第19回 再生可能エネルギーの地政学
SYUMIGAKUの第19回では、再生可能エネルギーの地政学について話しました。
なぜ、日本は再生可能エネルギーの導入が遅れているのか?
という疑問に始まり、安全保障・国際関係の問題と切っても切り離せないエネルギー戦略について、20世紀の歴史を振り返りながら話ています。
今回の主に参考にさせていただいた本は「世界資源エネルギー入門: 主要国の基本戦略と未来地図 (平田竹男,2023)(東洋経済新報社)」になります。
【19-1】 エネルギーを考えるための3E - なぜ再生可能エネルギーは普及しない? 【再生可能エネルギーの地政学】
なぜ今再生可能エネルギー?
SDGsの話が色々言われているが、実際どうなのか? 再生可能エネルギーのほとんどは夢の技術ではない
原子力はいうまでもないし、太陽光、風力は安定していない
蓄電に使えると思われる超電導技術もすぐには実現しなさそうだし…
国によっても適切な再生可能エネルギーは違う
結局向こう数十年間は、化石燃料に一定依存しつつやっていくしかない
そうなると、その調達においてリスクがつきまとう
単に技術の問題として処理できない
(前回のシリーズでやっていたが)ロシアへの経済制裁によって、ロシアから資源を輸入していた国は、別の国から天然ガスや石油を輸入しなければいけなくなった その結果、中東への依存度が高まって石油価格が高騰した
(前回のシリーズでやっていたように)
国だけではなくて、企業がサプライチェーン全体でどこに依存するかを戦略的に練っていく必要がある
国のエネルギー戦略をどう考えるか?
(後で詳しく話します)
これはここ20年間とかで急速に重要視されてきた指標である
石炭火力発電を減らすこと(「段階的に削減(phasedown)」)で合意した
国際の環境対策は、結構グダグダな歴史がある
97年の京都議定書に始まったが、具体的な目標に合意するということが中々なされなかった
影響力が最も大きいアメリカの、大統領が変わるごとに方針が変わってしまう態度もこの原因になっている
2015年のパリ協定も、オバマ大統領が合意したのに、トランプが破棄したり
右往左往している裏で、環境問題について考えるための概念だけは整備が進んできた
ESG = 2006年の国連と機関投資家のやりとりから提唱されたもの環境・社会・ガバナンスを重視した投資 二酸化炭素排出量は、一次エネルギー排出量におおよそ比例しているとされる
中国、アメリカ、インド、ロシアの次に排出量が多いのが日本
日本のエネルギー割合の変遷を、環境問題という視点から見るとー
石油は、1980年ごろをピークに減少しているものの、一次エネルギー消費の40%程度を占めており、今後まだ減らしていく必要がある
石炭は2005年から10年ごろをピークに横ばい
天然ガスは増加傾向にある
再生可能エネルギーは、水力発電がずっと横ばいで、原子力だけが伸びていたが、東日本大震災後にほぼ0に転じている
安全保障と環境対策ができればそれでいい、というわけではない
なので問題が複雑化している
もし安全保障と環境対策だけを考えるなら、国内だけで賄えるCO2排出量が少ないエネルギー源に切り替える、というのが最善になる
エネルギー価格の高騰は、あらゆる物価の高騰に繋がってしまう
店を運営するにも、工場を稼働させるにも、車で移動するにも、全てエネルギーが必要なので、あらゆる経済活動のコストが上昇し、インフレになる
エネルギーの価格を低く抑えることは国の経済効率に直結している
【19-2】安全保障としてのエネルギー戦略 - 日本は石炭を使い続けるのが最善(?)【再生可能エネルギーの地政学】
エネルギー自給率が低いと、他国の情勢や、他国との関係によって国の経済が揺らいでしまう
(後で詳しく話すが…)日本が太平洋戦争に突入してしまったのも、石油への依存を高めすぎて、他国に依存しすぎてしまったからだという側面がある
戦争してでもエネルギーを確保しないと、経済が立ち行かない状況になってしまった
