シナリオ作成の過程
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この章は、具体的にシナリオを作成するという話題について述べられています。この章で語られる内容は1章で語られた内容に基づいています。
この章を通じて、各種のストーリーラインと基本進行式から、シナリオを組み上げていくという作業を行います。つまり、シナリオのより具体的な部分を決定する作業について見る事になります。その際に必要となる作業や、各種の設定を解説しながら進めて行く事にしましょう。ただし、この記事で挙げられる要素には限界があります。より細かく、バリエーションを持つ部分については各人で追及する必要があるでしょう。ここでは、基本進行式の順番に従ってシナリオを設定していく事になります。1節から7節までで、全てのフェイズについて解説が行われます。
第1節:シナリオの内容を決定する前に行うべきこと
シナリオの方向性の設定
それではまず、シナリオを作成する前に行わなければならない作業を済ませてしまいましょう。それはセッション中で「PCはどのような事を行うか」を決定する事です。これはストーリーラインを決定することと同義です。1章では6種類の基本型があると解説されました。この6種類の基本形をそのまま選択するか、組み合わせを行うことによって成立するストーリーラインから選択を行って下さい。単に選択するだけでこの作業は完了します。しかし、シナリオを作り慣れていない内は、なるべく単体か、単純な組み合わせのストーリーラインを選択するべきです。もしも、今までにプレイヤーがセッションを経験している場合は、前回とは異なるストーリーラインを用いる方が、より新鮮な気分でプレイできるでしょう。
「当事者」の目的
ストーリーラインを選択した時点で、プレイの際の狂言回しである「当事者」が持つ「事件」に対する目的の方向性が決定されます。これはほぼ自動的にその範囲が決定される事になります。ところで、なぜ「当事者」の目的なのでしょうか? ストーリーラインが決定されたならば、次に「事件」そのものを設定する方が良いのではないのでしょうか? これは当然の疑問です。このように設定する理由は「事件」よりも「当事者」の目的の方を先に決定した方が解り易いためです。「事件」そのものは、「当事者」の目的よりも多くの情報が含まれてしまうため、初心者が扱うには苦労する場合があります。ですから「当事者」の目的を先に決定し、その後で「事件」に肉付けを行うことにします。
「当事者」の目的を代表するものは何でしょうか? それは「事件」の本質たる「利害関係」で利益を得ることです。単純な話ですが、これだけではシナリオになりません。そこでもっと具体的に「当事者」の目的を決定することにしましょう。付録のD%表:当事者の目的表に、ストーリーライン毎に「当事者」の目的の例が挙げられています。シナリオ作成に慣れない内は、例に含まれているものから「当事者」の目的を決定すべきでしょう。なぜならば、キャラクターを取り巻く状況を設定するための労力が、それらの例を使った場合とそうでない場合とで、大幅に異なってくるからです。例として挙げられているものは、ストーリーラインと当事者の目的が矛盾しないものがほとんどです。ストーリーラインと対立する要素の少ない「当事者」の目的は、シナリオをスムースに構築するための苦労が少なくて済むのです。これについての具体的な説明は後述します。 では、ストーリーラインと「当事者」の目的との関係を見てみましょう。ストーリーラインと「当事者」の目的という二つの目的は、シナリオを作成する側から言えば、マスターレベルの目的とキャラクターレベルの目的と言い換える事ができます。この二つの目的の間のずれが小さい場合は、シナリオの設計は比較的易しい作業になります。
例を出して解説しましょう。『探索』というストーリーラインを選択した場合に、『ある情報の収集』という「当事者」の目的(探索的な目的)を選んだとしましょう。この場合には比較的混乱の少ないシナリオ構築が可能になります。そこから導かれるシナリオレベルでの例を考えてみましょう。状況は以下の通りです。
「自分の両親についての知識を得たい「当事者」が、探偵(PC)に対して両親についての情報を集める依頼を行い、探偵はその情報を効率的に収集する」
このようなシナリオは、極めて素直な状況です。同様の例をいくつか挙げましょう。
「犯罪者を逮捕するために上司が部下(PC)の警官に、その居場所を探すように命令する」
「迷子の子供の親をPCが探す」
「教授に言いつかった学生(PC)が、コンパ当日に飲み屋を探す」
これらの状況は、マスターレベルの目的と「当事者」レベルでの目的とが近似している(ずれが少ない)ために、比較的簡単にシナリオを設計する事ができます。逆に、ストーリーラインと「当事者」の目的とが大きくかけ離れている場合には、その双方の目的が両立する状況の設定するために、相当頭をひねる必要があるでしょう。
例えば、PCが『耐久』のストーリーラインを選んだ場合に、『問題解決のための知識が欲しい』と考えている(探索的な目的)「当事者」を設定するという状況は、シナリオ設計において、決して不可能ではありませんが、設定するのは難度の高い作業です。
特にシナリオを作り慣れていない初心者は、マスターレベルと「当事者」レベルの両方の目的を、同時に成立させるのが困難な状況を設定するのは避けるべきです。そのような状況を設定できたとしても、実際のマスタリングにおいて矛盾が発生し易く、結局は扱い切れなくなる場合が多いからです。付録のストーリーラインは、ほとんどが素直な(つまり、マスターとキャラクターの目的の間のずれが小さい)状況を扱ったものです。最初はこれらの例を用いて、状況の設定に慣れるべきでしょう。
