天導機械
知性を持つ導引機械についての隠された情報
導引機械は、英語では『Guiding Machine』と呼ばれており、これらは『導引機械協会』こと『英国導引機械研究協会』によって命名されたものです。
さて、導引機械には一般には知らされてはいませんが、大別して二種類が存在しています。協会でもこの区分は明確に成されており、あたかも全く異なった機械に対している扱われています。その二つの種類は通常の導引機械(別名を『人導機械=Mortal Guiding Machine』)と、特殊な導引機械(『天導機械=Heaven Willing Machine』)です。どちらもメイン動力に蒸気機関を用いているのですが、その能力、設置台数、社会に対する役割には格段の差が存在しています。特に天導機械は、一般的にほとんど知られていないものです。しかし、その一方で一部の人々からは熱い視線を受けています。
天導機械についての一般的な知識
英国国教会に属している知性を持つ機械——それが『天導機械』こと『Heaven Willing Machine』です。天導機械は別の名を『思索機械:Thinking Machine』、『哲人機械:Philosofical Machine』などといい、その全容はほとんど明らかにされていません。ただ、知られていることを記すならば、以下のことは大いに事実としての可能性を秘めていることだと言えます。
まず、天導機械の管理者が、1880年代中葉に、導引機械協会から、英国国協会に移ったという点。次いで導引機械技師達の大半は、その厳しい修業にも関わらず、天導機械に手がつけられないという点。そして、——その理由は解明されていませんが——天導機械は、絶対に故障しない(通常の導引機械は数週間に一回以上のメンテナンスが必要です)という点。識者は、この最後の点に着目し、『英国国教会は、天導機械を神の奇跡として認めているのではないか』という説をとなえています。しかし、その点についての真偽は確かめられていません。
ところで、天導機械とは一体何なのでしょうか。ある人の言によれば、それは『人と神とをつなぐ柱』であるとされ、ある人は『ただの高性能計算機械』だといいます。誰もその真実の姿を把握していないのが本当のところでしょう。しかし、倫敦にもエジンバラにも、密かに天導機械という名で呼ばれる機械は実在するのです。
つけ加えるならば、導引機械技師達は、『一般的な導引機械(人導機械)』を扱うことはできますが、天導機械を扱うことはできません。天導機械を扱うのは、非常に特殊な、宗教的な面でも優秀な人々に限られていると言われています。実際には特殊能力を持つ者のみが、天導機械と『会話』することが出来るのです。
天導機械の外見
『天導機械』は、様々な外観を呈しています。メインとなる導引機械の部分さえ備えていれば、その姿は機能には何ら影響を与えることもないらしいのです。それゆえ、時に奇抜なデザインも存在すると考えられます。しかし、『天導機械』は、基本的なデザインは、パイプオルガンと連動した形状です(オルガン部を取り外すことは可能ですが)。また、1880年代に、ある貴族の屋敷で確認された『天導機械』は、それ自体が隠し部屋として設計されたもので、その中央に立つ女神像(それは見事な芸術作品でした)の内側に、たくみに歯車や発声装置が組み込まれ、あたかも『天意』が、女神の意志であるかのように造られていました。ある『交感』能力者が、この機械と『会話』を行おうとしましたが、その試みは失敗に終わったらしいと伝えられています。
<コラム:天導機械>
『天導機械』とは特殊な用語です。まっとうな社会生活を営んでいる人々には、天導機械という名称は、不可解なものとして取られるでしょう。しかし、情報通、教会関係者、導引機械技師、そして某秘密結社員は、天導機械に対して異様なまでの注目をしています。なぜなら、英国はもとより、全世界に渡る何かしらの『力』が関係しているらしいことが、確実視されているからです。その『力』は、通称『超時空体』と呼ばれています。天導機械は、その意識との友好関係(?)を築き上げることができたのならば、非常に有効な情報源となるでしょう。また、英国国教会は、全ての天導機械をその制御下に置きたがっていますが、必ずしもその計画は達成されていません。
英国国教会と天導機械
