機械主義者と身体改装
英国の生物学者であり、同時に科学思想家でもあったJ.D.バナールは、彼の著書『宇宙・肉体・悪魔』(1892)の中で、宇宙という新たな環境へと進出するために、人類が自らの体に改造を加えることを、積極的な進化という見方でとらえています。
以上のような概念を基本として、1880年代の後半から世間では身体改造を行う人々が、わずかながらにも出現し始めました。最初は負傷兵の義手や義足として、1890年代に入ると、最先端のファッションとして、また思想的な主張を背景として積極的な身体改造を行う人々が出現するようになりました。
人体に必要ではないはずの、そして必要以上の改造を行う人々を、『機械主義者(メカニスト=Mechanist)』と呼び、彼らの主張を『機械主義(メカニズム=Mechanism)』と呼びます。「蒸気爆発野郎」の世界では、『機械主義』は経済的に余裕のある階層に広まってきています。
彼らはまた、自分達の事を『地上の覇者(=LandMasters)』と称しています。地上で彼等以上の適応能力を持つものがいないという自負からこの名は出ています。確かにこのまま世代を経ればその様な超人類へと進化するのかもしれませんが、現段階ではそんなに優れた能力を持っている訳でもありません。
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機械主義者(ランドマスターズ)について
『ランドマスターズ』とは過剰な身体改造を行った人々が自らを呼称するための名称です。身体改造——つまり、我々にとって馴染みのある言葉でいうならば、サイボーグのことを意味します。しかし、彼等は自分達の事を『ランドマスター』と呼称します。これは改造された身体の人々こそが世界を、地表における全てを自在に支配しうるという思想を背景としているからです。彼等は第三者からは『機械主義者』と呼称されています。そして1890年代終盤に『機械党』という政党を英国に誕生させます。
機械主義運動と機械党の成立
自らの身体を黒鉄で置き換えた人々、それが『機械主義者』です。『蒸気爆発野郎!』の世界ではこのような身体改造の例は、決して多くはありません。
身体に鋼を埋め込んだ彼等は、お互いに引き寄せられる様にして社会を形作っています。彼等は『機械化クラブ』と名乗るクラブハウスを根城とし、最終的には機械党という政党を英国に設立します。しかし、上記のコラムにもあるように、彼等は第一次世界大戦を境に消滅します。その理由は『蒸気!』最大の謎の一つです。
『機械主義』は身体に改造を施した人間にのみ共通な思想です。彼等は機械化手術を経た後で、何らかの特殊な経験を共通して持つ様になり、最終的に『機械主義』と呼ばれる思想に到達します。『機械主義運動』は、『機械主義』をベースとした『人工的な進化』という側面が特徴的な思想運動です。この思想は彼等が自らを『ランドマスター』と呼ぶ根拠になっています。つまり、彼等は自らの身体を機械化することによって環境に対して適応し、最終的には全地球環境に打ち勝つ、換言すれば『地上の覇者となる』ことが出来ると考えているのです。それは進化というシステムを、神の手から人類の手に引き寄せようとするものでもあります。
このような思想を持つ集団の設立した政党が『機械党』です。彼等の主張は、人間の行わねばならないあらゆる作業を機械によって代替し、人間は労働から開放されるべきであるというものです(決してあらゆる人類を機械化しようなどとというものではありません!)。この機械党は弱小な政党ですが、機械主義者の間では極めて高い支持率を誇っています。
誰が機械主義者を生み出したのか?
機械主義者は身体の一部を機械もしくは金属などの無機物で代替しています。これは極めて高度な技術力を持つ医師が執刀する手術によって、機械主義者の肉体が生み出されていたことを示します。しかし、ここに問題点があります。機械主義者を生み出す医師についての正確な情報が入手できないのです。
多くの大学病院や個人病院の外科において執り行われる手術は、機械主義として知られる肉体と機械の融合を目指していると考えられる大規模な手術ではありません。あくまでもファッション金属片の移植手術程度のものです。では、腕や足などを機械に代替するような大がかりな手術を行う天才外科医は、一体どこにいるのでしょうか?
