遠國の男、などに就て
2024-03-24迄にあったセッションで思はれた事達の思ひ出し。
遠國の男に就て
休みの日に、「もっとすべき事があったのではありませんか」と云ふ氣持ちが生起して殘念になる事がある。
その他にも、もっと優れた人間に成る爲に、出來る事があったのではありませんか、と云ふ氣持ちが生起する事がある。
しかし、其れ等の事を實際に遂行する訣ではなく、さうですね、さうしたらもっと優れた人間としてある事が出來ましたね、と思って已んで了ふ。
獻げる者であらねば成らないと言ふ時に、實際に見も知らぬ苦しむ人に捧げ物をするか? と云ふ問ひ。
しかし實際には目の前に家の無い人がゐたとしても、其の人の爲に家を建てたりはしない。
『物語』が無いからではないかと云ふ説明が試みられた。
家族であったり友人であったりすれば、助けるだらう。
同じ災害に偶々一緒に捲き込まれ、一緒に窮地を脱せねば成らない樣な時は、助け合ふだらう。
同じ自治體や同じ國家に屬する同朋であれば、税金の支拂ひと福祉機關の働きによって助ける事が出來るだらう。
さて、例へば研究の爲に論文を讀んだり文獻を探したり爲る事が出來、然うすれば、然うしなかった時より私は優れた人間である事が出來るだらう。或いは、給與や餘暇を返上して勞働すれば、然うしなかった時より私は優れた人間である事が出來るだらう。
しかし、其の樣な行動は、私の行動の選擇肢として浮かんだとしても、税金を拂ふより具體性を持った行動として浮上して來る事は無い。
私の前に『搾取者』が現れる事があり、私から色々の物を搾取しようとする。「こんなに聯續して働いてゐた筈がありませんよね。此の時閒は休憩してゐた物として申告を訂正して下さい。」「でも、もっと澤山仕事をして下さい。」「あれもして下さい。」「此れもして下さい。」「有給は附與された內の半分以上は成るべく使はないで下さい。」「此れは後で全部無駄だった事にするかも知れませんけど、念の爲準備作業をして置いて下さい。」
『搾取者』が私の前に現れる時、私は基本的には其れが搾取者だと判るし、其の事は私の心裡に怒りが表れる事によって明らかに成る。
しかし、私の休日を無駄にする何者かに對しては、怒りが湧いて來ない。無力感とかが湧いて來る。だとすると、私の休日を臺無しにしてゐるのは『搾取者』ではない。
では何?
物語として、確かに、斯く斯く然々する事によって私が優れた人に成ると云ふ物語が存在してゐる事は知って了ってゐる。しかし、其の物語に納得してゐる訣ではない、と云ふ説明が試みられた。
此れを象徵する爲に、理解出來る物語を語り、其れに私を閉ぢ込めしかし心底其の物語に納得出來てゐる訣ではない、と云ふ狀況を齎す者を象徵する爲に、ユーラルの骨牌に登場する『遠國の男』が示された。
遠國の男は、異國の裝束を纏ひ、骰子や貨幣を乘せた博打臺の上で何か口上を唱へんとしてゐる。
遠國の男は、或いは奇術師であり、或いは旅藝人であり、或いは魔術師であり、或いは、詐欺師、如何樣師である。
言葉巧みに異國の物語を聞かせ、私を其の幻影に閉ぢ込めて了ふが、しかし、心底其の話を自らに切實な物とまでは看做せないので、囚はれが生じる。
彼の話す話は、確かに筋が通ってゐて、納得するより他無いが、思ひ出さねば成らない。
其れは、私の物語ではない。
赤い花に就て
花園に花を選びに來た筈であったが、氣が付くとポンと云ふ音と共に赤い花が手にあった。
花を選んだのではなく、花に選ばれたのかも知れない。
赤い花であって、綠の鑛物の花ではなかった。
赤い柱と其の象徵する物とは?
檢察官は何處に行ったのか?
私を法廷に引き出して死刑二囘に價すると叫き立ててゐた檢察官は?