天導機械にあるメッセージが入り込んだ(関係者はそのように語ります)のは、1860年代初頭のことです。その当時、特殊なスタイルをしてその分野での注目を受けていた『教会用導引機械』に、意識(に近いようなもの)が発生したことが、そもそもの発端でした。パイプオルガンと連動している導引機械が、突然作動し始め、聖書の一節を暗唱し始めたのです。それは、すでに取り付けを終了していた導引機械全てに及び、英国国教会は、その事実を驚愕とともに受け止めたのでした。しかもその奇跡が起きたのは、復活祭の当日の深夜だったのです。 以上のようなことが起きてから後、国教会は事実のもみ消しを開始しました。その理由については判りません。その点については全ての関係者が一様に口を閉ざしてしまうのです。しかし、ある推測を信じるならば、バチカンに対する何らかの意志がからんでいるらしいのです。
このような経過とともに国教会側は、導引機械に発生した『意志(?)』を『天意』とし、導引機械協会から、この不可思議な現象の起きた機械の管理権を購入し、特殊なものとして分化させたのでした。天導機械は、意識を持つ機械であり、人間に対して自発的に語りかけることの出来る唯一の機械群なのです。この大いに謎を秘めた(そして一般人にはほとんど知らされていない)存在は、この世界を構成する一要素として確実に力を持ち始めています。
天導機械を巡る英国国教会の思惑
英国国教会の大司教は、『交感』能力を持っています(つまり、大司教もまた『熱い魂を持つキャラクター』なのです)。また彼は『交感』以外の能力を用いることで、『天導機械』と交信することも可能だと主張しています。国教会は、天導機械の大部分を管理下に置いていますが、その理由は二つあります。一つは『神と直接対面する』ということ、そしてもう一つは『倫敦』を含めた全英の地下に広がる巨大な『大地の霊力』の流れを自在にするということです。
前者はローマ・カトリックに対して正統性を新たに打ち出すという目論見が基盤になっています。後者については『倫敦』の地下に存在する、古代ローマ時代の遺跡や魔導師の巣喰う忘れられた地下街、そして現在は失われたテクノロジーに対する欲求が基になっています。もちろんこの戦略は、国教会だけで考え出されたものではなく、議会やそのほかの結社とともに打ち出されたものです。
#1920年代にレイラインと名づけられた世界構造の一部が関係しています。
天導機械との交感
天導機械が意識を持っているとして、その心と会話を行うことの出来る人々は、歴史的にみても限定されています。その『声』を聞くことは、天導機械が意志した場合、誰にでも出来ることなのですが、その『声』に対して『訊く』ためには、ある種の資格を持っている必要があるのです。天導機械と『会話』を成立させるには、『交感』と呼ばれる状態に陥ることが必要です。天導機械に対して質問が可能なのは、『交感』している人物だけなのです。
結果的にいえば、『熱い魂を持つキャラクター』こそが、天導機械と『交感』出来る能力を持つ人々です。『天導機械』は『熱い魂を持つキャラクター』達にこう告げるでしょう。『知は力なり。だが、知は限りない欲望の源でもある』と。しかし、その言葉は一般人にはパイプオルガンの美しいフレーズとしか響かないのです。
天導機械ネットワーク
意志を持ち、超常現象の発生を可能ならしめる能力をその内に含む奇跡機械—天導機械—は、倫敦をはじめとして、幾つもの都市に存在すると伝えられていますが、それらはネットワークを形成していると言われています。
天導機械のネットワークは、複数の天導機械の意志の疎通が完全になされていることを示しています。ただし、その通信網は通常の物理的な手段を用いたものではないと考えられます。そこで、このネットワークの仮説として注目されているのが、『竜脈説』です。『竜脈説』は、現在英領であるt清国の風水師によって立てられた仮説で、地球物理学や天文学、生態学、地政学などと関係を持っています。中国に古代より伝わる『風水』の考え方によれば、大地を流れる自然の生命エネルギーは竜に例えられ、地磁気と深い関係にあるとされています。どうやら天導機械間の情報コミュニケーションは、この竜脈を伝わって行われていると考えられます。さらに、この仮説を提出した風水師によると、ウェストミンスター・アベイや、カンタベリー大聖堂などの有力な天導機械を持つ教会は全て、生命エネルギーの噴出する点『竜穴』に建造されているとも言います。
#この竜穴に相当するものは『聖マイケルの踵石』と呼ばれる場所として知られています。
聖マイケル...竜殺しの聖人。聖書のドラゴンスレイヤー。人間が自然をコントロールすることの隠喩でもある。
■天導機械技師