「事件」に対する各種設定
ストーリーラインを決定し、「当事者」の目的がはっきりした段階で「事件」を決定します。この「事件」を設定する手掛かりとなるものは、先程決定した「当事者」の目的です。「当事者」が直面している「事件」の本質は、利害関係であるという定義に従いましょう。つまり、それらの「事件」を解決することが「当事者」の目的です。「事件」自体はそれらの目的から逆に導く事が可能でしょう。「事件」を具体的なものにするには以下の各項目を決定する必要があります。
「事件」の規模の決定
「事件」は様々な規模で起こり得ます。個人的なものから世界規模までの各種のレベルがあるでしょう。それについて決定して下さい。規模によっては一回のシナリオでは解決不可能である場合もあります。
「事件」の発生時期の決定
「事件」がいつ発生したかを決定して下さい。「事件」はどの時代のいつ頃に起きたものなのでしょうか? 可能な限り正確な時期を設定してください。
「事件」の起きている場所の決定
「事件」がどこで起きているかを決定して下さい。『蒸気!』であれば倫敦市内がメインになるでしょう。可能な限り具体的に決定して下さい。また、ここでの決定事項がキャラクターが移動可能な場所についての制限にもなります。
事件解決のための期限の決定
「当事者」にとって「事件」を解決しなければならない期限を決定する必要があります。この制限によってPCが行動できる期間が設定されます。「事件」の解決はその期間に行わなくてはなりません。この期限の制限は精密に行われる必要があります。
「事件」を構成する人物などの決定
「事件」の中心にある「当事者」の目的は、周辺の事象を巻き込んでいる場合が多くあります。「当事者」を囲むのキャラクター・団体などについての設定を行います。なぜ「事件」に関係しているのか、「当事者」との関係などが記されます。
「当事者」と「事件」の関係の決定
「当事者」はなぜ「事件」と関っているのか、「事件」が解決された場合、されなかった場合に「当事者」の立場はどのようなものになるのかを決定して下さい。
「事件」解決の手段
この設定は既に半分行われているも同然です。つまりPCが行う行動、先程選択したストーリーラインこそが「事件」解決の手段となります。そのための理由付けを行って下さい。
主要NPCについてのデータの決定
無事に「事件」の要素が決定されました。では次に決定するべきはシナリオに登場する主要なNPCについての具体的な要素です。例えば外見的な要素(身長、身体つきなど)、社会的な要素(身分など)、癖、などの細かい部分が決定されることになります。これらの特徴は必然的に決定される場合もあります(推理の材料として髪の毛の色が関係している場合など)が、ランダムに決定しても良い場合があります。その場合は『蒸気!』のルールブックなどの巻末に付属している『D%表』を用いて決定する事ができます。
また各キャラクターの能力値、技能などのデータについても用意する必要があります。NPCの設定についての詳しい解説は第3章で扱われています。
コラム:ストーリーラインの宣言
決定したストーリーラインについては、必ずしもプレイヤーに対して宣言する必要はありません。しかし、ストーリーラインの宣告を行う事で、プレイヤーがシナリオ中でどのようにキャラクターを動かす様に期待されているかを把握し、その結果、役割を果たし易くなるという事はいえるかもしれません。
第2節:プロローグフェイズにおける準備
プロローグフェイズは基本進行式の中では、PCが登場しないフェイズであると定義されています。しかし、このフェイズはプレイヤーをシナリオに導入するための大事な段階だと言えます。
プロローグフェイズのための準備
プロローグフェイズのための準備は、主にプレイヤーに対する導入を用意することです。先程の第一節の終盤で決定した「事件」についての設定の内、時期や場所についての情報をプレイヤーに公開できる形でまとめて下さい。
また、舞台についての描写を行う事で、プレイヤーが具体的なイメージを持つため、実際のプレイの際の導入が行い易くなります。そのための準備を行う必要もあるでしょう。例えば『蒸気!』であれば、『D%表:倫敦短報百連発』から適当な記事を引く事で、比較的簡単にその当時の市中の雰囲気を表現する事ができます。 この段階はゲームの雰囲気を盛り上げる必要がありますから、映画的な演出としてPCが関る以前の「当事者」の描写を用意したり、BGMや、世界観を表現するグラフィカルな資料を用意するという作業をしても良いでしょう。
また、『蒸気!』に特徴的なこととして、「セッションはPC達による回想録」という前提があります。したがって、大まかにどのような流れだったかをプレイヤーに宣言しても問題ありません。
3節:導入フェイズにおける準備
プロローグフェイズがプレイヤーをシナリオの世界に導入する過程であるとするならば、導入フェイズはPCをゲームに導入する過程であると言えます。PCをシナリオに導入するためには幾つもの方法があります。その中でも利用価値の高い導入の方法を解説します。
PCと導入
あらゆるストーリーライン、そしてあらゆる「事件」、そしてあらゆるキャラクタータイプのPCに関して、シナリオへの導入が必要になります。なぜならば、導入されない限り、PCがシナリオに参入することは不可能だからです。何故ならば「事件」とPCの関係を考えてみれば当然です。『PCはあくまでも「事件」に後から参入する部外者に過ぎない』のです。それ故このフェイズでは、各PCがどのように「事件」と関る事ができるかという点が問題となります。
