3つのシナリオ
3つのシナリオ
3つのシナリオ
シンガポールのように完全にリンクを追い続けて隔離と対処療法で救命という戦略を徹底することは,COVID-19が無症状や軽症でも感染力をもつという特性を考えたら,他の国では現実的でないと思う。国土が広く人口規模が大きいほど人の行動はコントロールしにくいし,人の記憶は完全ではないし,法律その他の行政的施策に従わない人は少なくない。そう考えると,今後のCOVID-19の推移には,大雑把に言って,3つのシナリオがありうると思う。
1. とくに対処せず放っておく
1つ目はとくに対処せず放っておくこと。おそらく低所得国の中には,水道の供給もなく,CTも人工呼吸器もECMOもなく,ほとんど対処できない国もある。西アフリカでエボラウイルス感染症がアウトブレイクしたときに対処が難しい理由と同様に,文化的理由でsocial distancingすら困難な国もある。そういう国や地域では,人口の40-80%が感染し(専門家会議やインペリグループ第9報が80%を採用しているのは,単純なモデルで感受性のまま残る割合が20%という推定だと思われるが,2月15日の時点で,ハーバードSPHのLipsitch教授は,人のmixtureがそう単純ではないので40-70%と推定している),そのうち0.3%が亡くなるので,控えめにみても,1000人に1人が今年COVID-19で亡くなることになる。重症者への対処療法が十分にできないので,悪くするとその10倍くらい亡くなるかもしれない。ある程度人口規模が大きければ,流行曲線がゼロ近くに収束しても完全にゼロにはならず,エンデミックな病となるだろう。十分に医療的対処できても,日本の人口で考えたら約12万人が亡くなることになるので,日本を含む高所得国ではこの戦略は取れない。
2. ロックダウン
2つ目は医療的対処能力の上限を超えるような爆発的感染者急増である「オーバーシュート」が起こりそうになったら都市機能を停止するロックダウンを1~3ヶ月発動し,新規感染者がある程度減ったら都市機能を再開する,ということを,ワクチンか治療薬が開発されるまで数回繰り返すこと。1つ目の戦略に比べると,未感染のまま生き残る人が多くなるため,ワクチンか治療薬が開発されるまで1年半から2年は続けなくてはいけない。武漢でロックダウンの有効性が示されたので,フランスや米国のいくつかの州など,現状この戦略をとっている国はいくつかある。しかし高所得国の都市部は,食糧生産に携わっていない人が多いので,地方から食糧が運び込まれないと飢えてしまう。ロックダウン中の所得補償もされないと,やはり飢えてしまう。ライフラインの維持に関わる職種の人は活動停止できないし(その人たちが職場に移動するための交通手段はどうするのかも考えなくてはいけない),その子供や高齢の親などの世話を誰がするのかということも問題になる。そうした形でかなりの社会的負荷を強いるロックダウンを,数回繰り返すことができるのかというと,たぶん無理だと思う。しかも,止めた途端に第1のシナリオと同じく,十分な割合の人が免疫を獲得するまでの蔓延が起こることになるので,医療的対処を必要とする人のピークは,第1のシナリオより高くなる可能性もある(インペリグループ第9報の1回抑え込み戦略のシミュレーション結果が示している)。仮に3週間なら耐えられても,3ヶ月耐えられるだろうか。そこまで考える必要がある(もっと極端な形として,ほぼ完全に鎖国してしまい,5ヶ月程度のロックダウンにより国内のCOVID-19を完全に終息させ,その後も一人でも感染者がいる可能性がある国との往来は完全に絶つということも,思考実験としては可能だが,実際問題として無理だろう)。
3. クラスター対策
このどちらも受け入れがたいと考え,手探りながらも第3の戦略としてのクラスター対策が何とか奏功しているように見えるのが,日本で専門家会議とクラスター対策班が進めてきた現状である。クラスター対策に加えて,対人距離が元々遠く,蛇口を捻れば安価で清潔な水が使え,子供でも食事の前には手を洗いましょうという衛生教育ができていた日本ではR0が低めだったこともあって,今のところ持ちこたえることができている。これもワクチンか治療薬が開発されるまで,1年半から2年は続けなくてはいけない。止めたら蔓延して第1のシナリオと同じになってしまう。今後感染した帰国者・入国者が増えると,クラスター対策だけでは対処しきれなくなるので,どこまで持続可能な対処を強化できるか皆に考えて欲しい,というのが,先日の西浦さんの訴えかけであった。ぼくは第3の戦略でできるだけ行ってみて(クラスター対策だけではR<1にするのに不十分ならば,さらなる対人接触を減らす戦略を追加することまで含めてクラスター対策班が視野に入れていることが,西浦さんの訴えかけでわかった),それでも「オーバーシュート」が起こってしまったら,少なくとも一時的には第2の戦略に切り替えるしかないと思っているが,これら3つの戦略のどれを取るのか自体,広く社会に問わねばならない,という立場もありうるのか?