色彩について
色彩について
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現代を代表する哲学者ウィトゲンシュタインは、ゲーテの熱心な読者であり、彼に私淑する「弟子」だったと言える。彼が陰に陽に言及しているゲーテの著作は、詩や戯曲、小説、そして自然研究など、およそあらゆる分野にわたっている。今回ちくま学芸文庫に入った『色彩について』も、晩年の彼がゲーテの『色彩論』の影響を受けて書き綴った遺稿である。
色彩論であれ、動植物の形態学であれ、ゲーテの自然研究はウィトゲンシュタインにとって乗り越えるべき批判の対象であり、哲学的思考を惹起する恰好の触媒にほかならなかった。たとえば彼は、「ゲーテの色彩論は、まったく馬鹿げたものではあるが、非常に興味深いポイントがいくつもあって、私に考えるよう刺激を与えてくれる」(Malcolm, N., Ludwig Wittgenstein: A Memoir, Clarendon Press, 1984, 77)と語っている。
色の概念の論理は見かけ以上に複雑だ──。病床にあった晩年のウィトゲンシュタインは、ゲーテの『色彩論』に触発され、死の直前まで「色彩」の問題を考察し続けた。透明で白いガラスはなぜ想像できないのか、「赤っぽい緑」というような色はありうるか、全員が色盲である民族を想像してみよ……。『哲学探究』で示された「言語ゲーム」などの視点を採り入れた「色の論理学」ともいうべき思考実験は、われわれが自明視しがちな色彩概念を根本から揺さぶり、深い探究へと読者を誘う。同時期の遺稿『確実性の問題』にも通底する点がみとめられる、晩期の思想が端的に表れた断片集。
目次
編者まえがき
凡例
第Ⅰ部
第Ⅱ部
第Ⅲ部
第Ⅰ部と第Ⅲ部の対照
解説 村田純一
訳者あとがき
文庫版訳者あとがき