ゲームマスターは、ストーリーラインや「事件」の質などを考えながら、矛盾しない導入部を考えなくてはなりません。このフェイズがきちんと処理されないと、いつまでもゲームが開始されないという事態が引き起こされる事になります。
一般的導入
「事件」への導入を行うに当たって、あらゆるキャラクタータイプに使用する事が出来るパターンについて考えてみましょう。このパターンの導入を「一般的導入」と呼ぶことにします。このパターンの導入はどのキャラクタータイプに対しても用いる事が出来る便利なものです。しかし、導入の際にPCが断る可能性があったり、偶然に基づくものだったりと強制力と説得力に乏しいきらいがあります。
一般的導入には以下のような種類があります。それぞれについて代表的な例を挙げましょう。
利益に依存した導入
「事件」に関る事で、愛情・金銭・物品・名声・好奇心などが満たされる
感情に依存した導入
「事件」に関して自分が被害を受ける
「事件」に関して自分の友人が被害を受ける
「事件」に関して恋人・配偶者が被害を受ける
偶然による導入
「事件」の「当事者」による一方的な追跡
「当事者」と外見が良く似ている
「事件」関係者によるPCの所持品のすり替え
偶然「事件」に巻込まれる
社会的導入
一般的導入は用いる対象を選びません。しかし、多くのPCをシナリオに導入するために用いるには限界があります。また、導入は、誰もが(例えいやいやながらでも)納得できる理由を挙げる必要があります。一般的導入にはこの部分が弱いものが多くあります。では、どのような導入方法を用いれば良いのでしょうか? このような条件を満たす導入の方法の一つとして『社会的導入』があります。
社会的導入は、いわば強制的な導入です。プレイヤーが納得せざるをえない理由を提出し、シナリオへの導入を行うのです。この導入を用いれば、PCは「事件」に関る事を拒む事は出来なくなります。なぜでしょう?それはPCの社会的な立場を利用した導入だからです。PCをシナリオに導入する際に、鍵となる部分は何でしょうか? それは社会的な立場です。仕事関係・職業関係・上司の命令などの、そのPCにとっての社会的な立場を利用して、シナリオへと導入するのです。
社会的な導入は基本的に現代的な役割分担のある社会での導入の方法だと考えられます。今回の記事では、付録として『蒸気!』のキャラクタータイプのための社会的導入の例を添付してあります。 4節:追及フェイズに関する準備事項
追及フェイズでは、それぞれのストーリーラインに従った情報、及びその入手のために必要な課題などの設定する必要があります。プレイにおいてはこの部分が最も長いフェイズになります。
情報について
このフェイズでは情報と課題が大きなファクターとなります。まずは情報についての性質を理解し、シナリオの作成に生かしましょう。
TRPGのシナリオにおいて情報は重要な要素になります。正しい情報をきちんと扱うことができれば、シナリオで扱われる様々な問題について解決する手段を得ることができるでしょう。情報には、PCが関係している問題を直接解決できるものも、事件を解決するための方法を知っている人は誰かといったレベルの情報もあります。このサプリメントでは、TRPGで扱われる情報を、大きく2種類に分けて考えます。それは「核となる情報」と、「核となる情報を示唆する情報」です。
また、マスターとして情報を扱う場合、PCに対して情報は必ず与える事ができる場合も、与えられない場合もあります。プレイヤーの振ったダイスの目によって、つまり偶然によって必要とする情報を与えられない場合もあります。これらについての対処についてもこの節で考えてみましょう。
「核となる情報」の設定
PCは追及フェイズで各種の情報を入手することになります。その中でも、それを入手できなかった場合には、シナリオの完遂が、ほぼ不可能になるような重要な情報を「核となる情報」と呼びます。「核となる情報」は「事件」を解決するための手段そのもの、また解決手段に深く関る情報であったり、より有利に事を進めるための情報であったりします。つまり「事件」にとって重要性の高い情報が「核となる情報」です。この「核となる情報」は『記憶』もしくは『記録』の形を取ります。『記憶』と『記録』は以下の様に定義されます。
記憶
情報が、人間をはじめとした知的生命体(及びそれに準じるもの)の記憶に存在する場合です。
記録
情報が、書籍・雑誌・新聞・映画・VTR・プログラムカルテ・日記・メモ・走り書き・絵画・写真・写本・粘土板などの記録媒体に記録された場合です。
ストーリーラインと「核となる情報」
シナリオの準備として、ストーリーラインに合った「核となる情報」を、複数種類用意せねばなりません。実際のセッションを行っている途中を考えてみましょう。例えば、マスターが望んでもPCに情報を与えられない場合があります。また、シナリオを確信を持って進めるために、「核となる情報」をいくつも必要とする場合もあるでしょう。両方の場合に対応させるためにも、「核となる情報」は複数種類準備する必要があります。
ストーリーラインから「核となる情報」を導くことができる場合があります。ストーリーラインにはストーリーライン内に共通する類型的な「核となる情報」が存在します。例えば「対抗」であれば、勝利のための条件は必ず入手せねばならない情報ですし、「探索」では探索の対象についての情報が「核となる情報」になります。どちらもストーリーラインにとって必須の情報になります。ストーリーラインから導かれる情報だけが「核となる情報」になる訳ではありませんがこのような種類の情報も重要な要素になります。以下にストーリーラインと矛盾しない「核となる情報」の例を記載します。
