ミロンと仔牛
漸進性の原則
反復性の原則
citius, altius, fortius
ラテン語
faster, higher, stronger
英語
古代世界で最も有名な運動選手といえばクロトンのミロン(前6世紀後半)であろう。オリンピア競技祭で6度、ピュティアでも6度、イストミアで10回、ネメアで9回、レスリングで優勝した。牡牛を担いで競技場内を一周し、一撃の下に殺し、一日でそれを食べたとか(アテナイオス『食卓の賢人たち』412F)、油を塗った円盤の上に立ち、ここから押し出してみろと挑発したが誰にもできなかったとか、ガットを額に巻き付け、息を止め血管を膨張させるだけでそれを切ったとか(パウサニアス『ギリシア案内記』6.14.5以下)、柘榴を手に握りしめると、どんなレスラーにももぎ放すことができなかったが、惚れた娘だけは難なくそれができたとか(アイリアノス『ギリシア奇談集』2.24)、多くの怪力伝説が伝えられている。 ミロンはいかにしてより強くなったのか。修業時代、彼は毎日仔牛を抱き上げ、日々成長する牛の重さに合わせて自分の力を増大させていったという。これも伝説であろうが、このままの話形を示す出典を知らない。クインティリアヌスは子供に弁論術の初歩を教えるのに、警句や逸話や縁起譚を書き取らせ書き換えさせるのがよいとして、逸話的な句として「ミロンは、子牛のころから担ぎ慣れていた牛が牡牛に成長した後も担いでいた」(『弁論家の教育』1.9.5。森谷宇一・戸高和弘・伊達立晶訳)というのを紹介しているが、これが件の伝説に相当するのであろう。
中務哲郎
麦芽飲料「ミロ」は、1934年オーストラリア生まれ。紀元前600年ごろのギリシャ神話に出てくるチャンピオンアスリート、Milon(ミロン)が製品名の由来です。今では世界40カ国以上で販売されている人気の飲料「ミロ」。日本では『強い子のミロ』をキャッチフレーズに、1973年に発売されました。
あなたが雄牛を背負えるほど力持ちだったら、と想像してみてください。紀元前6世紀、オリンピックで6度の優勝をなしとげたギリシャのクロトン出身のミロンという選手は雄牛を背負うことができたという伝説があります。
これは神話の物語です。明らかな動物擁護の問題は別として、雄牛を肩にかつぐことができるとしたら、あなたはやってみたいですか? ちょっと恐ろしいですね。