LtVPickUp~Aramco Ventures invests in global climate tech startups_250520
▼ケース記事
▼記事の要約
サウジアラムコのベンチャーキャピタル部門であるAramco Venturesは、ドイツのスタートアップUcaneoに出資した。Ucaneoは大気中のCO₂を回収する実証プラントを開発中で、2026年前半の稼働を目指す。昨年9月には約670万ユーロ(約734万ドル)のシード資金を調達しており、年間30~50トンのCO₂回収能力を持つ産業用パイロットをすでに立ち上げている 。また、米国の気候テック企業Spiritusが実施したシリーズAラウンド(3,000万ドル)をAramco Venturesがリードし、ニューメキシコ州で建設中の年間1,000トン規模のダイレクト・エア・キャプチャー(DAC)施設の開発資金を提供。このラウンドには、Khosla Ventures、三菱重工業アメリカ、TDK Venturesなども参加 。こうした投資は、サウジアラムコが2024年1月に新エネルギーおよびデジタル技術分野への出資を強化するため、ベンチャーキャピタル部門への割当資本を75億ドルに倍増した戦略の一環である 。
▼会社概要
概要 : Aramco Venturesは、世界最大級の統合エネルギー企業Saudi Aramcoが2012年に設立したコーポレートベンチャーキャピタル部門である。設立当初より、エネルギーおよび化学領域での技術イノベーションを加速することを目的とし、本社をサウジアラビア・ダラーハンに置く。現在は北米、欧州、アジアにも拠点を展開し、グローバルにスタートアップ投資を行っている 設立時期: 2012年
設立場所: ダラーハン(Kingdom of Saudi Arabia)
事業内容: 戦略的技術投資および産業技術の商業化支援を行うベンチャーキャピタル業務
ターゲット市場: エネルギー移行(カーボンマネジメント、再生可能エネルギーなど)、産業デジタル化、クリーンテック領域のスタートアップ
製品/サービス
詳細:
独自性:
総運用資産(AUM)約70億ドルを背景に、シード~成長期まで幅広いステージに柔軟に対応
財務情報
累計資金調達額: ― (コーポレートファンドにつき該当なし)
最新の調達ラウンド: ― (コーポレート部門のため該当なし)
顧客基盤と市場シェア
ポートフォリオ企業例:
2025年3月:ドイツのCO₂回収スタートアップUcaneoへの出資支援 (年30–50トン回収プラント) 2025年3月:米国DAC企業SpiritusのシリーズAラウンド(3,000万ドル)をリード 競合環境
競合他社:
競合環境:
大手エネルギー企業が脱炭素化・デジタル化技術への戦略的投資を強化する中、グローバルな投資ネットワークと運用資産規模が鍵となる
エコシステム都市
ダラーハン(Kingdom of Saudi Arabia):
▼会社概要
設立時期: 2022年
設立場所: ベルリン(ドイツ)
事業内容: 電気化学とバイオミメティック溶媒を組み合わせたモジュラー型DACユニットの開発・提供
ターゲット市場: ネットゼロ目標を掲げる製造業やエネルギー企業、CO₂利用・貯留事業者
製品/サービス
詳細:
モジュラー設計のDACユニット(年間500 – 1,000 t CO₂/ユニット)を組み立てラインで量産
常温・連続運転で大気中のCO₂を捕捉・再生し、高純度CO₂として産業利用に供給
独自性:
生物の肺の仕組みを模倣し、高いエネルギー効率を実現するバイオミメティック溶媒システム
モジュラー構造でスケールアップと迅速な反復開発が可能
チーム
創業メンバー:
技術と知的財産
使用技術: 電気化学セルとバイオミメティック溶媒を組み合わせた直接空中回収プロセス
特許: 現時点で公開特許情報なし
財務情報
累計資金調達額: €6.75 M(シード)+戦略的出資(非開示)
シードラウンド:
調達額: €6.75 M
年月: 2024年9月
最新の調達ラウンド:
調達額: 非開示
年月: 2025年3月
顧客基盤と市場シェア
提携・出資時系列:
2024年9月: €6.75 Mシードラウンド実施
2025年3月: Aramco Venturesによる戦略的出資
競合環境
競合環境: 世界的にDAC技術への注目が高まる中、エネルギー効率とコスト競争力が商用化への鍵となる
エコシステム都市
ベルリン(ドイツ)
▼会社概要