複数の『聖ミカエルの踵石』と呼ばれる場所に立つ、いくつかの教会において人体改造のための手術が執刀されている場面が何度も目撃されたという噂があります。教会? そうです。教会において手術が行われているという話があるのです。それが真実かどうかは解りませんが、もし真実であるとしたら機械主義者の存在は神による奇跡なのでしょうか。『聖ミカエル』の名も気になります。しかし、教会関係者はこの噂に対して口をつぐんでいます。ただ、一部の教会関係者が機械主義者に関して『幻影の医師団』という謎めいた言葉を残しています。この医師団が機械主義者に対する人体改造を行った人物であるのかは判明していません。
機械混在種(ハイブリッド)
機械主義者ではなく、突然の自然現象で身体の一部が機械に置き換わった人間を機械主義者とは別の存在として 「機械混在種(ハイブリッド)」と呼ぶ。
「あぁ、そうだ。あんた自然現象でそうなったって言ってたな。それなら申請すれば年金が貰える」
「なんですと?」
「ドクターのような突然機械化してしまった場合、国庫から年金が貰えるらしい。そんなことを昔耳に挟んだことがある。ただ、書類審査と面接があるらしいが」
「それはまた都合のいい検体ですな」
マスター用情報
機械主義者の決められた運命
しかし、彼等は第一次世界大戦前夜に消えてしまいます。完全に歴史の表面から消えてしまうのです。そして当然ながら事実上構成員のいなくなった『機械党』も崩壊してしまいます。これは歴史上まれに見る奇怪な出来事であると考えられています。
それから100年近くが経った頃、一人の研究者がこんな研究結果を発表します。それは、『ランドマスターズが歴史から消え去ったのは、歴史自身の必然であったし、都市がそれを望んだからであると考えられる。彼等は街の構造物として自ら人柱になるように、都市を永遠に支え続けるアトラスとなるように仕向けられていた。』というものです。学会はこの論文を黙殺しましたが、一部の支持者によれば、『最も合理的な説明』であると同時に、『最も有り得ざる状況を想定している』と評されています。
19世紀末に生じ、熱病のように蔓延し、一晩で歴史の闇に葬られた思想、機械主義。そしてその主張に忠実であったが故に自らの姿を歴史から隠すことになった多くの『ランドマスター』達。彼等が一体何のために現れ、そして消えたのかは、『蒸気爆発野郎!』の大きな謎の一つです。
機械主義者の真実
機械主義者を生み出したのは、天導機械の意志です。天導機械は巨大な意志を背後に持つ超存在です。その意志とは『超時空体』と呼ばれています。『蒸気爆発野郎!』の世界では多くの現象が超時空体の意志の元で動いています。機械主義者を生み出した事もその意志と考えて良いでしょう。
注目せねばならないのは、機械主義者が手術を受ける前に、誰からの反対も受けなかったのか? という点です。常識的に考えれば、身体の機能を機械によって代替するという、当時としては非常識な手術に対して疑問視し、反対する者が出現するはずです。しかし、そのような事はありませんでした。これも超時空体による歴史の修正とでも言うべき現象でしょう。
また、機械主義者となる人物は『事前に選択されていた』と考えられる節があります。プレイヤーキャラクターが超時空体に選択されているのと同様に、彼等も超時空体によって選択されているのです。しかも、その目的は、『倫敦』という都市の人柱とするためなのです! それは後の歴史が証明しています。
実際に機械化の手術を執刀する人間は、天導機械によって超越的な医術の技能を『仮想人格』を用いることによって与えられた一般人(!)です。天導機械はあらゆる制御機械の代替を行う事が出来ますから、仮想人格を導入する事も可能なのです。彼らは執刀中の記憶を失っています。
機械化によって身体に鋼を埋め込んだ者は、それらの手術を行った後に共通した異常体験を持つ様になります。それは自分達が何かを行わなくてはならないという焦燥感を伴った意識の変化です。機械主義者は、自分では気がついていないかもしれませんが、『何かを為す必要があるのではないか』と自分に問いかけ続けているのです。
機械主義者を生み出すための手術は、19世紀末のある日を境に、ぱったりと行われなくなります。
そして20世紀初頭、機械主義者は倫敦という街を永遠に支え続けるために地下に潜ります。地下90メートルの腐臭漂う大伽藍、『魔導師街』が彼等の身を受け入れるのです。『倫敦』が今後の一千年を生き延びるための壮大な魔術、それが機械主義者の存在の意味なのです。