ニコマコス倫理学
アリストテレスの主著の一つ。全10巻。
アリストテレスの名によって伝わる倫理学書には、ほかに『エウデモス倫理学』と『大道徳学』(偽書)があるが、本書は晩年のもっとも円熟した思索を表している。書名は編纂者である息子ニコマコスの名に由来する。
人間のすべての知と理性的行動はそれぞれあるなにか善いことを目ざしており、これらさまざまな善は終極においてただ一つの善(最高善)のために欲求されるという目的論の立場にたつ。
最高善は幸福であるが、幸福とは「徳にかなった魂の活動態」であると定義され、最終目的を快とする功利主義とは区別される。
徳とは情と行動における過剰と過小の中間の性向であると定義し、伝来のさまざまな徳と悪徳の名称をこの規準に従って一覧表として図示した。
たとえば、粗暴と臆病の中間が勇気、ふしだらと無感覚の中間が節制である。
これらは正しい知見(=賢慮)に従い、行動を習慣づけることによって生ずる性向、つまり、人柄としての徳である。
行動を導く知見である賢慮は、正しい目的の把握と、この目的へと秩序づけられた個別の行動の選択のうちに具現する。
諸徳の総括は正義であり、正義によって人々の間の正しい関係は保たれ、共同体を保つ愛となって結実する。
正義と愛によって保たれる共同体(=国家)の内には、最高の幸福である神の活動にあずかる観照活動が実現される。
こうして、アリストテレスの倫理学は、あるべき共同体(国家)の実現を目ざす政治学の原理部門となる。