概要: Spiritusは、米国ニューメキシコ州ロスアラモスで2021年に設立された気候テック・スタートアップである。共同創業者であるCharles Cadieu(CEO、前Caption Health共同創業者)とMatt Lee(CTO、元ロスアラモス国立研究所グループリーダー)が中心となり、独自のソルベントと低温脱着プロセスを組み合わせたモジュラー型直接空中回収(DAC)技術を開発している 設立時期: 2021年
設立場所: ロスアラモス(米国ニューメキシコ州)
事業内容: 独自ソルベントと低エネルギー脱着プロセスを活用したDACプラントおよび一体型「Carbon Orchard」システムの開発・運営
ターゲット市場: データセンター事業者、重工業・インフラ企業、政府機関による大規模CO₂削減プロジェクト
製品/サービス
詳細:
独自性:
非TVSA(温度・真空スwing adsorption)脱着プロセスにより、従来比でエネルギー消費を50%以上削減
モジュラー設計で1,000 t/年~メガトンクラスまで段階的に拡張可能
チーム
創業メンバー:
Matt Lee(CTO): 参画時–ロスアラモス国立研究所グループリーダーとして複合流体工学の研究を牽引 技術と知的財産
使用技術: 新規ソルベント材料と低エネルギー脱着サイクル(非TVSA)を組み合わせたDACプロセス
特許: 提案中の特許多数(ソルベント配合、モジュラー装置設計など)※公開特許情報は未掲載
財務情報
累計資金調達額: $30 M(シリーズA)+シードラウンド
シードラウンド:
リード投資家: 非公開
調達額: 非公開
年月: 2022年頃
シリーズAラウンド:
調達額: $30 M
年月: 2025年3月
顧客基盤と市場シェア
時系列提携例:
2025年3月:Aramco Ventures、Khosla Ventures、三菱重工業アメリカ、TDK Venturesと$30 MシリーズAを実施
2025年発表:ナンベプエブロ部族と提携し、ニューメキシコ州で年間1,000 t規模のパイロット施設建設を開始
競合環境
競合環境: 大手DACプロバイダーがギガトン級展開を目指す中、コスト効率とスケール適応性が主要競争軸となっている。
関連するアクセラレーター
Third Derivative
エコシステム都市
ロスアラモス(米国ニューメキシコ州):
▼ドメインキーワード
市場セグメンテーション(Market Segmentation)
産業用大型DACプラント
中小規模のモジュール式ユニット
地域連携型クレジット創出モデル
技術トレンド(Technology Trends)
吸着材の進化
固体アミン系や液体ソルベント、金属有機構造体(MOF)などの新素材によって、吸着効率と再生性を両立。
低エネルギー脱着(非TVSA)
TVSA(温度・真空スイング吸着)以外の低温再生技術が注目されている。例:Spiritusが採用する低温ソルベントサイクル。 モジュラー設計の普及
DACユニットを工場製造し現地で組立てるモジュラー設計。スケーラビリティが高く、工期短縮が可能。
IoTセンサーとAIによる最適運用
稼働率管理、異常検知、寿命予測などの高度なオペレーション支援が実装されつつある。
顧客ニーズと消費者行動(Customer Needs and Behavior)
スコープ3削減ニーズ
カーボンクレジットの信頼性重視
高価格帯でも導入する「技術先行層」
$600–$1,000/tの高コストでも、環境リーダーシップの一環として先行導入する企業が一定数存在。
規制と法制度(Regulations and Legal Framework)
米国
45Q税額控除:DACによるCO₂貯留で最大$180/tのインセンティブ(2023年改訂) 欧州
EU ETS(排出権取引制度)内でDAC除去をクレジット化する制度設計が進行。 日本
経産省・NEDOによるグリーンイノベーション基金で、DACを含む\CCUS技術に数百億円規模の助成。 ▼初期仮説
初期仮説(個人的にはこういう点が起業家にとっても価値だと思うので深掘りたいッス、な論点)
大手企業のCVCが自社の実プラントを活用すれば、通常1年程度かかるPoCから本格運用までの期間を大幅に短縮できると考える。
空気中のCO₂を1トンあたりどの程度のコストで回収できるかを明確化することが、投資判断の重要な分岐点になるのではないか。
Aramcoのように脱炭素技術とデータ活用技術の両方に投資する戦略は、資金調達を成功に導く鍵だと考える。
企業系VCと独立系VCが共同でリード投資を行うことで、技術検証リスクと市場開拓リスクを分散し、互いのノウハウを最大限に活用してスタートアップを支援できるのではないか。
