日本で草地が10万年以上維持されてきたことを実証
日本で草地が10万年以上維持されてきたことを実証
日本の草地の歴史に関して、国土の17%を覆う「黒色土」が注目されてきました。黒色土は草本植生が長期間繁茂した環境下で発達するとされることから、黒色土が日本国内に広く分布するという事実は、草地が広域的かつ継続的に維持されてきたことを示すと考えられます。一方で、植生の変遷を調べる際に用いられる花粉分析からは、日本で継続的に草地が維持されたという確固たる証拠は見つかっておらず、両者の間には大きな隔たりがありました。また、黒色土は草地に確実に由来するという統一的な結論は得られておらず、花粉分析は花粉が分解されにくい湿潤環境の堆積物に限定されます。このため、黒色土の分布と花粉分析、いずれも乾燥した草地の歴史の再構築には限界がありました。
林業や野焼きなどの人による自然の攪乱は、温暖多雨な日本で草地を維持するのに貢献してきました。そのため、黒色土が発達するほど長期的に草地が維持されるには、1万年以上前から継続的に人の手が自然に加えられる必要があったと指摘されてきました。本研究の結果はこの仮説を支持するものです。100年前まで人為的に維持されてきた草地は、最終氷期に広がっていた疎林や草地で繁栄し、その後の温暖化・湿潤化によって生息場所が失われたために減少するはずだった草地性生物の逃避地になったと考えられます。人類によって地球環境は近年大きく劣化しており、地球は新たな地質時代―人新世―に入ったと指摘されています。一方で、本研究で明らかになった日本の草地の長い歴史は、人類が地球環境の改変や維持に果たしてきた役割、特に林業や農業が草地や草地性生物を維持してきた役割の歴史的な重要性を示しています。