あなたが科学者であるかどうかは、肩書きではなく、何をするかによって決まる
あなたが科学者であるかどうかは、肩書きではなく、何をするかによって決まる
1960年にノーベル医学生理学賞を受賞したピーター・メダワーは、『若き科学者へ』(みすず書房)の序論の中で、あなたが科学者であるかどうかは、肩書きではなく、何をするかによって決まる、と言っています 仮に、今、あなたは公共の水泳プールに雇われている従業員で、細菌やカビなどの繁殖を監視しているとしましょう。意欲的なあなたは、細菌学や菌類学を学ぶかもしれません。そうすれば、人間にとって快適なプールの温度と湿度が、微生物の繁殖にも適していることを知るでしょう。しかし、細菌やカビ類の繁殖を抑えるために塩素を増やせば、人体に害が及びます。そこで、あなたは次のような問題を考え始めます。経営者に莫大な費用を出させたり、客足を遠のかせたりすることなく、細菌やカビ類を抑える最善の方法は何だろう、と。この問題を解くために、あなたは小規模な実験をして、いろいろな浄化法の効果を比べてみます。微生物の濃度とプール入場者の人数の関係を記録し、その日の予想入場者数に応じて塩素の濃度を調整してみます。こういうことをするなら、あなたは単なる従業員としてではなく、一個の科学者として行動しているのだ、とメダワーは言っています。
ある意味ではその通りです。あなたはお決まりの科学的手順を機械的に遂行するのではなく、自発的に学んで頭と心を働かせ、あなたならではの問いを見つけました。これは科学研究の大事な要件を満たしています。ただ、その問いを解くために、実験をどのようにデザインしたかが問題です。いろいろな浄化法の効果をどのように比較し、微生物の濃度をどのように測定したでしょうか。たとえ最新の機器を使っても、それらの方法が適切でなければ、あなたの実験は科学的とは見なされず、結果を信用してもらうことはできません
実験が科学的であるためには、いくつか満たすべき条件があり、考慮すべき事柄があります。それらの条件や事柄は、科学者たちが長い年月をかけて練り上げてきたものです。中には、ともすれば見落としがちなものも少なくありません。本書を読めば、そうした要注意事項を単に知るだけではなく、いつもそれらに気をつけるようになるでしょう。