医学博士論文に潜むハゲタカOA
医学博士論文に潜むハゲタカOA
――最近は,一般紙でハゲタカOAの問題が取り上げられるなど,日本国内でも関心が高まっています。佐藤先生による医学博士論文の抽出調査がその一環として紹介され,話題となりました(2018年12月16日付・毎日新聞)。調査の経緯を聞かせてください。
佐藤 なぜハゲタカOAに論文を投稿するのかというと,もちろん「だまされる」,つまり査読があると思って投稿する人は存在します。その一方で「悪意がある」,つまりハゲタカだと知っていて投稿する人も一定数いるわけです。
では「後者の動機は何か」と問い詰めていくと,事情があって論文業績を至急増やす必要に迫られたとき,例えば博士論文の提出前であろうと考えたわけです。査読付き雑誌への論文掲載を博士号授与の要件として指定している大学がほとんどですからね。
――論文がなかなか採択されず,誘惑に負けてハゲタカOAを選ぶという心理ですね。調査手法についても簡単に教えてください(註1)。
佐藤 博士論文データベースのCiNii Dissertationsを用いて,授与学位名に「医学」を含む博士論文のうち,2017年に授与されたもので,かつ本文が機関リポジトリで公開されている1381本を最初にスクリーニングしました。ただ全部を調査するのは手間がかかりすぎるので,そこから無作為に抽出した200本を調査対象としました。
実際に調べてみると,「全文をダウンロードできない論文」「博士論文の元となった査読付き雑誌掲載論文の情報が本文のどこにも書かれていない論文」などがあり,それらを除くと最終的な調査対象は106本となりました。
――入手できないものが一定数あるのですね。
佐藤 学位規則改正によって博士論文はインターネット上で公表することが原則になったのですから,これでは困りますね。医学に限った話ではなく,大学の機関リポジトリ全体の問題だと思います。
それはともかく,米国の研究者らがまとめたリストを用いてハゲタカOAの疑いがある雑誌に掲載された論文を調べると,106本中8本(約7.5%)が該当しました。
――事前予想としてはどれぐらいでしたか。
佐藤 なんならゼロもあり得ると思っていました。サンプル数が少ないので確かなことは言えませんが,もしこの割合が全体に当てはまるとすると,単純計算で年間100人程度がハゲタカOAを利用して医学の博士号を取得していることになります。決して無視できる数ではないですよね。