直近のロシア関連の例
ドイツはヨーロッパの中でも、脱石炭、脱原発をリードしていた国だった。経済効率も悪くなかった
しかし、ウクライナの件があってから、安全保障の面が弱くなり、原発への依存を高める形での変更を迫られた
元々他のヨーロッパ諸国にも脱原発を推し進めた方がいいという言い方をしていたので、手のひら返しだとして非難もされている
逆に西側諸国からは、ドイツの経済制裁に協力できていないとして批判もされていて厳しい立場にいる
イタリアも天然ガスの40%をロシアに依存しており、中東に移行することを迫られた
逆に、スウェーデンは元々ロシアへの依存が高かったが、ウクライナ進行前から、天然ガスや送電網がストップされていた経緯もあった
そのため、石炭と天然ガス依存を減らす方針で元から動いていた
スウェーデンは再生可能エネルギーへの転換を進めており、発電量の4割以上が水力、3割が風力、16%が風力で、石炭と石油による発電をほとんど行っていない
再生可能エネルギーの割合を増加させると、他国への依存も減る(基本的にはそうだが、先に見たように、太陽光パネルの製造を他国に依存していたりすると、別の依存が発生する
結果、ロシアに嫌がらせを受けるリスクを覚悟の上で、NATOへの加盟申請もできた
(11月現在、申請の決議は延期されている)
日本はどうなっているのか?
エネルギー自給率については、日本はG7の中では最低で、11%になっている(9割を海外の資源に依存してエネルギーをつくっている
ちなみにアメリカやロシアは、自給率100を超えており、準輸出国になっている
中国も80%程度を維持している
輸入元の国と自国を繋ぐ海上のルート
サウジアラビアからイランを経由して、マレーシアやインドネシアの海峡を通るルート
https://scrapbox.io/files/658010179b92750024545b0e.png
チョークポイントが何らかの影響で使えなくなると、日本への石油供給力が途絶えてしまう
日本は原油の88%を中東に依存している(2018年時点
サウジアラビアに38.2%、UAE(アラブ首長国連邦)に25.4%を依存
ロシアには4.4%の依存
台湾事変があった場合、シンガポールやフィリピン周辺の海峡(チョークポイント)が潰れてしまう可能性が高く、日本の石油価格高騰は免れない
天然ガスについては、中東依存は21%、代わりにオーストラリアとマレーシアを足して約50%
石炭については、ほとんどがオーストラリアとインドネシアからの輸入である
これらの背景があり、日本が天然ガスや石炭の比重を安易に移すことができない状況を生んでいる
日本はOECDの中でも、石炭依存度が高い
石炭はCO2の排出量が高いため、先に見たグラスゴー合意でも減らしていく方針がとられており、日本の立場を厳しくしている
【19-3】日本のエネルギーの歴史 ペリー来航から現代まで - 原発と石炭に依存するのはなぜか【再生可能エネルギーの地政学】
1853年 : ペリー来航
産業革命での発展のために、鯨の油が必要だった
捕鯨のための船で使う石炭を日本で補給することも要求された
結果、北海道の釧路炭田など、石炭の採掘が強化された
その後、明治期にかけて、軽工業、製鉄、造船など、あらゆる場所で石炭が使われるようになり、石炭の採掘も北海道以外のあらゆる場所で行われるようになった
石炭を輸出さえしていた
日本の近代化の成功は、石炭エネルギーの自給にあった
日本は、資源のない国で、勤勉さとものづくりの技術で発展してきた、という見方は少なくとも明治の近代化においては間違っていて、むしろ資源があったから西洋に追いつく勢いで成長できた
そもそも19世紀の日本の工業は軽工業に偏っていた
大正初期において石油へと需要が転じていっても、大正初期までは自国内で賄えていた
大正時代の初期、石炭だけでなく重油が必要になり、最初これは秋田や新潟で採れていた
しかし農業でも漁業でも、工場でも、家庭のストーブでも石油が使われ始め、石油の輸入が開始された
