ネット炎上の研究
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SYUMIGAKUの第23回では、経済学者の研究をもとにした「ネット炎上の研究」について話しました。
今では日常の一部にさえなってしまっているネット炎上。
しかしネット炎上は実際にはどんな人(年齢、性別、学歴、収入…etc)が、何人くらい集まって起こしているのか?
「ネット炎上の研究」という本ではこのような疑問に対して、統計的に分析するというアプローチを取っています。
人々がネットを利用する以上、炎上は必ず発生してしまう現象なのか、それとも解決の糸口があるのか?という大きな問いにも視点を広げながら話しました。
話している内容の引用などは こちら にまとめています。
【23-1】ネット炎上を研究する意味ーバカッターと企業告発は何が違うのか【ネット炎上の研究】
この本で何をやっているのか?
ネットの炎上を定量的に研究した
定量的 = 統計的な研究
インターネット上のいったいどれだけの人が炎上に関わっているのか?
どんな人が炎上に関わっているのか?
性別、年齢、学歴、ネットの使用頻度、どんな価値観を持っている?etc
2016年の研究
山口真一、田中辰雄(たつお)
どちらも経済学者
2016年の研究なので、最新のネット情勢をキャッチアップしきれていないかもしれない
(感想)しかし基本的に構造は大きく変わっていないのではないか?と思う
具体的に本で触れられていた幾つかの炎上事件
自分もそういえばそんなのあったな、と思うものもあれば、古くて全く知らないものもあった
(通称)バカッター(2013年
アイスケースに入ってふざける画像がTwitterに投稿された
グルーポンスカスカおせち事件(2011年
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グルーポンというサービスで注文されたおせちが、画像と明らかに違いすぎて炎上した事件
=> これら二つは反社会的、規則に反する行為の告発
他にもいくつか分類をつくっている
配慮不足による炎上
ファンを刺激したことによる炎上
他者と誤解されて炎上
配慮不足による炎上
TSUTAYA不謹慎ツイート事件
3.11の時に、「テレビは地震ばかりでつまらない。そんなあなた、ご来店お待ちしています」とツイート
不謹慎だとして炎上
厚生労働省マンガ事件
「世代間格差の正体〜若者って本当に損なの?」というマンガ
本には、上記pdfの5ページ目から引用されている
内容は、「今の若者は少数で多くのお年寄りを支えないといけないから大変だ」という意見への反論とも受け取れる
「現在の高齢者は、教育も医療も十分ではなかった時代に頑張っていたのだから、受け取る年金に差があっても若者が損だとはいえない」とか「少子高齢化が続けば格差が開くのは仕方のないこと」という主張や
子供を増やせばいいという主張を行い、女性キャラに、「バリバリ働いてお見合いパーティーも頑張りましょう」などと言わせている
これは現状の日本の状況からかけ離れているわけではない。実際子供が増えなければ社会保険料の一人当たりの負担は増えていくばかりだろうし、女性に労働と子育てがのしかかっている状況なことも事実
だが、その現状を肯定するようなポジショントーク的な言い方と、子供が国家経済のための手段であるかのようなセリフによって炎上した
配慮不足系の炎上は、現実で誰かに損害を与えたとか、法律に触れているわけではないが、誰かのことを不快にする可能性を孕んでいる場合に発生する
ファンを刺激したことによる炎上(2015
少女タレントのはるかぜ(13歳)が、声優の大塚周夫(ちかお)が亡くなった際に、その息子の大塚明夫と間違えて、ご冥福ツイートをしてしまって炎上した
間違えられた本人の大塚明夫は、「気にしなくていいよ」とリプをしていたが、それでもファンは批判ツイートをし続けた
途中、はるかぜ本人が「声優の名前を知らなかったら声優を目指しちゃいけないのは違うと思います」と反論ツイートをしたことでさらに炎上が加速。掲示板などでは「大人を煽る発言をするな」「ネットでは謙虚になれ」などという意見が交わされていた
昨今では、先の配慮不足による炎上と合わせて、過激な人が多い話題は避けろ、というのがネットの鉄則にすらなりつつある
原発、靖国、憲法9条、韓国・中国系のネタ、アイドルやオタク系の話題は、少し間違うと炎上する
誰かと誤解されて炎上
(これは最近ないのでは)
スマイリーキクチ事件(1999年ごろから長期にわたって
女子高生コンクリート詰事件の犯人ではないかというデマが流れ、多くの人が信じ込んでしまった
これは犯人が少年であったため、身元が隠されていた
出身地と年齢、元不良などの要素が揃っていた
ソーシャルメディアが荒れるだけではなく、テレビ局に「殺人犯をテレビに出すな」という抗議が増えるようにもなったという
スマイリーキクチは刑事告訴します、とブログに投稿(2008年
その後も悪質な書き込みを行った18人が検挙された
男性も女性もいた、17歳から47歳まで年齢も多様、妊娠している者もいた
なお、誰もスマイリーキクチには謝罪せず「デマを流した奴が悪い」と責任転嫁していた
これが日本で初めてネット炎上が検挙された事件になった
この本ではどのように課題を設定しているか
炎上のプラス面
グルーポン事件のように、企業の悪質な行為への抑止力として働くこともある
これまでであれば、発信力のない消費者が泣き寝入りするしかなかったようなケースでも、悪質であると世間が判断すれば大ごとになり、企業への批判が決定的になるため、少数の消費者に対しても配慮を求められるようになる
では何が問題か?