対抗のストーリーライン
勝利条件
勝利を得るための方策
相手についての情報
今までの経緯
など
探索のストーリーライン
対象は何であるのか
対象はどこにあるのか
どうすれば発見する事ができるか
手に入れるにはどうしたらいいか
何を探索すれば良いのか
など
移動のストーリーライン
休息場所
地理
移動のための道のり
近道
追っ手についての情報
味方についての情報
など
耐久のストーリーライン
食料・金などのリソースを得る方法
耐久のために必要なものは何か
耐久の苦労の軽減方法
など
防護のストーリーライン
対象を護るための理由
追っ手についての情報
追っ手がなぜ追うかについての情報
守るのに効果的な方法
護るのに効果的な場所
など
奪取のストーリーライン
奪取までの手順
奪取対象についての情報
奪取する理由、事情
奪取対象の存在場所
など
PCに「核となる情報」を与えるために
「核となる情報」を設定出来たとしても、PCがきちんと入手できなければ無駄になってしまいます。PCが「核となる情報」を入手出来なければ、シナリオの完遂も難しいでしょう。しかし、シナリオを開始した当初に、全ての「核となる情報」がPCに対して明らかになっていたならば、それはシナリオとして不満足な出来になってしまうでしょう。それはプレイヤーの達成感と大きな関係があります。キャラクターとしては楽でしょうが、プレイヤーとしては余り面白くないものです。なぜならば、シナリオをプレイする際に、適度な手応えが無いと、プレイヤーとしての達成感を得るのが難しいからです。難しすぎるシナリオよりも簡単すぎるシナリオの方が、より面白味に欠けるシナリオだと感じる場合が多くあります。ですから、きちんとした手続きを踏み、その結果として「核となる情報」が全て入手できるようにシナリオを練らなくてはなりません。PCの努力が実るようにする訳です。逆にマスターとしては、どのように情報を与えるかの計画を立て、準備をせねばならないのです。そのためには「核となる情報」をPCが入手するために必要となる状況を設定せねばなりません。次に、このような「核となる情報」の方向にPCを誘導するような情報を準備することにしましょう。
「ポインタ」について
「核となる情報」をPCに与えるには、その情報が何処にあるか、どのようなものなのかなどをPCに伝達する必要があります。いわば情報を通じて「核となる情報」が入手出来るように、PCを誘導するのです。手がかりと言い換えても良いでしょう。このような、「核となる情報」を手がかりとして指し示す(=Pointする)情報を「ポインタ」と呼ぶ事にしましょう。
基本的に、PCがシナリオにおいて最初に接する「ポインタ」は「当事者」の持つ情報です。「当事者」は必ず最初に自らの目的を伝達する必要があります。「当事者」が何も伝達しない場合、PCは次に何をすればよいのか解らず、結果として何も行動する事が出来なくなってしまいます。「当事者」が、まず最初の行動に必要な情報を与える事で、シナリオは進行を始めるのです。「当事者」がPCに与える情報を積極的に決定しましょう。その中には「核となる情報」に直接関係する情報を含ませても良いと思います。
「核となる情報」をどのように与えるか
PCが「核となる情報」を得るようにするためにはどうしたら良いのでしょうか? そのためには前述の「ポインタ」を具体的に示すという方法が有効です。「ポインタ」は常に「核となる情報」を指向するようにします。適切なレベルまで「ポインタ」を集積することによって「核となる情報」が自然に入手できるようにするのです。
しかし、「ポインタ」そのものの与え方については、扱っているシナリオによってかなりのバリエーションが考えられるため、一般化はできません。また「ポインタ」が何処に存在するか、どのようにして入手する事ができるかなどについては、ゲームの扱っている社会と大きく関係します。『蒸気!』の場合、図書館や新聞社、個人の日記、さまざまな媒体にポインタがあると考えられるでしょう。
例)
ある建造物の平面図という「核となる情報」は何処に行けば入手できるか?
この場合の『何処に行けば入手できるか?』の部分が「ポインタ」に相当します。この「ポインタ」を入手するためにはさまざまな方法がありますが、基本的には情報の集積する場所にアクセスする必要があります。情報の集積場所については後述します。
「ポインタ」の種類
「核となる情報」と同様に、「ポインタ」も『記憶』もしくは『記録』の形を取ります。さらに「ポインタ」に特徴的なものとして、『推測結果』が存在します。推測結果は以下の通りに定義されます。
推測結果
目の前で起きた現象や、物質などから求められた推理・推測の結果が「ポインタ」となるものです。
あらゆる「ポインタ」は『記憶』『記録』『推測結果』の3種類のいずれかに相当します。PCはこれらの「ポインタ」を1種類以上入手し、「核となる情報」に迫る必要があります。PCの行動によって「ポインタ」の入手方法は変化します。ですからマスターは一つの「核となる情報」のために、複数の「ポインタ」を準備する必要があります。それぞれの「核となる情報」を得るために必要とされる「ポインタ」を設定するためには、どのようにすれば情報を得られるか、言い換えるならば情報入手のための経路を決定すれば良いでしょう。入手のための経路にも複数の段階が存在します。
情報はどこにあるのか?
