近代人の自由と古代人の自由
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21世紀の先進地域に生きる人間にとって「自由」とは空気のようなものである。だが、古代にさかのぼれば、それは奴隷ではなく、自由という身分であった。自由人とは主がいないことであり、自ら実践できることなのだ。ところが、近代人の自由とは享受すべき個人的権利であるはずだという。
この二種類の自由を混同したところに、フランス革命直後の不幸がある、と同時代の著者は指摘する。なるほど、古代人のあいだでは、市民団としては、和睦か開戦かも決められ、公職者の尋問、罷免、断罪、接収、追放、死刑執行にもあたった。だが、ひとりの人間としては、集団の意志にもとづいて、制約され、監視され、抑圧されていた。これを革命直後のフランス人は理解しなかったという。そこに、共和政の理想をかかげながら、やがてナポレオンの独裁を許すことになった理由があったのだ。
小説『アドルフ』の著者として知られるフランス自由主義の思想家バンジャマン・コンスタン(一七六七―一八三〇)の政治論集。古代と近代の自由の違いを明確にした有名な講演、強権的支配を批判してナポレオン後のリベラルな政治体制の確立を訴えた著作とともに、両著を支える重要な小論「人類の改善可能性について」を収録する。
目次
近代人の自由と古代人の自由
征服の精神と簒奪
第四版のための端書
初版前書
第三版前書
はじめに
第一部 征服の精神について
第一章 ある特定の時代の社会状態において戦争と両立しうる徳について
第二章 戦争に関する近代の諸国民の性格について
第三章 ヨーロッパの現在の状況における征服の精神について
第四章 利益によってのみ行動する戦士集団について
第五章 征服の体制において軍人層が堕落することのもう一つの原因
第六章 軍人の精神が諸国民の内状に及ぼす影響
第七章 こうした軍隊の精神が形成されることのいま一つの不都合
第八章 征服を志向する政府が国民の大勢に及ぼす作用
第九章 虚言のもつ効力を補うために必要となる強制という手段について
第一〇章 戦争の体制が知性と教養層とに及ぼす他の不都合
第一一章 征服を志向する国民が今日において自らの成功を検討する際の観点
第一二章 こうした成功が征服された人びとに及ぼす影響
第一三章 画一性について
第一四章 征服を志向する国民の成功が迎える避けがたき終焉
第一五章 戦争の体制が現代にもたらす帰結
第二部 簒奪について
第一章 簒奪と君主政とを比較することの精確な目的
第二章 簒奪と君主政との相違
第三章 簒奪が最も絶対的な専制政治にもまして害あるものとなる状況について
第四章 文明の栄えるわれわれの時代においては簒奪の存続しえぬこと
第五章 簒奪が力によって生き延びることは可能ではないのか?
第六章 前世紀末において人びとに示された種類の自由について
第七章 古代の共和国を真似る近代の模倣者たちについて
第八章 近代人に古代人の自由を与えるために用いられた手段について
第九章 かの自由と称されるものに対する近代人の反発は、彼らのうちに専制政治への愛着があることを含意するか?
第一〇章 ひとりの人間が行う恣意的支配を擁護する詭弁
第一一章 人間存在のさまざまな部分に恣意的支配が及ぼす影響について
第一二章 恣意的支配が知的発展に及ぼす影響について
第一三章 恣意的支配のもとにある宗教について
第一四章 いかなる形態においても、人間がすすんで恣意的支配を甘受するのは不可能であるということ
第一五章 簒奪を持続させる手段としての専制政治について
第一六章 非合法かつ専制的な措置が正当な政府そのものに及ぼす影響について
第一七章 以上の考察から導き出される専制政治に関する帰結
第一八章 とりわけわれわれの文明の時代において専制政治を不可能なものとしている諸要因について
第一九章 専制そのものが今日では存続不可能であるがゆえに、専制政治によって維持されえない簒奪にはいかなる継続の可能性も存在せぬこと
第四版・補遺
第一章 諸制度の刷新、改革、画一性と安定性について
第二章 簒奪についての詳論
附 録 初版第二部第五章
第五章 ウィリアム三世の例から引き出しうる反珎への応答
人類の改善可能性(ペルフェクティビリテ)について
訳 註
訳者解説