たった三十七個しか使われていない論理ブロックのうち、五つは他の論理ブロックと繋がっていないことがわかった
第一章 数学する身体 「脳から漏れ出す」
ここで紹介したいのは、そんな人工進化の研究の中でも少し変わったもの、イギリスのエイドリアン・トンプソンとサセックス大学の研究グループによる「進化電子工学」の研究である。通常の人工進化が、コンピュータの中のビット列として表現された仮想的な個体を進化させるのに対して、彼らは物理世界の中で動くハードウェアそのものを進化させることを試み 最終的に生き残ったチップを調べてみると、奇妙な点があった。そのチップは百ある論理ブロックのうち、三十七個しか使っていなかったのだ。これは、人間が設計した場合に最低限必要とされる論理ブロックの数を下回る数で、普通に考えると機能するはずが
さらに不思議なことに、たった三十七個しか使われていない論理ブロックのうち、五つは他の論理ブロックと 繫 がっていないことがわかった。繫がっていない孤立した論理ブロックは、機能的にはどんな役割も果たしていないはずである。ところが驚くべきことに、これら五つの論理ブロックのどれ一つを取り除いても、回路は働かなくなってしまった
実は、この回路は電磁的な 漏出 や 磁束 を巧みに利用していたのである。普通はノイズとして、エンジニアの手によって慎重に排除されるこうした漏出が、回路基板を通じて伝わり、タスクをこなすための機能的な役割を果たしていたのだ。チップは回路間のデジタルな情報のやりとりだけでなく、いわばアナログの情報伝達経路を、進化的に獲得していた 物理世界の中を進化してきたシステムにとって、リソースとノイズのはっきりした境界はないのだ