで初めて典型的なかたちで現出した。よく考えてみれば、先ほど述べた民主主義の手法、民主政治を維持するための条件や理念(=自由主義)というのはそれ以後、19世紀と20世紀を通じて人類がさまざまな挑戦を経て「権利」として勝ち取ってきたものである。フランス革命に立ち返って考えることは、それらのヴェールをとりあえず剥ぎ取って、民主主義をある意味で原初状態のもとで理解するに等しい。
民主化=宗教化の原点
フランス革命
民主主義の手法、民主政治を維持するための条件や理念(=自由主義)
原初状態