やっぱりクルマは100万キロ走らないと分からないでしょうね
やっぱりクルマは100万キロ走らないと分からないでしょうね F:負けちゃったけどいいレースだった、というのはダメですね。
辰:ああ、ダメですね。レースはやっぱり勝たないとダメなんです、本当に。勝たないと誰も信じてくれないので。負けるにしても、自分自身がここまではよく頑張ったなと。だけど負けたんだから、来年はヨシャ、ここからもっと先の世界に行って勝ってやろうと。そういう強い思いの人がいれば、それは価値があると思いますけどね。
F:すると、レースは同じ人がずっとやり続けた方がいいですか。コロコロと担当が変わるのはよくないですか。
辰:私はそう思いますね。これはレースに限らず、どんな仕事でもそうじゃないかと思う。その分野での完全な専門家を育成していく必要があると思いますね。本当に極めたいなら、やっぱりその道で50年ぐらいやらないと
F:50年。死んじゃいますよ。
辰:うん。50年もやったら死んじゃうんだけど、それくらいやらないと、その分野の本当の世界って見えてこないと思いますよ。そう言えば昔シート屋の大ベテランの職人さんと話していてね、その人が、「辰己さん、やっぱりクルマは100万キロ走らないと分からないでしょうね」と言うんです。
F:ひゃ、100万キロ!
辰:そう。100万キロ。そう言われて、すごく納得できたんです。100万キロも走ると、とにかくクルマの中からクルマを考えるようになると。そうすると何かが見えてくる。私も会社の若い連中に同じことを言うようになりました。本気でクルマを開発しようとするならば、100万キロぐらいは走ろうよと。
F:辰己さんは100万キロドライブを達成されたのですか。
辰:私はもう、とうの昔に達成しています。100万キロ走って50歳ぐらいになると、嫌でもクルマってもっとこうなんじゃないか、こうあるべきじゃないかという自分なりの思いができてくるんですよ。クルマの中からお爺さんを見たり、自転車を見たり、歩行者を見たりしていると、この人たちをもうちょっといたわって運転しようよと。若い奴があんなに速い、高性能なクルマに乗って、高齢者マークを付けたクルマを邪魔者扱いして乱暴に追い越す必要があるのか……というのが、街中でね。何でそんなに冷たくなっちゃったの。何でそんなに急いでいるの、というのがありますね。