『誰それ入門』シリーズ(ちくま新書)
ちくま新書の『誰それ入門』シリーズ
エッセイでとりあげる本を選ぼうとしてちくま新書の哲学関連ラインナップを眺めていたら、ほとんどすべてを読んでいることに気づいた。我ながらよいお客さんだなあ、と感じ入る。とくに『誰それ入門』シリーズにはお世話になりっぱなしだ。永井均さんの『ウィトゲンシュタイン入門』や石川文康さんの『カント入門』。とりわけ『カント入門』は、「やっ、今日の授業で『判断力批判』に触れるんだった」というときなど(私にもそういうことがあるのだ)、あんちょことしていつも目を通す。誰それ入門シリーズは粒ぞろいで、どれも安心して推薦できる
というわけで、哲学とは哲学っぽいことを哲学っぽく考えることなのでした。この「哲学っぽく考える」ってところがミソだ。しかしそれっていったいどういうことなの? 伊勢田哲治『哲学思考トレーニング』は、この問いに正面から答えようとした怪作だ。なーんだ。それってよくある「クリティカルシンキング本」でしょと言う奴は、もう金輪際、本なんか読まなくていいからね。そこで、この本の哲学書としての重要性について論じよう。残り字数が尽きかけているというのにだ。 伊勢田本は、哲学っぽく考えるとはどういうことかを明らかにし、それはもうちょい下世話でフツーのことを考えるときにも役に立ちますよと主張する。伊勢田さんが考える哲学的思考のキモは「ほどよい懐疑主義」だ。懐疑とは自他の議論にツッコミを入れることを言う。