体系化が得意で共感が苦手な人たち、共感が得意で体系化が苦手な人たち
体系化が得意で共感が苦手な人たち、共感が得意で体系化が苦手な人たち
アスペルガー症候群の人が、極端に男性的な脳をもち、体系化が得意で共感が苦手なら、極端に女性的な脳をもち、共感は得意だが体系化の苦手な人もいるにちがいない。確かに、どこにでもそんな人がいる。しかし、この組み合わせの人は、病気とは見なされない。共感の能力が乏しい人よりも、体系化の能力が乏しい人のほうが、現代社会ではふつうに暮らしやすいのだろう。だが石器時代には、そうでなかったかもしれない
過去、人類の進化の過程で、体系化が得意で共感が苦手な人たちも淘汰されなかった
アスペルガー症候群
生存競争の上で優位な部分があった
現代、共感は得意だが体系化の苦手な人たちが社会的に優位となっている 体系化が得意で共感が苦手な人たちは「病気」とみなされている。社会的に淘汰されようとしている バランス
社会的な世界と物理的な世界との対比は、人間の脳のしくみを知る重要な手がかりになるかもしれない。一九世紀の心理学者フランツ・ブレンターノは、世界を明確に二種類の実体に分けた。志向性のある実体と、そうでない実体である。前者は、自発的に動くことができ、目標や欲求をもてるが、後者は、物理法則に従うだけだ。なかには両者の境目にあって分類できないものもある──植物はどうか?──が、だいたいうまく分けられる。 志向性のある実体
志向性のない実体
男は女よりも「日常の物理」に関心があり、女は男よりも「日常の心理」に関心があるのだ。サイモン・バロン゠コーエンの研究の主題である自閉症は、社会との接触が難しく、男の子がなりやすい症状だ。バロン゠コーエンは、アラン・レスリーとともに、自閉症の男の子は他者の心を推理しづらいという見方を初めて示したが、今では推理でなく「共感」と言っている。 共感
興味深いことに、アスペルガー症候群の子どもの多くは、健常児より「日常の物理」が得意だ。彼らは、明かりのスイッチから飛行機に至るまで、機械仕掛けのものに夢中になるだけでなく、世界を工学的な視点で眺め、物事や人々の背後にある原理を理解しようとする。事実の知識や数学で早くから才能を発揮し、父親や祖父が技術者である割合も健常児の二倍以上になる。自閉症の傾向を診断する標準検査では、科学者がそうでない人よりもスコアが高く、物理学者やエンジニアは生物学者よりスコアが高い。バロン゠コーエンは、数学界のノーベル賞と言われるフィールズ賞を受賞したアスペルガー症候群の数学者について、こう語っている。「彼は共感をもてない」 「彼は共感をもてない」
「日常の物理」は、サイモン・バロン=コーエンが「体系化」と呼んでいる能力のごく一部にすぎない。体系化は、自然や技術や抽象概念、さらには人間社会における、インプットとアウトプットの関係を分析する能力であり、原因と結果、規則性と原理を理解する能力とも言える。バロン゠コーエンは、人間には体系化と共感という二種類の心的能力があり、両方とも得意な人もいるが、片方だけが得意な人もいると考えた。 体系化