これは情報の蓄積する場所についての情報です。「核となる情報」と「ポインタ」の両方が、ここで挙げられている場所に蓄積している可能性があります。また、これはゲームの扱っている社会に依存します。例えば『蒸気!』では以下のような場所に情報は蓄積されます。これらの場所において自らの欲する情報を的確に検索する事は、TRPGにおいて重要な要素になっています。
記録
記録は記録された時点の情報をそのまま保持しています。図書館ではメジャーな本であれば大抵のものは閲覧することができるでしょう。また、人の移動の記録などは役所に管理されている場合も多いでしょう。
『蒸気!』において記録が保管されている場所の例としては、公設図書館、私設図書館、新聞社などの資料室、警察資料室、研究者の個人研究室、大学研究室、博物館、各種役所の記録保管室、 導引機械データベース、官庁資料室、研究者の自宅、個人の書斎などが挙げられます。
記憶
基本的に人の記憶です。つまり記憶している人間がどこに存在しているかを決定すれば良いでしょう。例えば、パブ、クラブハウス、教会、市場などは人が定期的に集まる場所です。しかし、目的の情報を記憶している人間を探し出し、その記憶を語ってもらうには、また別の問題もあるかもしれません。
推測結果
推測結果は誰かが推測を行った結果です。つまり、誰がその推理を行うかによってその信頼性の度合いは変化します。推理を行うのは基本的に人間です。「当事者」、PC、専門家の3種類が主に推測を行うことになります。「当事者」は「事件」に関しての専門家と言うことも出来ます。つまり、専門家の存在する場所についてを決定すれば良いでしょう。専門の知識や技術を持っている人間は、その知識や技術を生活の糧にしている場合が多く、また優秀な専門技能を持つ人間はその専門分野では名前が売れている場合も多いでしょう。時間と興味があればPCの手助けをする可能性があります。
課題について
このフェイズで情報とならんで重要なのが「課題」です。TRPGの楽しみの大きなものに、適切な難度の課題をクリアするという事があります。そのため、情報を入手する、また、アイテムを入手する場合に、PCが乗り越えなくてはならない課題をきちんと設定するのもシナリオ作成の重要な部分となります。
PCに対する課題
シナリオには、PCが障害を克服するという要素が含まれている場合が圧倒的です。また、鍵となる情報や、物品などを入手する場合に、障害を排除したり迂回したりという手段を経なくてはならないというのは日常でもよく体験する事です。一般的なフィクションに共通する法則に従うならば、ある重要な事実の核心に触れるような情報は入手するのに苦労するという経験則が成り立ちます。しかし一方で、適切な入手経路を把握する事で、一見入手不可能とも思われる重要な情報にもアクセスできるという経験則も存在します。このような事実からも、ストーリーには(そして主人公には)課題が必要であるということが理解されます。小説とは異なり、自分で参加するメディアであるTRPGにおいては、課せられる難題を乗り越えるのは、紛れもなく自らがプレイするPCです。適当な難度の課題をクリアする過程の没入感は極めて重要なファクターとなります。
課題の設定
この記事の付録として、PCへの課題の表を添付してあります。添付された課題の例から、シナリオに関係する課題を設定して下さい。そして「ポインタ」を入手する際や、「核となる情報」を入手する際にPCに対して与えて下さい。課題をPCが解決できない場合には、課題を迂回する事でも情報が入手する様に設定するべきです。積極的に迂回する、または有能な人物を雇う事で情報を入手するという課題解決策も認めるようにして下さい。課題を無責任に設定するのでは無く、きちんと解決できる形で設定することが大事です。 追及フェイズのための準備はここまでで完了します。「核となる情報」とそのための「ポインタ」を準備し、その後でそれぞれの情報などを入手するために乗り越えるべき課題を用意するという順序で設定するのが良いでしょう。
第5節:解決フェイズのための準備
解決フェイズ
解決フェイズは『PCが「事件」を解決した結果をチェックするフェイズ』です。マスタ−は、シナリオの準備として、その点を念頭に置かねばなりません。また、このフェイズからシナリオは収束を開始します。解決フェイズはシナリオの終結へ向けての第一段階のフェイズです。この段階をきちんと準備しなければ、シナリオのスム−スな収束は不可能になります。
解決フェイズのための準備
マスタ−がシナリオを作成する時に、PCの行動については事前に想像を行うしか出来ません。シナリオを作っている段階では、どんな行動が行われるかを推測する事は出来ても、その推測の通りにPCが行動する事は保証されないのです。故に、マスタ−が用意した解決策以上の解決方法が提出される可能性も、逆に全く解決策が提出されない可能性も在る訳です。考えもしなかったようなミスが発覚し、全ての行動が無駄になる可能性もあります。
このように不確定な要素が多くなっていると、シナリオの展開はその場その場で場当たり的に行われるようにした方がいいのではないかという主張がなされる場合があります。しかしその主張は誤りです。シナリオを準備するという作業は必要であるばかりではなく、逆に進行が不確定であるからこそ、シナリオを丁寧に作り込み、様々な事態に対応する準備を行う必要があるのです。PCの行った行為をチェックし、きちんとした対応を準備する事は、PCの行為をシナリオの進行に反映するためにも重要です。
シナリオの目的と解決
このフェイズでは、今後のシナリオ進行を方向付けるために、PCが行った「事件」の解決の結果をレベル分けする事になります。「事件」の解決の結果を分類するためには、シナリオにおいて何を解決する事を目的としたかを、きちんと再確認する必要があります。この記事ではシナリオが解決されるとは、「当事者」にとって「事件」が良い方向に変化する事を指します。「解決」の度合に関するチェックもまたそれを基準とします。既に記したように、「事件」は「当事者」にとっての利害が絡んだ状態と限定されます。この「事件」に対する解決が、『PCにとっての解決ではなく、「当事者」にとっての解決である』という点に注意して下さい。PCがどんなにうまく立ち回ったとしても、最終的に「当事者」にとって有効に働かなくては無意味なのです。
