リスクマネジメントとイノベーション
リスクマネジメントとイノベーション
リスクマネジメントは、将来やってくるリスクに対して備えるという点で、受動的なイメージを持つ人もいるかもしれませんが、実は能動的なイノベーションも重要です。実際、JIS Q 31000には以下のようなリスクマネジメントの原則が明記されています(4章)。
リスクマネジメントの意義は、価値の創出及び保護である。リスクマネジメントは、パフォーマンスを改善し、イノベーションを促進し、目的の達成を支援する。
ここで、迫り来るリスクに対してなんで「価値の創造」とか「イノベーション」が出てくるの…? と思う人も多いかもしれません。今回のコロナウィルスのように喫緊の危機の際はなおさらイノベーションなどをしている余裕はなさそうに思えます。しかし、冷静に考えると、これまでにない未曾有の危機に際しては「今まで通り」の漫然とした対応では通用しない場合があり、あらゆる可能性を考えながら「より良い方法はないか?」と解決策を探していくことが必要とされることがほとんどです。
価値の創造
イノベーション
「今まで通り」の漫然とした対応では通用しない
「イノベーション」とは、日本語では「技術革新」と翻訳されがちですが、イノベーション理論の祖とも言われるヨーゼフ・シュムペーターの『経済発展の理論』によると(同書では「イノベーション」ではなく「新結合」という用語で表現されますが)、「新しい生産方法」、「新しい組織の実現」など、必ずしも科学的に新しい発見に基づく必要はなく、むしろ組み合わせや仕組みを変えることに重きが置かれており、このことこそがイノベーションを語る上で重要です。 新結合
「イノベーション」ではなく「新結合」
新しい生産方法
新しい組織の実現
科学的に新しい発見に基づくものではなくて、組み合わせや仕組みを変えること
「ものづくり」大国ニッポンは要素技術を開発するのは得意なようですが、それに対して「しくみづくり」の方は苦手のようで、ルールや法制度も含め「仕組みを変える」タイプのイノベーションがこれまで重視されてきたとは言えない状況です。特に、専門家もこの罠に陥りがちで、その専門分野で確立された「常識」や「権威」を嵩に着ると、その分野独自の「常識」に足を取られ専門家自身がイノベーションの目を摘みリスク低減のチャンスを逃すこともあります。
専門家の中でも、インクリメンタル(漸進的)なイノベーションは許容するけれどドラスティックな(劇的な)イノベーションには拒否感を示すような、パラダイムを乗り越えられない人たちも残念ながら少なからず存在します。ちなみにパラダイムという用語は今では哲学用語のようにふんわりと使われていますが、元々はトーマス・クーンが『科学革命の構造』の中で科学史の見地から量子力学を考察した際に提唱した概念であり、その当初から科学イノベーション(とそれに対する無理解)に関する用語であったということは、科学に携わる全ての人が知っておいた方がよいでしょう。持てる知識を最大限発揮して出来ない理由を挙げるのに全力を尽くす「専門家」もSNSでしばしば見かけますが、そのような姿勢はイノベーションを阻害しその分リスクを押し上げる可能性もあります。「より良い方法はないか?」「状況が変わったら「今まで通り」で大丈夫か?」を常に探求するのが専門研究者の本来の仕事です。 インクリメンタル(漸進的)なイノベーションは許容するけれどドラスティックな(劇的な)イノベーションには拒否する人たち
パラダイムという用語は科学史の見地から量子力学を考察した際に提唱した概念
「より良い方法はないか?」
「状況が変わったら「今まで通り」で大丈夫か?」