良い人生を送るには?
人生とは何か、どうすれば良い人生を送ることができるのか——この古くて新しい問いに、私たちは日々向き合っています。このエッセイでは、様々な思想家や哲学者の知見を通じて、良い人生を送るためのヒントを探っていきたいと思います。
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人生の意味は自分で決めるもの
良い人生について考える時、まず向き合わなければならないのは「人生の意味とは何か」という問いです。この問いに対して、心理学者のアドラーは明確な答えを示しています。
アドラーは『嫌われる勇気』の中で、こう述べています:
「一般的な人生の意味はない。人生の意味は、あなたが自分自身に与えるものだ」
これは決して虚無的な言葉ではありません。むしろ、私たちに大きな自由と責任を与える言葉です。人生とは誰かから与えられるものではなく、自ら選択するものであり、どう生きるかを選ぶのは私たち自身なのです。
フランクルもまた、「意味への意志、どんな状況でも意味を見出す」ことの重要性を説いています。『サピエンス全史(下)』にも引用されているように、「あなたに生きる理由があるのならば、どのような生き方にもたいてい耐えられる」のです。
幸福とは何か
良い人生を考える上で、幸福の本質を理解することは欠かせません。フランスの哲学者アランは『アラン「幸福論」』の中で、幸福について深い洞察を示しています:
「人はだれでも幸福になれる」
「幸せだから笑うのではない、笑うから幸せなのだ」
この言葉は、幸福が外的な条件によって決まるのではなく、私たちの態度や選択によって創り出されるものであることを示しています。アランはさらに続けます:
「幸福になろうと欲しなければ絶対幸福にはなれない。これは、何にもまして明白なことだと、私は思う」
つまり、幸福は受動的に待つものではなく、能動的に求め、創造するものなのです。
一方で、宮沢賢治は『銀河鉄道の夜』で、より普遍的な幸福観を提示しています:
「世界がぜんたい幸福にならないうちは個人の幸福はあり得ない」
この視点は、真の幸福が個人を超えた全体との関わりの中にあることを示唆しています。
アドラーの視点から見ると、「幸福とは、貢献感のことである」と定義されます。『100分de名著 アドラー「人生の意味の心理学」』では、「人生の意味は全体への貢献である。人生の意味は貢献、他者への関心、協力です」と述べられています。
価値観を持って生きる
良い人生を送るためには、明確な価値観を持つことが重要です。ニーチェは『ツァラトゥストラ』で、こう問いかけています:
「永遠回帰のいちばん大切なところは『たとえ無限に繰り返されようとも決して後悔せず自分がいちばん納得のできることを行為せよ』という点にある」
これは究極の価値判断の基準を示しています。もし今の人生を永遠に繰り返すとしても後悔しない生き方を選ぶ——これこそが真に価値のある生き方なのです。
『ツァラトゥストラ』はまた、現代の私たちにとって重要な気づきを与えてくれます:
「『人生を選ぶ』という意識が生まれたことで、『私はどうやって生きていけば良いのか』『何が生きる上で大切なことなのか』といった『生き方の問い』をもつ人間が生まれた」
『嫌われる勇気』では、この点についてさらに具体的に述べられています:
「大切なのはなにが与えられているかではなく、与えられたものをどう使うか」
環境や生まれ持った条件は変えられませんが、それらをどう解釈し、どう活用するかは私たちの選択です。
他者との関わりの中で
人間は社会的な存在であり、良い人生は他者との関わりの中でこそ実現されます。アダム・スミスは『道徳感情論』で、人間の本質について美しい洞察を示しています:
「人間がどれだけ利己的だと考えられていようと人間の本性には明らかに幾つかの原則があり、その原則ゆえに、人は他人の幸福に関心を寄せ、そうした他人の幸せから自分が得るものといえばそれを見て楽しむ以外何もない場合でさえ、他人の幸せを自分の幸せのように感じるのである」