さて、解決フェイズで語られるべき内容は、当然ながら「プロローグ」の段階で決定された「当事者の目的」と対応します。その段階で設定しておいた「当事者の目的」が、このフェイズまでで、どの程度果たされたかが判定される訳です。
解決レベル
このフェイズでは、「当事者」にとっての目的がきちんと果たされたか、また、果たされたとしてどの程度の達成のレベルであるかが判定される事になります。この事件解決の達成のレベルを、「解決レベル」を称する事にしましょう。シナリオはこの解決レベルによって結末が変わるように作成しなくてはなりません。上手に当事者の目的を果たした者のたどる道と、大きなミスをし、結果として目的を達成できなかった者のたどる道は同じではないのです。シナリオの作成段階において、解決レベルのそれぞれに相応しい結末を用意せねばなりませんい。
シナリオの分岐について
このフェイズから先のシナリオの作成は、「事件」解決の結果を複数の段階に分割して、そのそれぞれの場合についての進行を用意することになります。
普段シナリオを作成する場合にマスター側がよく犯すミスとしては、自分の考えた最良の結果のみを準備してしまい、「事件」解決に失敗したシナリオに対応できなくなってしまうというものがあります。しかし現実的には、マスターの作成した美しいストーリーが成立する確率は低く、シナリオをマスター側で強制的に進行させない限り、期待ほどセッションがうまく進むことはありません。残念ながら、プレイヤーはマスターが考えている程には有能ではないのです。つまり、マスターは面倒でもPCの失敗に対する準備は万全にしておくべきであるということです。PCを誘導し、シナリオをマスターの求めるように変化させる事が全て許されないという訳ではありませんが、PCが参加していない行動で、シナリオの進行を定めるのは避けるべきです。シナリオはPCの行動で変化するべきであり、マスターの都合でシナリオの方向性を変化させることは許されません。PCの行為は解決レベルとしてシナリオの進行に反映されます。
解決レベルとシナリオのチェックポイントの設定
この記事では、PCが行った解決に対して、シナリオが複数の道に分岐されるという構造を取っています。では、具体的にどのような方法でプレイにおける解決レベルを判定するのでしょうか? 結論から言ってしまえば、解決レベルを判定するための詳しい方法を一般化する事は出来ません。解決のための方法、解決の段取り、解決の手順などは、解決すべき目的によって無限に変化します。また、本当に解決に必要な部分だけをクリアすれば良いのか、幾つものチェックポイントを全てクリアせねばならないのか等によって、チェックのための条件は異なってきます。これらを全てを条件に入れた、チェックのための一般式を構築する事は、現実的に不可能であるといえます。
しかし、理想的なチェック方法の設置が不可能であるにせよ、現実的な範囲内でチェックの方法を考える必要があります。ここでは、各ストーリーラインに依存する形で、解決のためのチェックポイントを設定する事にしましょう。それぞれのストーリーラインによって解決策も異なる訳ですから、ストーリーライン毎にチェックポイントを準備するのは当然だといえます。解決レベルのチェックを行う場合には、各ストーリーラインに従ったチェックポイントを準備し、PCの行動とそのチェックポイントとを比較します。その結果として「事件」に対する解決レベルがチェックされるのです。つまり、ストーリーラインを選択した時点で、「何を解決するか」が決定され、同時に、何が「完全な解決」であり、何が「失敗」なのかを分けるチェックポイントが設定されるという事でもあります。
このようなチェックポイントの具体例はシナリオに依存します。ここではストーリーライン毎に、解決レベルチェックのためのどのようなチェックポイントが在るかを例として挙げる事にします。
ストーリーラインごとの解決のためのチェックポイントの例
対抗
シナリオの解決条件:勝負が行われ、決着がつく。
解決レベルのチェックポイント:勝利したか、敗北したか。また、問題解決のための他の手段を思い付き、実行したか。
探索
シナリオの解決条件:対象についての情報を探索し、入手する。
解決レベルのチェックポイント:入手した情報の量、正確さ、入手の速度など。
移動
シナリオの解決条件:現在とは異なる場所に移動する。
解決レベルのチェックポイント:目的の場所まで到達できたか、移動最中における被害の度合など。
耐久
シナリオの解決条件:耐久し切る。
解決レベルのチェックポイント:耐久し切る事が出来たか、出来なかったか。被害の度合など。
防護
シナリオの解決条件:防護の対象を全て防護する。
解決レベルのチェックポイント:防護し切れたかどうか、また被害の度合など。
奪取
シナリオの解決条件:奪取対象を全て入手する。
解決レベルのチェックポイント:奪取対象を全て奪取する事が出来たか。全てを奪取できなかった場合、その対象の重要度など。
解決レベルの決定
解決レベルのためのチェックポイントが設置できたならば、具体的に解決レベル毎の分岐されたシナリオを作成することにしましょう。ではレベルは幾つに分ければ良いのでしょうか? マスタ−によってこの部分は意見の分かれる所だと思います。「成功」と「失敗」の2分法を取るマスタ−もいるでしょうし、「大失敗」「失敗」「やや失敗」「部分的成功」「成功」「大成功」の6段階に分割するマスタ−もいるでしょう。
ここでは基本的なパタ−ンとして4段階のレベルを設定する事にします。具体的には「失敗」「不足」「部分的成功」「成功」とします。これらのどのレベルの結末が与えられるかは、実際にプレイを行い、チェックポイントによる判定を行わなくては解りません。ですから、事前に選択肢として用意しておかなくてはならないのです。
解決レベルごとの結末の準備
