サイクリングばあさん
サイクリングばあさん
昨年末、自転車にまつわるエッセイ、小説、詩、漫画のアンソロジー『自転車に乗って アウトドアと文藝』(河出書房新社、2020年)が刊行された
その中で私の目に留まったのは、群ようこの「サイクリングばあさん」だ。まず惹かれるのは軽妙なタイトルだが、登場するのは群の母親だ。67歳で、近所に買い物に行くために「前傾姿勢になって、プジョーのスポーツタイプの自転車に乗っていた」というのだ。エッセイの初出は『ヒヨコの蠅叩き』(2002年)なので、逆算すると1935年、昭和2ケタ最初生まれの女性と推測される。
その後、女性が自転車に乗ることに対して意識の差があるのか、インドからの留学生にも尋ねたところ、母親の世代は自転車に乗っていないという。彼女自身は自転車に乗ることに抵抗がないため、聞かれるまで意識すらしなかったと聞いて、このような日常の記憶を手がかりに、埋もれていくジェンダー意識を掘り起こすことに新たな可能性を感じ始めている。
改めて、昭和2ケタ最初生まれの女性にとって自転車がどういう乗り物だったのか掘り下げてみると、俗に言うママチャリの生産台数が伸びたのは1960年代とのこと。ママチャリという言葉は当時、女性用ミニサイクルを指していたが、後に軽快車全般を指す言葉として定着したという。軽快車に対比されるのは、新聞や郵便配達、出前など近距離の輸送に使われる実用車であり、1964年までは古くから普及していた実用車の台数が上回っていた。「自転車は男性の乗り物」という印象は、ここからも窺える。