behavior
【behavior】とは英語で「ふるまい、行為、行動」といった意味を持つ言葉です。この展示は、私たち人間が持っている、いくつかのふるまいや行為の特性を、具現化しようという試みです。
https://gyazo.com/6160618129cfe2ada96806145e5039e9
会期:2012年11月11日(日), 11月18日(日)※2日間のみ 12:00 - 17:00
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◎私たちの見ている世界は、どうやら偏っている
私たちは、空気の振動や光刺激などの情報を、目や耳といった感覚器官を通じて脳に伝えることで世界を把握しています。
あなたの把握しているその世界は、人それぞれが個別に持っている先入観にかなり影響を受けていますし、体温計が体温しか測れないように、私たちは、自分たちの感覚器が捉えられる限定的な情報からのみ見ている、あなただけの「偏った」世界でもあります。普段、私たちは、そういった「自分の見ている世界は偏ったものである」という前提に対して、あまりに無頓着で無意識です。
しかし、日々の中で、そんな前提がふいに崩れそうな出来事に遭遇することがあります。私たちが、世界を把握している際の「偏り」や「先入観」について、露見してしまうことがあります。そういった時に、私たちの頭には、「何かおかしい」という気持ち、「ざわざわ」した気持ちが起こるのです。
◎頭の中の「ざわざわ」を形にする試み
今回の展示では、そういった「ざわざわ」した気持ちを引き起こすための仕掛けを用意しています。これらは、実際に日常の中で、私自身が「ざわざわ」を引き起こされた出来事を基に、より純化した、追体験しやすい形に調整されたものです。
普段は見過ごしがちな「ざわざわ」を体験することで、あなたの意識の解像度は、体験する前より少し、上がるはずです。会場を出たその瞬間から、本展示では取り上げなかった、数多くの日常に潜んでいる「ざわざわ」に気づくきっかけになるはずです。そして「ざわざわ」に気づくということは、私たち自身の知覚機能や先入観の在り処を知るということでもあります。
この展示を通じて自分自身の特性(=behavior)に気づくことで、世界の見え方に変化を起こし、ありふれていた日常が瑞々しく見えるようになれれば、幸いです。
展示作品
Irreversibility / felt-tip pen, 2012.
https://gyazo.com/c7e804b16336ada1fcda5f10e6e3757c
https://gyazo.com/aed0d903496604296a76a714773d07c3
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あなたの目の前にある、台の上に置いてあるサインペンは、フタが外されたまま置いてあります。そのため、目で見ることはできませんが、今まさにペン先からインクが蒸発しています。
つまり、これを読んでいるあなたは、この周囲だけインク濃度が上がった空気を吸っているということになります。量としては極々僅かなものですが、一度この文を読んでしまうとつい意識してしまい、思わず今、呼吸を止めてしまったのでは無いでしょうか。
私たちは、「目で見えないもの」は「存在していないもの」として見落としがちです。それは、私たちが視覚に認知の大部分を頼っているということでもあります。一方、今のあなたがそうであるように、さっきまで「存在していない」としていたものでも、一度「ある」と意識してしまえば、もう「知らなかった」自分には戻れないのです。
Inciting factor / paper, computer, usb camera, display, humans, 2012.
Technical cooperation : Ryo OSHIMA
https://gyazo.com/b036113382271a682a21c1a5f8ebe288
https://gyazo.com/746ec6620dc21ad70741fe42a1ac9c59
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https://gyazo.com/4ca1d6ed640be452d2bd2a58c8d821b3
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この作品は、アメリカの心理学者スタンレー・ミルグラム(Stanley Milgram)が1969年に発表した研究を元にして作られています。その研究とは、街頭に何人か立たせ、彼らが何も無いある一点を見つめている時に、何人の通行人が釣られて同じ方向を見るかどうかを調べたものです。(Milgram, S., Bickman, L., & Berkowitz, L. (1969). Note on the drawing power of crowds of different size. Journal of Personality and Social Psychology, 13, 79-82.)
1人が見ているだけでは、ごく少数の通行人が見上げるだけでしたが、立たせる人を増やせば増やすほど(5人では1人の時の4倍、15人に増やした場合では45%、さらに増やすと80%の人が釣られて見上げた)釣られて見る通行人の割合が高くなることが、分かりました。
人間は社会的動物だと言われていますが、この結果は、私たちが「みんなが見ているものは、内容は問わず(分からなくても)自分も気になる」という、周りと違い異質であることを恐れる、社会的同調に弱い心理特性を持っていることを示しています。
今回の作品では、あなたが展示室に入った途端、何人かの人が壁のある一点を見つめている様子を目にします。あなたはきっと、彼らが何を見ているのか気になって仕方がなくなったはずです。そして好奇心を発揮した結果、指示に誘われ、こちらのブースのモニターを見てその全容を知り、この文章を読んでいるというわけです。
隣のモニターには先ほどまで、15秒前のあなたが、好奇心を発揮して、人だかりに吸い寄せられて行く様子が隠し撮られ、映されていました。この様子を見て、あなたはひょっとしたら「恥ずかしい」とか「ふざけるな」とかネガティブな感情を持ったかもしれません。
しかし、このような行動は、今回敢えて露見化されただけで、普段から無意識の内に私たちみんなが行っているのです。そして、こういった私たちの心のメカニズムは、私たち人間の知りたい気持ちや好奇心を誘発する仕組みでもあるのです。
Bias / plastic bottles, milk, 2012.
https://gyazo.com/ee2068aa15002ee512e2a966f6bb10bb
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あなたが感じた違和感は、ペットボトルのラベルと中身が対応していないために引き起こされたものです。そして、おそらくあなたは見た瞬間に「中身が間違っている」と思ったはずです。ペットボトルについていたラベルが間違ったのではなく、なぜ「中身」の方が間違っていると思ったのでしょうか。
私たちは普段自分でも気づかない内に、様々な先入観に基いて物事を見て、判断しています。その結果、私たちの心に違和感を始めとした色々な気持ちが引き起こされます。この作品は、そのような「ラベルに引っ張られ先入観を抱いてしまう私たちの心の動き」を露見化させようとする試みです。
Landscapes / video installation 8’29”, 2012.
https://gyazo.com/aa3c521b1d8fbbeaeb3814b25045de4a
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この映像は、あるアニメーション作品から、キャラクターや生き物の痕跡を全て切り離し、風景だけを抽出したものです。建物や畑など、人の手によって作られた物も描かれているのにも関わらず、彼らの存在は全て剥ぎ取られ、ただ舞台のみがそこにあります。おそらく、あなたはこの映像を観た時に「何かおかしい」と、ざわざわした気持ちを感じたはずです。
あなたの目は、つい無意識の内に「どこかにキャラクター(生物)がいないか」探し始めたはずです。本来こういった映像の中には必ずいるはずなのに、いない。例えアニメーションであっても、私達は生物の不在を敏感に察知します。意図的に異常な状況をつくりだすことで、私たちの中にある、普段無意識に使っている能力をを露見化しようという試みです。