セントクレア氏の『黄金の魂』盗まれる
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アメリカの大富豪セントクレアの持つ有名な黄金像「黄金の魂」が、氏の滞在していたホテルから盗まれていたことが本紙の取材で明らかになった。セントクレア氏は、1849年のカリフォルニアのゴールドラッシュで足がかりをつかみ、金鉱だけでな植民地貿易をはじめとする他方面の事業で成功をおさめた。氏の今回の訪英は、一人娘であるレイチェル嬢をイギリスの社交界へとデビューさせる目的である。英国での滞在先はヒルトン・ホテル。先週のマンデラ卿夫人主催のパーティでお披露目されたレイチェル嬢は、赤いドレスの似合う女性であった。アメリカでは、英国出身の家庭教師から、英国貴族のマナーを身に付けたレイチェル嬢は、英国の上流階級の中でも立派なもののようであった。そのパーティには、他にバーバラ・ガゥアー伯爵夫人なども出席していた。セントクレア氏は連日のパーティで貴族の中にあっても、アメリカ人らしい合理主義なのか、事業の方でもいくつかの仕事を成していた。西ヴィクトリアのマダム・キーンの屋敷を訪れたセントクレア氏は、マダムの収集した美術品などを観賞しながらも事業の話をしていたという。そこで、セントクレア氏の所蔵する「黄金の魂」の話も出たのであろうか。セントクレア氏の「黄金の魂」は、氏の成功を記念する黄金製の天使の象で、最初に成功した金鉱で採取された金から造られた。その天使の象に導かれるように、セントクレア氏は、数々の成功を成し遂げたのである。「黄金の魂」は、マンデラ卿夫人のパーティで、レイチェル嬢が登場したときにその手にあったものだが、その黄金像も、レイチェル嬢の前ではかすんで見えたという。以降、「黄金の魂」は、ヒルトン・ホテルの大金庫の中で厳重に保管されているという。では、「黄金の魂」はいつ盗まれたのであろうか。その日、セントクレア氏とレイチェル嬢は、西ヴィクトリア市のマダム・キーン邸を訪問する予定であった。前回の訪問に対する返礼か、セントクレア氏はクラリッジズ・ホテルの大金庫から「黄金の魂」を自室のスィートルームに持ち出した。セントクレア氏の部屋には氏の連れてきいたメイドとホテルの客室係りが他にいたという。セントクレア氏がレイチェル嬢に呼ばれ、「黄金の魂」の置いてある部屋を離れたのは数分。用を終えて戻って来る間に「黄金の魂」は消えていたという。その間に部屋を出入りしたのは、メイドと客室係の二人。メイドは隣の客間にいたが、客室係が、ホテルの客室係の控え室へ下がっていた。すぐに、ホテルの支配人が呼び出され、ホテル内や客室係が調べられたが「黄金の魂」は発見されなかった。現場を捜査したスコットランドヤードのリバーブロンズ警部は、客室係が「黄金の魂」を盗み、共犯者によって、ホテルの外へ持ちだされたとし、客室係のトーマス・ワイズマンを逮捕した。