ロシア空軍の誘導滑空爆弾
ロシア空軍の誘導滑空爆弾
海上自衛隊幹部学校 戦略研究室 3等海佐 米田 光一
しかし、半年もたたないうちに、ロシア空軍の誘導滑空爆弾は厄介な問題だと認識されはじめた。2023 年 9 月 5 日、ロシアの有名なテレグラムチャンネルである FlightBomber が、ロシアの新型誘導滑空爆弾である FAB-1500M-54 UGCM(Universal Gliding and Correction Module)について報じたのである12。
12 UGCM は UMPK と記載されることもあるが、これはロシア語表記「УМПК: Унифицированный Модуль Планирования и Коррекции」に依る表記である。
FAB-1500M-54 UGCM の性能自体は、前述の UPAB-1500 V と大きく異なるところではない(誘導:GLONASS 衛星、滑空距離:25nm(46 ㎞)、CEP:15yds)13。
13 当該兵器の性能については、情報源によって幅が存在するため、記載の数字は参考のための推定値である。
注目すべきは、既存の自由落下式の汎用爆弾(FAB-1500M-54)に UGCM というキットを取り付けることにより、誘導滑空爆弾に作り替えることができるという点である14。
14 UGCM を装着した誘導滑空爆弾の存在は以前から確認されていたが、情報は断片的なものに限られていた。
Russian FAB-1500-M54 bomb with UMPK kit, January 12, 2024
https://gyazo.com/1fa6dae8078c86eb3e749814d35f16ea
https://gyazo.com/c691c92b41b2cbf4283bfa9998dc9aec
FAB-1500-M54 bomb
https://gyazo.com/406d1bfd9fd2bbb1f9e66fa1d80cd993
また、米国製 JDAM に倣うのであれば、UGCM の改良を通じた滑空距離の延長も可能となる15
15 JDAM の派生型として、JDAM-ER(Extended Range)が挙げられる。JDAM-ER は折り畳み式の翼を取り付け
るなどして滑空性能を向上させ、JDAM の約 3 倍遠く(JDAM: 15 miles (24km)、JDAM-ER: 45 miles (72km))から、精密爆撃を実施することが可能とされる。JDAM 及び JDAM-ER については以下を参照のこと、
また、推進用エンジンを取り付け、さらなる射程延伸を企図した Powered JDAM( PJDAM)の開発も進められている。PJDAM については以下を参照のこと、
これは、UGCM の生産によって、弾薬庫に多量に保管されているであろう既存の自由落下型の汎用爆弾が、精密誘導兵器に生まれ変わるということを意味する16。
16 ロシア空軍は様々なサイズ、用途の爆弾を保有している。FAB は高性能炸薬を使用した爆弾であり、1500 ㎏ より小さいものでは、250kg および 500kg の爆弾が存在する。ロシア空軍の使用する爆弾の呼称、種別などについては以下を参照のこと、
UGCM の生産コスト(費用、資 源、期間等)は低く、量産体制が整うのは時間の問題とみられ、ウクライナ軍は「大いなる恐怖(one of the biggest fears)」を抱かざるを得ない年末を迎えていた17。そして前述のとおり、ロシア製誘導滑空爆弾の脅威は戦場で現実のものとなった。現在ウクライナ軍に、ロシア軍が空地一体で攻勢をかけてくるという新たな問題に対処するため、防空能力強化への渇望が今まで以上に生まれているであろうことは想像に難くない。