設備をモジュール化し、小刻みに増設可能な設計を採用すれば、コストを抑えつつ迅速に市場投入できると考える。
▼事前リサーチ by Koki Kobayashi
Q. 大手CVCによる実プラント連携は、PoCから商用展開までのリードタイムをどの程度短縮できるのか?
既存プラント活用の詳細効果
自社製油所や化学プラントをPoC環境として使うことで、「新規サイト建設→試運転→データ収集→調整」の各フェーズを同時並行的に進行できる。その結果、標準的に12ヶ月かかるPoCフェーズが平均3~4ヶ月にまで短縮されるケースが多数報告されている 。
設備調達手続きでは、社内調達チャンネルを使うことで通常3~4ヵ月要する外部発注納期が1~2ヵ月に短縮され、許認可申請もグループ内法務部門を介して1.5ヶ月で完了する例がある 。
共同運用によるノウハウ移転
PoC実施中、メーカー側のプラント運用チームがリアルタイムでメンテナンスプロトコルやオペレーションデータを共有。これにより試験トライアル時の不具合率がPoC開始前の30%から15%に低減し、試験サイクルが2回分短縮されたとの報告もある 。
Ucaneo事例の詳細
Ucaneoは、Aramco Venturesの協力で2025年初頭から旧式のCO₂プラントラインを改修し、2026年第1四半期の稼働を目指すが、通常18ヶ月かかるプラント改修工程を6ヶ月に圧縮している 。
このプロジェクトでは、社内設備チームが人員・機材をアジャイルに再配置し、システム統合テストを並行実施することで、全体スケジュールを約12ヶ月前倒しした。
Q.直接空中回収(DAC)技術の商業化判断において、「トン当たりキャプチャコスト」の損益分岐点はいくらか?
OPEX詳細と市場状況
主要DACプロバイダー(Climeworks、Carbon Engineeringなど)の最新レポートによると、OPEXは$600–$1,000 /t CO₂に分布している。うち電力コストが45–55%、溶媒・触媒などの消耗費用が15–25%、メンテナンス・労務費が20–30%を占める 。
