第二種永久機関
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第二種永久機関が存在しないのは,カルノーの定理からはじまる熱力学的考察から示せるが,この理論は一般相対論以前に成立したものであり,空間の曲がり(=重力)を考慮していない。一般相対論的重力まで考慮にいれると,第二種永久機関が存在し得ることを,黒体輻射を使って以下に示す。(ページ下端の注参照,)
重力がない場合の復習
重力場の中での黒体輻射を考える。まず,重力がない場合の復習。下図の左のような一次元のボックスの中に輻射場がとじこめられているとする。
$ \ https://gyazo.com/31709eb645d2d339038993727aa76944
電磁場だと面倒なので,スカラー場にしよう。適当に単位系をとって,係数がでてこないようにする。
$ \ $ \frac{\partial^2 \phi}{\partial t^2} -\frac{\partial^2 \phi}{\partial x^2} =0
固有モードは規格化定数を$ A として
$ \ $ u_k = A \exp[\pm i(\omega t - k x)] (ただし$ \omega = |k| )
境界条件をボックスの両端でゼロとする(図ではそうなってないがご容赦)と,$ n を整数として$ kL=2n\pi 。
熱平衡分布を温度$ T のプランク分布だとすると,ボックスの中のエネルギー$ E は
(1) $ E = \int_0^\infty d\omega \,\omega D(\omega) f(\omega)
ただし,ボックス内が一様であることを使った。ここで$ f\propto 1/[\exp(\omega/T)-1] はボーズ分布で,$ D(\omega) は状態密度,つまりボックス内で$ \omega \sim \omega+d\omega の間に入るモードの数である。
条件$ kL=2n\pi の条件から,$ D(\omega) は
$ D(\omega)=\frac{L}{2\pi}
となる。$ \omega によらないのは一次元だから。
いま,このボックスの中に仕切りを入れ,図右のように同じ大きさのふたつの部分にわけると,状態密度$ D が半分になるので,左右の箱のエネルギーは$ E/2 になる。これは熱的には初期の状態と同じなので,温度の変化もなく,エネルギーの移動もない。
これはボックスの大きさを半分にすると,状態密度も半分になるためで,状態密度が半分にならなければエネルギー移動はありうる。
重力がある場合
次に,下図のように左向きに重力がかかっている場合を考えよう。
$ \ https://gyazo.com/b8b2f49a7dfbe10c217afbafaaf7d4e8
固有モードの関数形は状況によるが,定性的には上図のような形をしている。これは波が右に進行するときには重力に逆らうのでエネルギーを失い,波長がのびると考えると理解できる。左に進行するときはその逆。
$ \, (a) 重力場が static ならばエネルギーに対応する保存量が存在し,統計力学的平衡が計算できる。
$ \, (b) ふたつの部分にわけたとき,左の箱の状態密度 $ D_L は右の状態密度$ D_R より大きい。
(a) で「エネルギーに対応する保存量」と書いたのは Killing flow にともなう保存量である。以下では単に「エネルギー」と呼ぶ。詳細はRindler系での計算のページで。 (b) は,左右でエネルギーが変わらないなら左の箱の方が波長が短くなるので,同じエネルギー幅には入る波の数が増えると考えると,直感的には納得できる。Rindler系での計算でこれは確かめられる。 このふたつが成立したとして,以下の図のようなサイクルを考えよう。
$ \, https://gyazo.com/e2f073ba11ca419f29f9617509083954
(1) はじめ,ボックスはひとつで中のエネルギーは$ E_0 で,箱全体の状態密度を$ D_0 とする。この箱の同じ大きさの左右の部分を考え,それぞれに入っているエネルギーを$ E_L ,$ E_R とする。$ E_0 = E_L + E_R 。
(2) これに断熱壁を挿入し,ふたつの等しい部分にわける。断熱なので,双方の部分 のエネルギーのやりとりはなく,もともままの$ E_L ,$ E_R のエネルギーを持つ。状態密度は$ D_L < D_0/2 < D_R となる。
(3) 断熱壁を熱を通すものにとりかえる。状態密度の変化により,左側の熱容量が相対的に増えているので,右から左に熱流が生じる。
(1') ここで準静的に中の壁をとりはらい, (3) から (1) にもどすと,また熱がながれて初期の状態に復帰する。
このサイクルは,どのステップでも外部と熱のやりとりをしない。ということは,熱が流れるステップで,なんらかの熱機関的デバイスをかまして仕事をとりだすと,サイクルをまわすたびに外部に影響を残すことなく全体の熱エネルギーが減っていき,仕事を生む。つまり,
$ \ 第二種永久機関!!
…… しらんけどな。
(注)こういうことを書くのは野暮ですが,もちろん,間違ってます。実は当初はもっと巧妙なトリックができると思ったのだが,それは勘違いでした。これは当初のもくろみより劣化したバージョンです。twitter のモーメント参照。 -----
文責:中村匡(福井県立大学) 2018/06/22
第二種永久機関