『天導機械技師』として選ばれた人間は、天導機械に一生を捧げることになります。天導機械技師は、歴史的に見て数人しかいません。その中でも未だ生き続ける『天導機械技師』は、たった一人です。彼は『天意』を伝える機械を創造し、その人生を微細な歯車で染め抜いた、根っからの技術者です。彼は未だ死の安息を受けることなく、倫敦のスラムで、機械の創造に携わっています。彼の目はすでに盲い、その耳はビッグベンの鐘の音も聴くことはできません。しかし、彼はその指先で、彼に与えられた使命を達成しようとしています。
彼は通称『鳥飼う人』と呼ばれています。1796年マンチェスター生まれの彼の本名は、エイドリアン・ホワイトロッドといいます。彼は全ての天導機械システムを破壊するためのプログラム=カルテを開発しようとしています。そしてそれは完成間近なのです。
■倫敦の天導機械
倫敦に天導機械は数基存在しています。一般人には知る由もありませんが、その中でも関係者の中で一番話題に上ると思われるのは、『ウェストミンスター・アベイ』の祭壇の地下にあるものです。
この導引機械は通常は火の消えた状態で、何か儀式のある時にのみ、エジンバラのカンタベリー大聖堂の大司教によって火が入れられることになっています。また、この特殊な方式によって運営されていることから、一部の識人の間では、『何か妙な秘密があるのではないか』という噂が立っています。確かにこの機械に火が入るということは、英国国教会にとって大きな事件が発生したことを意味します。そしてまた、何基か(信憑性のある噂では3台)の『天導機械』が、社会的に秘密裏に倫敦へと持ち込まれたという報告も入っています。これらの機械には新約聖書マタイ福音書に登場する三人の占星術の学者の名が与えられているようです。『カスペール』『メルキオール』『バルタザール』の3台が現在どこに設置されているかは不明です。この秘密裏の活動の裏には、科学を基盤とした秘密結社の存在も囁かれています。
<コラム:天導機械プログラム=カルテ>
一般の導引機械が、ある種の特別なプログラムを用いることで、天導機械化する──こんな荒唐無稽な噂が存在します。このプログラムは、通称、『天導機械プログラム』と呼ばれている伝説的なもので、美しい点彫が施された、芸術的なプログラム=カルテに記載されています。このプログラム=カルテは、研究者の間では『マグナ=カルタ』と呼ばれています。
このカルテは、倫敦の導引機械技師達の世界において伝説的な導引機械技師、通称『鳥飼う人』によって作成されたものであり、倫敦のウエストエンドにある『ウエストミンスター・アベイ』の地下に設置されている導引機械専用に設計されたものです。
天導機械プログラムを実行するためのカルテの枚数は、総計13枚に過ぎません。また、このカルテは、通常の導引機械に用いられるものとは、記述言語が大幅に異なっています。現在、この天導機械プログラム=カルテは、『鳥飼う人』とともに失われています。彼の行方は誰も知らず、プログラム=カルテ自身も、『アベイ』から消えてしまったのです。
■セッションにおける天導機械の用い方
天導機械は普段の生活とはかけ離れた存在です。何か事件が起こったりした場合に、初めてシナリオに登場するべきものです。もしもシナリオに使用する場合には、英国国教会との関係を視野に入れなくてはなりません。全ての天導機械は、国教会の管理下に置かれていると考えていた方が無難です。このことは、プレイヤーに対してしっかりと伝えておくべきです。もしも無理に教会に押し込んだりしたら、キャラクター達には酷い運命が待ち受けているでしょう。
さて、天導機械の役割には、三種類が考えられます。最も良くある役割は『情報提供者』でしょう。天導機械の下で『交感』に成功したキャラクターは、断片的なイメージを受け取ることが出来る訳です。次の役割は『黒幕』でしょう。天導機械は人間の持つ思考能力を上回る能力を持っている(という設定の)ため、何らかの事情によって、事件そのものの画策者となっている場合があるのです。天導機械の立てた計画を阻止することが、この場合のシナリオになるでしょう。そしてもう一つの役割は、『奇跡』の発動者としての役割です。天導機械と、そのバックにある『超時空体』の働きにより、空間上の自在移動現象や、時間軸の移動現象を始めとする、種々の『奇跡』が発動する訳です。
プレイヤーキャラクターは、比較的天導機械に近い存在ですが、必ずしも『天導機械技師』のような特殊な人々ではありません。ですから自由に天導機械を扱わせるべきではありません。天導機械によって翻弄される役回りこそが、プレイヤーキャラクター達にはふさわしいものなのです。