カントとカモノハシ
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難解だけれど、愉快な本だ。判断の基礎理論に取り組んだカントと、あらゆる分類の試みに挑戦するために生まれてきたかのようなカモノハシ。その二つの象徴のあいだに、本書は居座る。たとえば妻を帽子と間違わないでいられる、あるいは◎と横線の交差した図を自転車に乗るメキシコ人と見てしまう、そのように、何かを何かとして認知するのはどういうプロセスでなりたっているのか。この問題をめぐって、指示・認知・類似・真理をめぐる哲学の議論が飛び交う。が、話のかみあわなさ、勘違い、錯覚など、動員される事例がなんとも軽妙洒脱(しゃだつ)で、まるで推理小説のような語り口。そして、意味は「好意」と「契約」によって確定されるという、魅力的な議論。 緻密(ちみつ)な論理の連続なのに読者の気を逸(そ)らすことがないのは、エーコが、ひとの経験や認知の<媒介の構造>を問うという二十世紀哲学の問題の核心にずばり迫っているのと、そして何よりも人間好きであるからだ。