睡眠時間を延長するとアスレティック・パフォーマンスは向上するか
睡眠時間を延長するとアスレティック・パフォーマンスは向上するか
「なるべく早く就寝して、10時間の睡眠を確保する」「寝足りなければ昼寝をする」
まずは有名な「スタンフォード大男子バスケットボールチームの研究」1 から
しかし私はこの研究が、「シーズン中」に行われたこと、そして与えられた指示が「いつもよりなるべく長めに、最低でも10時間くらい寝るように心がけて」という緩いものであったことにこそ意味があるとも思うんです。選手を特定の時間になったら無理矢理寝室に引っ張ったとか、そういう介入ではなく、「なるべく早く就寝して、10時間の睡眠を確保する」「寝足りなければ昼寝をする」という、誰にでもできる「心がけ」程度の介入だったことに実用性があるなと思ったんですよね。完全に被験者の睡眠をコントロールしなかった、そこに我々が実践できる現実味があると言っていいんじゃないかなと。 少しマイナーですが、ボート競技ではどうなのか?高い強度のトレーニングは睡眠に悪影響を与えるとする過去の研究を紹介し、早朝から高い強度のトレーニングをこなす、55人のジュニアのドイツ代表ボート選手(男30人、女25人、平均年齢17.7±0.6歳)の睡眠について検証してみましたぜ!というのがこの論文。 それから興味深いのことに、研究開始6日目にサッカーワールドカップの決勝が夜遅い時間にTV放送されていた関係で(ドイツが決勝に残っていたと予想されます…)、この夜は選手の睡眠時間が平均して1.5時間減(self-reportで347.6±38.4分、p<0.001)。逆に22日目はトレーニングのないオフ日だったので、睡眠時間が2時間弱増加(533.5±38.6分、p<0.001)したそうなんです。睡眠が短かった晩(6日目)の翌朝には多くの選手がその眠りを「less restful (3.1 ± 0.9」と評価、足りない眠りを平均52.8 ± 31.6分の昼寝で補おうとしたのに対して、十分に睡眠の取れた22日目の翌朝は選手が「more restful (1.9 ± 0.7」と感じ、肉体的・精神的な充実感と感情のバランスが十分に取れており、研究期間中最も「回復した」状態にあったそうです。 いやー、Activeな介入があったわけでもないのに関わらず、自然とA-B-A-B的なデザインが出来上がっていて興味深いですね!同じ合宿生活を送っていただけに、かなりの要素(i.e. 食事、トレーニング時間・内容)がコントロールできているのもいい。
「17-19時間寝ていないだけで血中アルコール濃度が0.05%(体重70kgの成人が750mlのビールを飲む程度、飲酒運転で捕まる)と、28時間寝ていないと血中アルコール濃度が0.10%(体重70kgの成人が1.5ℓのビールを飲む程度、もちろん捕まる)なのと同じくらい認知・運動能力が落ちる」というアレ!今まで文章で目にしたことはあったけど、引用があって感動!これ6がその研究なのかー!お初お目にかかりまするー!
本筋に戻って。この論文は1) 睡眠がアスレティック/神経認知パフォーマンスに及ぼす影響; 2) 睡眠と肉体的健康の関連性; 3) 理想的な睡眠とは、という観点からまとめられたNarrative Reviewです。 1) 徹夜すると同じ時間内に走行できる距離が低下したり、早く疲労感を感じるようになったり、心拍数が上がり、休息時に酸素消費量と二酸化炭素生成量が増え、乳酸血が上がるなど、つまるところスピードと持久力が低下する。リフティングに関しては「一日の徹夜ではそれほど影響がなくても、3日睡眠量が減ると挙げられる重量が低下する?」という少しバラツキのある結果が報告されており、具体的に4-5時間の睡眠ではテニスのサーブの正確性、ダーツの正確性が低下するようである。神経認知の観点からは、注意力、判断力と実行力、学習能力の低下も確認されている…とまぁ、睡眠が短くなると悪影響が出る、という研究は数多くある一方、前述のとおり睡眠時間を増やせば良い影響があるのかについて検証した研究は少ない。ここで昨日紹介した男子バスケ、テニスの研究も紹介されており、加えて「あまり寝られなかった日の翌日に30分の昼寝をすると、しなかった場合に比べてAlertnessとスプリントタイムが向上する」と報告された研究も紹介されている。 2) 不十分な睡眠は怪我と病気のリスクを高める。具体的には「8時間未満の睡眠しか取っていない中・高校生は怪我のリスクが1.7倍(95% CI 1.0-3.0)に高ま」り7、「同じ量の活性風邪ウィルスを鼻から注入されても、7時間に満たない睡眠を取っている人は8時間以上取っている人に比べて2.94倍(95%CI 1.18-7.30)風邪を引きやすく8、睡眠時間が5-6時間や5時間を切った場合、風邪を引くリスクはさらにそれぞれ、4.24倍(95% CI 1.08-16.71)と4.50倍(95% CI1.08-18.69)に跳ね上がる9」んだそうである(後者のふたつ…すごい研究だ)。他にも、短い睡眠時間と食生活・代謝ホルモン分泌の乱れの関連性を認める論文や、結果BMIが高くなる、という報告もある。興味深いのは「痛みへの耐性」で、これは睡眠不足によって著しく減るという研究もあれば、増えるという研究もある。未解明の事柄も多いので、ここらへんはより詳しくこれからの研究で解明してほしいところ。 「生活リズムを調節するのは、早めるより遅くするほうが簡単」
最後はこんな論文を。エリートアスリートには国境とTime Zoneを越えた遠征はつきもの。時差ボケをどう理解し、どのように付き合うか、という論文がこちら10。例えば、「生活リズムを調節するのは、早めるより遅くするほうが簡単」「故に、Time Zoneを超えて移動する場合、西より東に移動したほうが楽である(時差ボケになりにくい)」などと言われますが、これは本当なのか?実際に、アスレティック・パフォーマンスに影響がでるのか?についてはあまり研究されてきませんでした。これを検証しちゃおうというわけです。