ネットでの情報発信が萎縮すること
炎上に嫌気がさして撤退する人は「中庸な人」の割合が高いのではないか?
たとえば何かに「賛成」「反対」という事柄で考えてみると、
炎上する可能性を踏まえた上でもネット上で意見をできる人は、自分の意見を曲げないくらい強い意志で何かを頑なに信じている人であるため、賛成か反対かに極端によっている
実際には賛成でも反対でもない(揺れている人)が多いかもしれないが、そのような意見の人は炎上するリスクを冒してまで発言する意思はないからその話題には触れない
あるいは炎上してもそれがビジネスに繋がったりする人は依然として発信するだろう
このようにしてネットの意見が偏ってしまうだろう、としている
インターネット黎明期には、インターネットが民主主義のための本当の議論の場になるだろうと信じる声もあった
今となってはネットで真面目に議論できると考えること自体が愚かだとさえ思われている
現在ではSNSのせいで自殺に追い込まれる例などもあり、情報発信の萎縮以外の問題も顕在化していると思う
【23-2】年収が高いほどネット炎上に参加している?ー統計データから見える炎上の実際【ネット炎上の研究】
炎上は何人が、誰が起こしているのか
他の本(中川2010)では「イタイ人」と形容されている
一般的なイメージとして、バカな暇人、社会的弱者、ネットのヘビーユーザーなどが想起されている
時間を持て余していて、家に引きこもってインターネットをやっている人たち
この研究では、2万人を対象としたアンケート調査を行っている
結論
炎上の参加者はインターネット利用者のうちの1.1%程度である
しかも、「2度以上書き込んだことがある人」の方が、「一度だけ書き込んだ人」よりも数が多かった
つまり、炎上常習者ともいうべき人がいて、ネット上で見かける「炎上のコメント」は1%未満のそれらユーザが書いている可能性が高い
実は炎上の参加者が見かけより少ないことは、有識者の間では共通了解になっている
ひろゆきや、ドワンゴの元社長の川上さん
数人のコメントを非表示にするだけで、ページ(動画)は平和になる
上記の値は、これまでの人生全体を通して、の話だった
過去一年間でアンケートを取り直すと、現役の炎上参加者の比率はわずか0.5%であった
また、炎上参加者は毎年2割くらいが入れ替わっている(新規参入者と辞めていく者)ことも分かった
人間がインターネットをやる以上、炎上という現象は避けられない、と諦めるのは早いのではないか?