解決の度合が判定された結果、ここから先のフェイズでは解決レベル毎に別々のシナリオの準備を行うことになります。そこためにはシナリオが失敗したり、部分的にのみ成功した場合と言うものを考えなくてはなりません。マスタ−がこの作業を怠ると、シナリオの途中で分岐が行われなくなってしまいます。一本道のスト−リ−のみが延々と続くシナリオはプレイヤ−にとっては自分の行動が反映されないつまらないシナリオになってしまいます。それぞれの分岐に対しては、シナリオを練る以外に作成方法はありません。4レベル分に対して相応しい結末を考えて下さい。
「失敗」「不足」「部分的成功」「成功」の順で、「当事者」の目的が果たされた度合も上昇し、同時に「当事者」の満足の度合も上昇します。「失敗」と「不足」の場合は目的は果たされておらず、「部分的成功」と「成功」の場合には「当事者」の目的は果たされているとします。
ではこれらの結末をどのようにしてPCに対して反映させれば良いのでしょうか? 「当事者」の満足の度合などによって、PCに対する報酬などの面も変更されるでしょうし、PCに対する評価も変化しているはずです。それらの具体的な点を解決し、PCをシナリオから離脱させるためのフェイズが、次の「離脱」フェイズになります。
第6節:離脱フェイズのための準備
離脱フェイズは、シナリオからPCが離脱するためのフェイズです。先の解決フェイズによって分類された解決レベルによって、シナリオからの離脱の過程も異なります。解決セクションにおいて課題が解決された場合、及び解決されなかった場合の事態の推移が準備されることになります。また、離脱フェイズは、PCが能動的にシナリオに関与出来る最後のフェイズになります。
離脱のための準備
PCにとってシナリオの核となる「事件」は、PCの関り方が積極的であるにしろ消極的であるにしろ、自分達の日常の外部から持ち込まれたトラブルであると言えます。日常を過ごしていたPCが何らかのきっかけで非日常の世界に導入され、「事件」に関り、その性質を変化させる事が、シナリオのメインの過程となります。そしてPCは「事件」の解決の後で、日常へと戻らなくてはなりません。「事件」はあくまでも「当事者」にとってのものであり、PCはその外側にいるのです。このように、離脱フェイズは「事件」の非日常から再びPCが日常に復帰するための重要なフェイズです。そのためには「当事者」と「事件」とPCの関係の決着が必要となります。
離脱の過程と解決レベル
離脱の過程は、PCの解決レベルによって変化します。解決フェイズにおいて、シナリオの進行は、4段階の解決レベル単位に分割されました。このフェイズもその解決レベルによって離脱フェイズで扱う様々な要素が変化する事になります。ここで解決レベルについてもう一度振り返ってみましょう。解決レベルは、「失敗」「不足」「ほぼ成功」「成功」の4段階に分けられます。「失敗」と「不足」の場合は「当事者」の目的は果たされておらず、「ほぼ成功」「成功」の場合には目的は果たされています。
さて、この結果に対して、「当事者」がどうなるか、「当事者」はPCをどう評価するか、そしてその結果としてPCはどのような過程を経て日常へと帰るかという点が、このフェイズの核になります。そのためにはそれぞれの解決レベルのために準備を行う必要があります。
「当事者」の思惑と成功レベル
まず、成功レベルから決定しなくてはならないのは、当事者の状態です。「事件」の解決の度合は、そのまま当事者の目的の達成の度合です。「当事者」の状態を決定するためには、素直にそのレベルを反映すれば良いのです。次のコラムでは「当事者」の状態を決定するための目安を挙げます。それらに沿って「当事者」の具体的な境遇を用意して下さい。
「当事者」の状態の決定
「当事者」の目的が果たされている(解決レベルが高い)場合
この場合、PCが参入した事は「当事者」にとって有益であったと言えます。「事件」は「当事者」にとって有利な方向に変更されています。
「当事者」はPCのもたらした結果に満足し、PCに対して肯定的な評価をします。解決レベルが「成功」の場合には「当事者」は結果にとても満足しています。PCに対して「当事者」は良好な対応をします。「部分的成功」の場合には「当事者」は結果に納得しています。不足している部分で残念に思っている部分もあるかもしれませんが、「当事者」のPCに対する対応は悪くありません(むしろ良いものです)。
「当事者」の目的が果たされていない(解決レベルが低い)場合
この場合、PCが参入した事は「当事者」にとって有益でなかったと言えます。「事件」は「当事者」にとって未だ重荷になっています。
「当事者」はPCのもたらした結果に満足していませんし、PCに対して否定的な評価をする可能性もあります。また「当事者」が「事件」解決自体を諦める可能性もあります。
解決レベルが「不足」の場合には、「当事者」は納得の行く結果を得られていません。また「事件」自体が解決していないため、「当事者」はそちらに対する対応にも苦慮します。解決レベルが「失敗」の場合には、「事件」は「当事者」にとって全く変化が無いか、更に悪い事になっている可能性があります。「当事者」はそちらに対する対応にも苦慮します。当然ながら「当事者」は不満でしょう。
どちらにしろ、PCの行為は「当事者」には助力にならなかった訳です。
PCの状態の決定
「当事者」の状態が決定されたならば、その状態をもたらしたPCの状態も自ずと決定できるというものです。PCに対する評価と報酬を決定するためのポイントを下に挙げましょう。れらに沿ってPCそれぞれについて具体的な境遇を用意して下さい。
「当事者」の目的が果たされている(解決レベルが高い)場合
PCの評価は上昇します。当然ながら評価は「当事者」及びその関係者によって行われるものです。報酬についての契約があれば報酬は契約通り支払われます。「成功」の場合は契約以上の報酬が支払われる可能性もあります。
「当事者」の目的が果たされていない(解決レベルが低い)場合
PCに対する肯定的な評価は行われません。報酬についての契約があれば金額などの下方向への修正をするように要求する交渉があるかもしれません。「失敗」の場合は損害賠償などが要求される可能性もあります。
日常への帰還
PCはシナリオで扱われた非日常の世界から、日常の世界へと帰っていく必要があります。しかし、シナリオからは必ず離脱するとはいえ、その離脱の過程が満足の行くものかそうでないかは、ひとえに解決レベルに依存します。下にその目安を示します。