1925年には輸入が国産を上回るようになった
当時、日本の主力輸出産業は、繊維製品だった
繊維産業で稼いだ外貨で機械類を買って、飛行機(これも石油がいる)や軍艦を作るための資源を輸入していた
第二次世界大戦の少し前には、石油輸入の90%をアメリカに依存するようになっていた
その輸入を1939に止められて、41年には日本に対する石油禁輸がベトナムなどに出され、太平洋戦争に突入
インドネシアを植民地にした日本はそこで石油を調達するが、アメリカはこの調達元を空襲で破壊し、さらに輸送艦も破壊して石油の供給力を殺した
ちなみにこの時、石油輸送タンカーの進路を示す暗号がアメリカに破られていた
この一連の流れを、日露戦争から太平洋戦争までの間でエネルギー転換をミスったと言える
日本の現在
OECD諸国と比べて、石炭の消費量が多く、再生可能エネルギーは少ない
アメリカからのLNG(液化天然ガス)輸入、中東からの原油輸入をしているため、パナマ運河、マラッカ運河などに常に注視する必要がある 石油の中東依存
サウジアラビアとUAEに88%を依存している
完全に他国に依存しないように、開発に参加する形で輸入する「自主開発」比率を高めている
これが現在40%程度を占めている
石油を、241日分備蓄している
2021年のコロナ禍における石油価格高騰を抑えるために、アメリカと歩調を合わせる形で放出した
【19-4】石油の価格はどう決まるのか? - アメリカ、ロシア、中東の派遣争い【再生可能エネルギーの地政学】
中東との関係をどうするべきか?
中東
世界で最も原油とガスと取れる地域でありながら、紛争のリスクがある地域
サウジアラビアとイランの仲が悪い
アメリカはサウジアラビアに助力している
イスラエル+アメリカ vs アラブ諸国という構図も出来つつある
これは今回のパレスチナ問題で決定的になったと考えられる
中東と石油の問題を考える上で、直接依存はしていないアメリカについても把握する必要がある
石油の価格決定という観点で、アメリカが大きな影響力を持っている
元々、石油価格はアメリカに決定権あった
まず、現在のアメリカについて
自給率は2011年時点で106%と高い
石油、天然ガスの生産量も消費量も世界1である
再生可能エネルギーでは原子力発電の発電量は世界一位である
アメリカは世界で最も石油を生産しているが、それを上回る石油消費をしている
これは主にカナダから輸入
天然ガスも生産量・消費量ともにアメリカが一位
19世紀末の米国で、ロックフェラーの率いるスタンダードオイルという会社が、世界の石油産業を支配していた
スタンダードオイルは、1870年にロックフェラーによって設立された企業である
近代石油産業の始まりだと言われる
その後10年間の間に石油のシェアのトップになった
輸送網も自社で保有し、買収を重ねることで、石油を動かすときには必ずロックフェラーの許可が必要だという状況を作り出した
これは独占禁止法で解体されたのち、英国とフランスの大手石油会社、合計7社が結託して、石油市場を支配していた(セブンシスターズ)
この一連の石油管理体制を石油メジャーと呼ぶ
石油の値段は、石油がどれだけ市場に出回るかで決定されるため、石油の産出国や企業は、結託することで価格を制御しようとする
これは今でもそうである
中東は、石油メジャーに不当に搾取されてきた歴史がある
中東には元々採掘の技術や統制する企業などがいなかったため、石油メジャーと不平等な契約を結ばされていた
価格の決定権をメジャーに握られ、一定以上の利益は全てメジャーが回収するという契約
こうした状況を背景に、産油国が自国の利益を守るために、OPECという組織を創設した
OPEC = 石油輸出国機構
1970年代、サウジアラビアがOPECの主導権をもち、石油の価格決定権をメジャーから奪った
二度の石油ショックはこの結果起きたとも言える
