「自分が流れに乗って進んでいる」という感覚が一番大事
「自分が流れに乗って進んでいる」という感覚が一番大事
計算できない自然を相手にするので、せめて自分の体はできるだけ完璧にコントロールしたい。
イメージとしては、道路を走って行って電柱につかまって方向転換するのを想像してもらうと、わかりやすいかもしれません。この電柱が水面に突き立てたパドルであり、ある意味では自分自身も電柱の一部になって、カヌーを回しています。
カヌーには教科書がないんですよ。もちろん、動きの基本はありますけど、やっぱり自然は計算できないので、状況に応じてどう判断して行くかが重要だと感じます。
当然ですが、お経を読んだからって、競技が強くなることはありません
でも、自然を相手にするカヌーという競技では、そこまで不利に働かないとも感じますね。川底や水量、風などさまざまな要因が複雑に絡み合い、事前のイメージ通りに競技が進むことは、ほぼない。基本的なことさえ習得していれば、重要なのはその瞬間瞬間の判断力なんですよ。
カヌーは「どうやってゲートを通過しよう」なんて、細かく考えても仕方ないんです。自然を相手にする以上、想定外のことは必ず起こりますから。
だからその過程で「絶対にこうターンしなければ」と決めたり、考えたりしてしまうだけでも良くない。だって、もし想定どおりに行かなかったら、せっかくゲートを通過できても「失敗」したということになってしまうじゃないですか。
だったら最初から、過程がどうこうとかは想定しない方がいい。そうすればそもそも人生から「失敗」もなくなりますからね。
「自分が流れに乗って進んでいる」という感覚が一番、大事ですね。僕、カヌーでとにかくスムーズに下ることに関しては、定評があるんですよ(笑)。人生も同様にスムーズに進めるように、いつも心がけています。カヌーよりもずっと難しいですが…。
矢澤一輝選手は、カヌー選手だった父の指導で小学1年で競技を始めた。2013年に出家し3大会連続出場となるリオデジャネイロ大会時は善光寺の僧侶だった。その後、僧侶を辞めカヌーの村おこしを進める青森県西目屋村に移住。村職員として東京を目指す。