逆に言えば、これら「1%未満の人の悪意ある発言が広まらない仕組み」をつくれれば、インターネットは議論ができる場所になるのではないか?といえそうである
その炎上参加者の担い手として最も多い属性は、「若い子持ちの男性」である
若いといっても、20歳未満は対象になっていない
年収・世帯年収が比較的高い
ラジオとソーシャルメディアの利用時間が長い
インターネットで嫌な思いをした経験があり、価値観として、「インターネットで非難し合っても良い」と考えている
統計上有意にならなかった属性
学歴、一人暮らし、結婚の有無、携帯電話の利用時間、住んでいる地域
「低学歴・低収入で独身の、ネットばかりやっている人」といったステレオタイプな炎上参加者のイメージとはかけ離れている
考え方の面
「インターネットで炎上することは当然だ」とか、「ネットを使うには強い心が必要」と思っているかどうかも有意ではない
つまり、炎上を「仕方ないこと、そういうもの」と思っているからといって炎上に参加するわけではなく、「ネットで人を非難してもいいんだ」と考えていると炎上に参加しやすくなる、という結果
【23-3】炎上はいつ始まるのか?ー過激なコメント投稿者たちの行動と思考【ネット炎上の研究】
一つの炎上の参加者の推計値
炎上は大小様々あり、平均値を出すのは難しいのであくまで推計として
炎上参加者は、約19万人である
炎上案件は年間で200件程度
エステス社調べ、2014年時点でこれなので、より炎上事件は増えていると考えられる
この前提に立つと、一つの炎上事件に参加している(書き込んでいる)人は大体2000人弱ということになる
つまり一つの炎上に参加している人はインターネット上の、0.00X%程度である
とはいえ、数千人から責められているとなると、やっぱりキツくないか?
これらコメントの多くは「ひとり言」であり、直接攻撃的なことを言うわけではない
「ひどい」「これはいかんでしょ」などといったコメント
実際、炎上にあった人を追い込むのは多くの場合には少数の「直接攻撃者」でもある
本人にリプを飛ばしたり、ブログにわざわざコメントしに行ったり、場合によっては電話したり家に押しかけたり。
複数回書き込む人が数十~数百人、さらにそのうち直接攻撃しにいく人はどれくらいいるだろうか?
この数値は取れていないが、せいぜいが数人から数十人だろう、と予測している
誰がこの「直接攻撃者」なのだろうか?
そもそもサンプル数がとても少ない
個別の事件の取材などから明らかになったいくつかの事例
ネット右翼の独身男性
無職で、iPhoneの転売で年間150万円を得て生計を立てている
空いた時間は全てネットでの右翼コメント(韓国、中国への批判)や、読書をして過ごしている
過去に勤めていた会社は、彼がコンプラ違反だと告発し続けたことで倒産した
「許さないと思ったものは、友人であれ誰であれ、とことん攻撃する」という価値観(正義感)を持っているという
21歳の大学生
彼もネット右翼的な活動をしているが、右翼の主張には対して興味がない
本人も「ネットに書かれていることを信じてる奴はバカ」と発言し、「誰かを釣って叩いて、それでおしまい」などとも言っている
芸能人やマスコミ、政治家がマジになって議論しているのを眺めるのが楽しいだけ
ウェブメディア編集者への攻撃者
女性(年齢は明らかになっていない)から、「私の方が上手く文章を書ける」と攻撃された
じゃあ書いてみますか?と返事をしてみたが無視してネット掲示板や彼のファンサイトに悪口を書き始めた
さらには彼の職場に電話をかけて、本人ではない人に対して、「あいつは酷い奴だよ」という情報(有る事無い事)を垂れ込んだという
結果、彼は会社で一時期無視されることになったりもした
彼らのプロフィールは、一般的な属性として一致を見るのは難しい
見える傾向は、強い正義感と激しい思い込み、自分が誰かを傷つけているかもしれないという罪悪感のなさ、である
これをみて、京都アニメーションの炎上事件を思い出した
あれは確か、自分の小説がパクられた、という思い込みによって火をつけたという事件だった
このような特異な人(本当にごく僅か)が、炎上の中心にいて、執拗に煽りたて、最初の火をつける
それがまとめサイトなどに取り上げられ、「年収の比較的高い子持ちの若い男性」を中心としたコメントする人たちによって、全体の炎上コメント量が増加する
繰り返しになるが、これらのコメントは明確に非難をしているというよりも「コメント」に過ぎないことが多い
【23-4】ネットで議論ができるわけない?ーインターネットの負の側面は克服可能なのか【ネット炎上の研究】
著者はこの現象を、人類史全体と照らし合わせて、「新しい仕組みを採用した後の黎明期に発生する仕組み化の行き届いていない状況」と分析する
国民国家ができた時、資本主義が勃興した時、それぞれ新しい仕組みの濫用(上手く制御する術をまだ知らない)によって、ひどい惨事になった
それと同じことが起きているだけ、といえるのではないか?
あと数年、数十年もすれば対処法を見つけて議論できる場所としてのネットが出てくるのではないか?
一つの方法は「過剰な発信力」を抑えることである
メンバーシップ制度どうか?