「当事者」の目的が果たされている(解決レベルが高い)場合
シナリオからの離脱は容易で、かつPCにとっては満足感を伴うものになります。また、PCは「事件」の解決に成功し、「当事者」の信用を得るでしょう。
「当事者」の目的が果たされていない(解決レベルが低い)場合
シナリオからの離脱は困難な場合と容易な場合があります。前者は「当事者」がPCに対して「事件」の「再解決」を希望した場合です。この場合再びシナリオ解決のための作業を繰り返す必要があります。また、後者は単に解雇されるという事です。「当事者」の信用は失っています。どちらにしろ、PCにとっては納得の行かないものになるでしょう。
離脱フェイズの終わりに
マスターがシナリオを準備する際には、以上の様な目安に基づいて、PCがたどる離脱の過程を具体化する必要があります。このフェイズによって語られるべき大きな点は、PCと「当事者」の社会的な立場の変化です。さらに、このフェイズが完了することで、でPCがシナリオに積極的に関係する段階が終了します。正確に言えば、この時点で「事件」とPCが絡む時間軸が一度断ち切られるのです。PCにとっては「当事者」との関係も「事件」そのものとも一度関係が断絶する事になります。「事件」の解決が成功しようと失敗しようと、PCはこのフェイズの後で日常へと帰還する事になります。PCにとってのシナリオは終了です。後にはエピローグを解決するためのフェイズが残っています。
第7節:エピローグフェイズのための準備
エピロ−グフェイズについて
プレイヤ−を離脱させるためのフェイズがこのエピロ−グフェイズです。PCはこのフェイズでは行動は行いません。プレイヤーはこのフェイズを経験することで、シナリオを完了することができます。シナリオが尻切れトンボに終わらないようにするには、このフェイズの準備をきちんと行い、シナリオを締め括らなくてはなりません。
ここでもPCの解決のレベルによって用意されるエピローグは変化します。
スト−リ−に完結を求める
今回この記事で扱われているものは、小説でいえば短編小説に相当するような、単発シナリオのための方法論です。このような単発シナリオは、単発シナリオの範囲内でストーリーに結末が与えられるべきです。1本の中で全てのストーリー要素が完結することが単発シナリオの特徴です。特にキャンペーンなどと比較して単発シナリオではエピロ−グフェイズが重要になります。
これはキャンペ−ンシナリオとは異なる部分です。キャンペ−ンでは、PCが「事件」解決に失敗した場合でも、その失敗を補うためのシナリオを組み、PCに再び挑戦させるという事も可能です。しかし、単発シナリオの場合では、その様な手段を取る事は出来ません。時間も限られています。ですから、そのシナリオ1回ですべての物語要素に決着をつけ、潔く完結させる必要があるのです。
シナリオのその後について
エピローグフェイズにおいても、PCの解決のレベルによってエピローグは変化します。このエピローグをプレイヤーに宣言することで、シナリオのその後の経過を示すのです。いわば「事件」そのものを過去にすることによって「事件」を完結したものにする事ができます。「事件」を解決させるためにはエピローグに必須となる要素がいくつかあります。それらを順番に挙げてみましょう。
「事件」そのものの経過
「事件」が当初の予定からPCによってどう変化したか
現在の「当事者」の境遇はどうなっているのか
現在のPCの境遇はどうなっているのか
必要な描写はこの4点です。シナリオを納得して終了するためには最低でもこの4点には言及する必要があるでしょう。また、これ以外にも、
「事件」と関係があったNPCの現在の境遇
「事件」解決のために協力したNPCの現在の境遇
などについても言及できれば、プレイヤーが納得する要素が増え、安定してシナリオを終了させることができます。これらの要素を埋めるように4種類全ての解決レベルそれぞれについて準備を行って下さい。
具体的にどのように差別化するか?
エピローグを差別化するためには、上記のポイントに注意してそれぞれの結末を設定する必要があります。特に「事件」の解決が出来なかった場合には、「当事者」の境遇は悲惨なものになるでしょう。
また、エピローグの差別化のためには、ストーリー的なバリエーションも必要ですが、一方でシンプルに経験点及びコネクションでレベル分けを行う事も必要でしょう。ただし、今回のサプリメントで扱われているシナリオは、あくまでも単発シナリオと呼ばれるタイプです。このタイプのシナリオではストーリーの完結の方が重要視されます。
シナリオの作成過程が完了した後に
繰り返しになりますが、シナリオを完璧にする事は現実的に不可能です。しかし、PCがどのような行動を行ったとしても対応を行う事が出来るように準備を行う事は可能です。このようにとっさにシナリオに記載されている以外の行動に対応する事を、「アドリブ」と言います。このアドリブを、そつなく行うことができるようになるためには、シナリオを練り続けることで、PCの行動からもたらされる多くの条件分岐に対応することができるようにするしかありません。このようなアドリブに対する準備は全て第3章に記されています。
以上でストーリーに注目したシナリオの作成については全て完了しました。しかしまだシナリオ作成の全てが完了した訳ではありません。ストーリーを実際の運用可能な状態にまで練るという作業が残っています。そのために重要な事は、キャラクターの視点からシナリオを見るという作業です。これは先ほどにも出てきたように、アドリブを行うための準備です。
コラム:物語としてのシナリオ
シナリオは現実と同じであり、やってみないことにはどう転ぶか解りません。しかし、逆にそれだけだとシナリオは終了することが出来なくなってしまいます。気持ちの良い終わらせ方も大事です。現実を物語という枠でくるむ事でプレイを終了し、現実に帰って来ることが出来るのです。TRPGが物語である面は、実は最後に収束するという点で表現されているのです。
そして物語だからこそ、複数のPCが協力する事が出来るとも言えます。さらには、ここが見せ場だ! などの盛り上がりが出来るのです。シナリオは物語の性質を間違いなく持っています。