アドラーの視点では、人間関係はさらにシンプルに表現されます。『100分de名著 アドラー「人生の意味の心理学」』によると:
「生きることは『ギブ&テイク』ではありません。生きることは『ギブ&ギブ』」
見返りを期待しない貢献こそが、真の人間関係を築き、良い人生を実現する基盤となるのです。
困難との向き合い方
人生には必ず困難が伴います。しかし、その困難をどう捉えるかが、人生の質を決定します。『深く考える力』では、こう教えられています:
「人生において、自分に与えられた苦労や困難、失敗や敗北、挫折や喪失、病気や事故は、自身の成長のために、天が与えたものである。されば、いま、この出来事から、自分は、何を学ぶべきか」
困難を単なる障害として見るのではなく、成長の機会として捉える——この視点の転換が、良い人生を送る鍵の一つです。
アドラーも『嫌われる勇気』で似たような視点を示しています:
「優越性の追求も劣等感も病気ではなく、健康で正常な努力と成長への刺激である」
劣等感さえも、成長への原動力として活用できるのです。
日常を真剣に生きる
良い人生は、特別な瞬間だけでなく、日常の過ごし方にこそ現れます。『嫌われる勇気』では、このことが詩的に表現されています:
「『いま、ここ』を真剣に生きること、それ自体がダンスなのです。深刻になってはいけません。真剣であることと、深刻であることを取り違えないで」
真剣に生きることと深刻になることは違います。真剣さは活力を生み、深刻さは重苦しさを生みます。
中国の思想家荘子は、この点についてさらに軽やかな視点を提供してくれます。『100分de名著 「莊子」』によると:
「荘子が道を説きつつ教えようとしているのは、まさにこの人生を面白がる生き方なのです」
人生を面白がる——この姿勢こそが、日常を豊かにし、良い人生への道筋を示してくれるのです。
自分らしく生きる勇気
最後に、良い人生を送るために必要なのは、自分らしく生きる勇気です。『嫌われる勇気』では、この点について率直に述べられています:
「他者の評価を気にかけず、他者から嫌われることを怖れず、承認されないかもしれないというコストを支払わないかぎり、自分の生き方を貫くことはできません」
「権威の力を借りて自らを大きく見せている人は、結局他者の価値観に生き、他者の人生を生きている」
自分らしく生きることは、時として孤独や誤解を伴うかもしれません。しかし、それでも自分の価値観に従って生きることこそが、真に良い人生への道なのです。
まとめ:良い人生への道筋
これまで様々な思想家の言葉を通じて見てきたように、良い人生を送るための道筋は明確に見えてきます:
1. 人生の意味を自分で決める - 受動的に与えられるものを待つのではなく、能動的に意味を創造する
2. 幸福を能動的に追求する - 外的条件に依存せず、自らの態度と選択で幸福を創り出す
3. 明確な価値観を持つ - 永遠に繰り返しても後悔しない生き方を選ぶ
4. 他者への貢献を心がける - ギブ&ギブの精神で人間関係を築く
5. 困難を成長の機会として捉える - 挫折や失敗から学びを得る
6. 日常を真剣に楽しむ - 深刻ではなく真剣に、人生を面白がる
7. 自分らしく生きる勇気を持つ - 他者の評価より自分の価値観を優先する
アランの言葉を借りれば、「自分一人で強く幸福になる者は、したがって、他の人たちによってさらに幸福で強くなるであろう」のです。まず自分が良い人生を送ることから始まり、それが周囲にも良い影響を与えていく——これこそが、私たちが目指すべき良い人生の在り方なのではないでしょうか。
『銀河鉄道の夜』の言葉にあるように、「幸せとは何か、という『問いかけ』の先に『答え』があって、それをつかむのではなく、『問いかけ』ていくその行為自体の中に答えが存在している」のです。
良い人生を送るには何が必要か——この問いかけを続けること自体が、すでに良い人生への第一歩なのかもしれません。