ユークリッド『原論』とは何か
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『幾何学に王道なし』はユークリッドの名言として知られている.それ以上に永久不滅なのは,著書『原論』である.命題・定理・証明という今日の数学書のスタイルを決定づけた本書は,一方,あまりに無駄のない記述がゆえに多くの謎に包まれる.誰に向かってなぜ書いたのかなど,原文を読み解きながら,その真相に迫る.
数学に縁のない方でも,ユークリッドの名はどこかで聞いたことがあるという方は多いはずです.数学の本を開いて,おそらくもっとも出会う名前といってもよいかもしれません.ユークリッド幾何学をはじめ,ユークリッドの名を冠した用語もかなりあります.それほどユークリッドを有名にしているのは,まさにその著書『原論』にあります.しかし,13巻から成る『原論』を実際に読んだ方となるとほとんどおられないのではないでしょうか.
記述の中で有名なのは「直線外の1点を通ってその直線に平行な直線は1本あって1本に限る」という「平行線公準」ですが,これは現代的な言いまわしで,『原論』にはこう書かれているわけではありません.
では,どう書かれているのか.当然ながら,古代ギリシア数学のオリジナル本は残っていません.いろんな人の手を経た写本,それも不完全な写本からしか読み取ることができないのです.しかも,古い写本だからといって必ずしも正確とは言えず,複数の写本を見比べながら,忠実に吟味してしくしかないのです.そのなかで,驚くべきことが見えてきました.
著者ならではのこれまでの研究成果と深い洞察を踏まえて,科学ライブラリーの読み物として,『原論』の世界にご案内します.
目次
第1章 『原論』とはどんな本か
二千年以上前に書かれた数学書/聖書に次ぐロングセラー/『原論』の概要 ほか
第2章 数学の論証スタイルの決定版――『原論』第I巻
序文のない著作/定義をめぐる問題/要請と共通概念/サボーの仮説 ほか
第3章 幾何学 vs.代数学――『原論』第II巻
第II巻をめぐる論争/ウングルの挑戦とヴェイユの怒り/主張の真意は ほか
第4章 初期ギリシア数学の歴史――『原論』の背景
論証数学はいつ始まったのか/隠されてきた起源/ユークリッドは誰か ほか
第5章 図版はどう扱われたか――『原論』第III巻
写本図版はどこまでオリジナルか/写本に見られる図版の扱い方 ほか
第6章 解析という方法――『原論』第IV巻
ギリシア数学の作図問題/比例と相似/線分の分割 ほか
第7章 語られた数学と書かれた数学
言明とは何か/言明の役割/対話のなかで教える数学 ほか
第8章 比例の定義と非共測量――『原論』第V巻
比例の定義/ガリレオの不満/『原論』とは何だったのか ほか
関連図書
あとがき