イランの情勢悪化によって、イランの石油価格が高騰したため、OPEC全体としても石油価格を引き上げ、さらにアメリカの石油需要の拡大とも重なり、石油価格が高騰し続けた
2019年には、OPECの世界シェアが減少したことも影響し、ロシアを加えたOPEC Plusが創設された
OPEC+は石油シェアの過半数を保持しており、その中でもサウジアラビアとロシアが石油の価格決定に大きく影響を及ぼしている
=> つまり、現状の日本はOPEC+の決定次第(すなわちサウジアラビアとロシア)の決定次第で、経済に打撃を受ける状況にある
【19-5】日本の再生可能エネルギーの未来 - なぜ石油・石炭依存から脱却するのは難しいのか?【再生可能エネルギーの地政学】
石油の88%を中東に依存し、かつそれはチョークポイントのリスクと、OPEC+の価格決定のリスクの双方が潜んでいる
中東と石油への依存からの脱却になるか?他のエネルギー資源について
LNGの輸入
オーストラリアから37%、マレーシア 12%
ロシアへの依存度は8%だが、北海道のすぐ北にあるサハリンを共同開発している アメリカからのLNG輸出についても、企業が共同開発を行っている
日本は全国各地にLNGの輸入基地が整備されている、世界でも有数のLNG大国である
石炭の輸入
オーストラリアとインドネシアから8割以上を輸入
オーストラリアとインドネシアは、中東と比べてチョークポイントリスクが少ない
日本は未だ電源構成において石炭の割合が32%であり、OECDと比べると多いが、安全保障や経済効率を考えると、すぐに手放すわけにもいかない
日本の計画では、2030年においても20%程度は石炭に頼ろうとしている
原子力発電
1966年に原子力発電が使われはじめた
2010年には、54基の原発を保持しており、世界でも3番目に原発を使っている国になっていた
東日本大震災で、原発は稼働停止し、現在徐々に再開がされている
イタリアやドイツにもこの影響は波及し、脱原発が進められた
再生可能エネルギー
日本の発電に占める割合は約2割
https://gyazo.com/02fa215d3e8d4abba5a7db552d3814e2
水力はずっと一定だが、近年は太陽光発電が増加している
再エネの買収を固定価格にすることで導入を推し進める施策は、すでにドイツでの成功事例があった
太陽光パネルに投資する人が、どの程度稼げるかをあらかじめ予想できる
2022年からこれはFIPという制度に変わり、固定価格ではなく、補助額を上乗せするという制度に転換された
洋上風量発電
風力発電は、現在では発電量の1%にも満たず、ヨーロッパ諸国と比べると導入が遅れている
住居面積の割合が少ない日本で地上の風力発電を増やすのには限界があり、逆に海上であればポテンシャルがあるとして、2018年に洋上風力発電の計画が立てられた
秋田、青森、千葉、長崎や山口などに設置する計画が立っている
再生可能エネルギーとセットで検討しなければいけないことは、電力の安定化のための技術である
蓄電池と、パワー半導体の技術が向上すると、再生可能エネルギーの立ち位置が変わる可能性が大きい
2021年 第六次エネルギー基本計画
2050年までにカーボンニュートラルを達成する
2030年において、2013年と比較して46%のCO2排出の削減を行う
2030年までに達成させたいエネルギー構成
再生可能エネルギー全体を、18%(2021年)から36%以上に増加させる
太陽光は約倍の15%、風力発電は七倍以上に増やして5%、原子力についても再稼働を行うとしている
代わりにLNGと石炭を減少させる
発電所だけでなく、送電網も整備する必要がある
いわゆるメッシュ型になっておらず、串型になっているため、再生可能エネルギーをしやすい場所から、実際に人が住んでいる場所から送電が非効率である
西と東で周波数が違うこともボトルネックの一つ
これらが実現すれば、日本のエネルギー自給率は30%まで増加する
これは、環境問題の解決というだけでなく、安全保障面でも大きな効果を発揮する