E or D
電場と電束密度についての解説です。考え違いなどありましたらコメントください。
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背景
電場$ \mathbf E と電束密度$ \mathbf D の違いついては、教科書などによって微妙に書いてあることが違ったりしてよくわからない。
標準的には分子分極による分極ベクトルを使って電場から電束を導出するが,この分極ベクトルといういうのが(筆者には)直感的にわかりにくい。
たとえば,磁化プラズマなどは分子分極とは違うメカニズムで分極ベクトルが生じる。
ということで,もっとすっきりした説明はできないだろうか?
線形近似
まず,真空中では電場$ \mathbf E と電束密度$ \mathbf D は完全に比例するものと考える。真空の誘電率が 1 になるような単位系がとれるので,同一のものと考えてもよかろう。
真空の誘電率・透磁率を 1 として$ \mathbf E = \mathbf D,$ \mathbf B = \mathbf Hとすれば,マックスウェル方程式より
$ \frac{\partial\mathbf{E}}{\partial t} = \nabla \times \mathbf B - \mathbf J
これを物質中のミクロな方程式とみなすと,電流$ \mathbf J の中には電場$ \mathbf E に物質中の電荷が反応してできた部分が存在し得る。この部分を分極電流と呼んで$ \mathbf J_p と書き,電流を$ \mathbf J =\mathbf J_0 + \mathbf J_pと分解しよう。
ここで,分極電流が電場の線形応答として近似できる場合を考える。一般にはこの線形応答は空間的・時間的にひろがった影響の総和なので,積分核行列$ K(\mathbf x, \mathbf x';t,t') を導入して
$ \mathbf J_p(\mathbf x, t) = \int_{-\infty}^t dt' \int_{-\infty}^\infty d\mathbf x' K(\mathbf x, \mathbf x';t,t') \mathbf E(\mathbf x', t')
と書ける。
多くの誘電体を巨視的にみた場合,この積分核が比例定数$ \chi を使って
$ K = \chi \delta(\mathbf x- \mathbf x')\frac{\partial}{\partial t'}\delta(t-t')
という表式でよく近似できる。これは実験事実である。
この場合,分極電流は
$ \mathbf J_p = \chi \frac{\partial \mathbf E}{\partial t}
となるので,誘電率を$ \varepsilon = 1+\chi と書き,以下で定義したベクトル場$ \mathbf D を「物質中の電束密度」と呼ぶ。
$ \mathbf D =\varepsilon \mathbf E
これにより,以下の物質中のアンペールの法則が得られる(ただし,磁場については真空中の表式のままである)。
$ \frac{\partial\mathbf{D}}{\partial t} = \nabla \times \mathbf B - \mathbf J_0
Remarks
真空中では$ \mathbf E と$ \mathbf D は同じものと考えたが$ \mathbf E は三次元表現では線積分の対象,$ \mathbf D は面積分の対象になるので,ちがうものと考えることもできる。「ちがうもの」という概念の定義の問題ではなかろうか。
重力質量と慣性質量のように,違う物理法則にあらわれる量が一致(厳密に比例)すると考えればいい気がする。
したがって,アンペールの法則とファラデーの法則にあらわれる$ \mathbf E と$ \mathbf D が真空中で完全に一致するかどうかという問題は,実験で確かめられるべきものであろう。
なぜ$ \mathbf E と$ \mathbf D が違う物理量と考えられるようになったかは,多分,歴史的な経緯だろう。マックスウェルの頃は物質のミクロな性質がわかってなかったので,実験的に物質に依存する$ \mathbf D は$ \mathbf E とは別のもののように思われたのではなかろうか。
分極ベクトル$ \mathbf P は$ \partial \mathbf P/\partial t = \mathbf J_p で定義される量であるが,これは線形近似の便宜上でてくる数学的な表式であり,必ずしも物理的実体をともなわなくても良い。
そう考えると,電束密度$ \mathbf D も電場とその線形応答部分の和を便宜的にひとつのベクトルで書いた数学的表現だと考えられる。
普通の誘電体の場合は教科書にあるように分子分極で分極ベクトルを考えることができるが,なんかおさまりが悪い(と筆者は思う)。
磁化プラズマの中の高周波波動の場合のように時間遅れがある場合は具体的な物理実体として$ \mathbf P を考えるのは難しい。
真電流とか真電荷とは何か,というのは「本当の電荷とは?」などと考えずに,単純に「線形応答で書けない部分」と考えればすっきりする。
ここでは電場と電束密度を考えたが,磁場と磁束密度についても同様に扱えるだろう。ただし,単位磁荷がなく,電子スピンがあったりするのでちょっと話は変わる。
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