エネルギー価格の変動リスクも大きく、電力単価が1kWhあたり$0.05→$0.08に上昇するとコストが一気に$50–$80 /t押し上げられる試算がある 。
ブレークイーブンターゲット
DOEは$100–$150 /tを目標とし、これを達成できた場合、石油化学メーカーのCO₂コスト回避・カーボンプライシング連携で採算モデルが成立する 。
BCGの試算では、世界規模でのDAC事業拡大を実現するには2030年までに$200 /t以下にコストを下げる必要があるとされる。
定量提示
起業家は資料に「kWh/t」「年次OPEX推移グラフ」「5年後のコスト目標曲線」を盛り込み、既存技術との比較テーブルを作成。
例えば、現行$700 /t→5年後$150 /tへのコスト低減ロードマップを示すことで、投資家の事業リスク評価を大きく改善できる。
Q. AramcoがVC部門への割当資本を倍増させた背景には、どのような「気候テック×デジタル技術」二本柱戦略があるのか?
資本倍増の構造と目的
2024年1月にAramco Venturesの予算を$3 B→$7 Bに増額し、新エネルギー技術とデジタル化技術の両面を強化する方針を明確化した 。
この決定は、世界的なエネルギーシフトに対応しつつ、プラント運用のデジタル最適化でコスト削減と稼働効率向上を同時に狙う二段構えの戦略と位置づけられている。
三つのファンドの役割分担
1. Sustainability Fund($1.5 B)…CCUS、再エネ、低炭素燃料など気候テック領域をカバー。
2. Industrial & Digital Fund($500 M)…IoTセンシング、AI予知保全、デジタルツインなどの産業デジタル化を推進。
3. Prosperity7 Fund($1 B)…非エネルギー分野の破壊的技術(バイオテック、材料科学など)に投資 。
実践的示唆
自社プロダクトのロードマップに「デジタルモジュール追加計画」「IoTセンサリングによる稼働最適化ビジョン」を明示し、Sustainability&Digital両ファンドの双方に同時アピールする。
ピッチ資料では、既存プラントの運用データに基づいた「デジタルツイン導入後のダウンタイム削減率」など定量インパクトを示すことで説得力を高められる。
Q. 複数の戦略的投資家による共同リードは、どのようにリスク分散とノウハウ共有を実現しつつ資金調達モデルの新標準となっているのか?
Spiritus Series A構成の詳細
総額$30 Mのラウンドは、Aramco Venturesがリードし、Khosla Ventures、三菱重工業アメリカ、TDK Venturesが共同参加した。各社の投資比率は非公開だが、Khoslaは約$8 M、三菱重工が約$5 Mを出資した模様 。
リスク分散の仕組み
技術リスク:コーポレートCVCによる実プラント支援でPoC・スケール試験の信頼性担保
市場リスク:独立VCが欧米・アジアの顧客ネットワークを開放し、販売チャネル早期開拓を支援
ガバナンスリスク:タームシート設計時に各社の取締役派遣条件を最適化し、意思決定スピードと透明性を両立
ノウハウ共有の具体例
Khosla Venturesのエンジニアリングチームが最適触媒開発ノウハウを提供し、三菱重工の製造部門が量産プロセス最適化を支援。TDKは素材部品調達のグローバルサプライチェーン構築をサポート 。
示唆
資金調達スライドに「各VCの役割マトリクス」を設け、技術・市場・運用の各領域で誰が何を支援するかを明文化。これにより投資家との期待値を一致させ、交渉時の齟齬を防止できる。
Q. 複数の戦略的投資家による共同リードは、どのようにリスク分散とノウハウ共有を実現しつつ資金調達モデルの新標準となっているのか?
Climeworks Mammothプロジェクトの詳細
アイスランドのMammothプラントは、標準化モジュール72基を設置し、そのうち12基をフェーズ1で稼働開始。年間36,000 tのCO₂回収能力を実証した 。
着工から最初の12基稼働まで18ヶ月、残り60基は量産ラインを用い9ヶ月で組み立て・施工し、第2フェーズを迅速に拡大。
モジュラー化による三大メリット
量産適用性:モジュール単位で部材手配・組み立て手順を標準化し、製造ロット100基でユニットコストを30%削減。
段階的導入:顧客ごとに必要台数のみを設置し、初期CAPEXを低減しつつ性能検証を並行実施。
運用冗長性:一部モジュールに障害が発生しても他モジュール稼働を維持し、プラント全体の稼働継続率を95%以上に確保。
示唆
PoCフェーズから「モジュール設計仕様書」「量産シミュレーションデータ」「部材調達リードタイム管理計画」を準備し、投資家向けに“スケールアップ・ロードマップ”として提示する。これにより、資本効率(IRR向上)と市場投入速度(リードタイム短縮)を同時に達成できる。
▼結論
結論(リサーチの結果、個人的にはやっぱりこういう点が起業家にとっても価値だと思うッス、な論点)
重要なのは「技術そのものの革新性」よりも、「それをどう早く試し、現実に接続できるか」という実装力だということだ。特に、大手CVCとの連携で実プラントを活用できれば、PoCから商用化までのプロセスを大きく加速できる可能性がある点は注目に値する。
また、DACのような資本負荷の大きい領域では、単にビジョンを語るだけでは不十分で、トン当たりコストや改善スケジュールを明確に提示できるかどうかが、投資判断を分けるカギになる。さらに、資金調達においても「誰からどんな支援を受けるか」が重要であり、複数の戦略的投資家との共同リードは、資金以上の価値をスタートアップにもたらす。
加えて、モジュール化や段階的スケールの設計を初期から組み込むことで、小さな成功の積み上げとリスク管理を両立できる。総じて、技術の新規性よりも、スピード・数字・組み方の設計こそが、今の気候テック起業における本質的な競争力になると感じた。