イントロダクション
イメージボード1
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空が低い。
倫敦の上空を雲が覆い、その鼠色の塊はまだらに光を透過させている。冬の太陽の弱い光は、わずかに尖塔に降り注いではいるが、その恵みは下界には届いていない。人々は地の底で黄色く煤煙を含んだ重たい霧のローブのすそを引きずるようにして急ぎ足でこの街を右往左往している。
箱の中には金属の管。生み出されてから三十年を経たそれは、未だに真鍮の黄金色の輝きを失っていない。幾何学的神秘を孕んだ、余りにもバロック的なその構成物。その中から響いてくる「声」は彼女のものだった。彼女-ラブレイス・オーガスタ・エイダ・バイロンの。
「螺子を巻いて……時が止まらないように」
彼女のその声は、長い時を経ても劣化せず、彼女の最期の言葉を再現していた。
イメージボード2
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石畳の街を馬車が通り過ぎる規則正しい音が響いている。瓦斯燈が瞬き、オレンジ色の光が早めの冬の闇を照らしている。
古い路地だ。煉瓦の赤茶が苔のくすんだ緑に覆われ、何か陰気な風情をかもし出している。煉瓦の壁に木製の黒いドア。入るには背を屈めなくてはならない程の背の低いドアだ。その表面には赤く錆びた釘で打ち付けられたプレートが瓦斯燈の光を受けて鈍く光っている。そこには辛うじて読める浮き彫りで店の名前が記されている。
『Retropolice』
ドアノブに手をかける。ノブは真鍮製で、この店を訪れる何人もの客の掌によって磨き上げられてぴかぴかに光っている。重いドアを開けて中に入ると、あまり広くない店内は外の街路よりは少しはましといった照明で、客のシルエットが、暗がりにぼうっと浮かび上がっていた。
『蒸気爆発野郎!』の世界と『スチームパンクス』
『蒸気爆発野郎!』をプレイするためには、プレイに参加する全員がゲームの舞台となる架空世界についての知識を得ていることが必要です。普段暮らしている世界とは異なる世界で、自分たちとは違った個性として振る舞い、またその運命を演出することは、プレイヤーとしての重要な楽しみです。そしてそれらを通じてゲームマスターの用意した様々な課題をクリアし、その結果としてゲーム世界でキャラクターが関わる各種の状況を解決するという楽しみも得られます。さらにセッションを重ねることでその世界についての知識は貯えられ広がっていきます。過去に解決されたと思われている事件は、実はもっと大きな事件の伏線かもしれません。世界はセッションを重ねることでキャラクターの手によって広がり続けるのです。『蒸気爆発野郎!』では、架空の十九世紀末イギリスの首都『倫敦(ロンドン)』が舞台となります。詳しい説明は次節「スチームパンクシティ「倫敦」へようこそ 」以下を参照して下さい。 『蒸気爆発野郎!』のプレイヤーキャラクターは、大都市『倫敦』に棲む特殊な運命を背負った人々です。彼らはゲーム内で『スチームパンクス』と呼ばれます。彼らは特別な運命を与えられ、様々な事件と関係することになります。彼等は好む好まぬとに関わらず、特別な人間として生きる運命が与えられます(事件に遭遇し易いというのもその一つです)。彼らは、『熱い魂』と呼ばれる特殊な能力を持っています。彼らは燃えさかる炎のような魂を持っていおり、その結果、尋常でない活躍を行うことが出来るのです。 https://gyazo.com/6b9f1d25fa89584a86dbe42b96049262
しかしこの熱い魂を持つ『スチームパンクス』達の中には、世界征服を企む悪の秘密結社の首領や、他人を省みないマッドサイエンティスト、社会を混乱に巻き込んでほくそ笑む犯罪者なども含まれます。このような人々が起こす事件は、特にプレイヤーキャラクターを引き寄せます。それはまさに『運命』としか言い様がありません。『蒸気爆発野郎!』では、プレイヤーキャラクターは、このような様々な事件と関係し続けることになります。そして、熱い魂を持つ者の引き起こす多くの事件は、プレイヤーキャラクター無しでは解決することも覚束ないのです。
運命の輪は回り、プレイヤーキャラクター達を次々と事件へ導きます。魂の炎を絶やすことの無いように!
『蒸気!』の世界にようこそ
ここから先「第一部 ワールド設定」は『蒸気爆発野郎!』のセッションのメインの舞台となる、架空の十九世紀末の大都市『倫敦』の解説が行われています。地理、歴史、社会風俗、さまざまな特徴的なキャラクター、裏設定などについての資料が含まれています。 それではゲームの舞台についてちょっと見ていくことにしましょう。世界を知ることが、このゲームに参加するための最初の一歩です。そして、次にその世界で暮らすキャラクターについて想像を巡らしてみて下さい。
霧に包まれた十九世紀末の倫敦は、世界の中心たる英国の首都である世界一の大都市、まさに最高の繁栄を誇る都市の女王です。しかし栄華と豪奢と罪悪の都、古都バビロンを上回る腐敗都市として、「巨大なおでき」とも形容されます。倫敦は全世界に名高い栄華を極めています。時代的に大英帝国の絶頂期に当たり、巨大な富がイギリスに運び込まれています。しかし地域による貧富の差も激しく、高級住宅街や商業地域があると同時に、世界でも最悪のスラムも広がっています。
舞台となる十九世紀末は、名高い悪党や怪人物、有名人も数多く輩出されています。かのシャーロック・ホームズ物語では、ヴィクトリア朝末期の風俗が数多く語られています。たとえば霧の夜について、また馬車の行き交う往来について、そして数々の事件についてです。しかし、倫敦にはそれ以外にも様々な要素が含まれています。危険と冒険、陰謀と裏切り、幻想と怪奇、全てがここにあります。
この空想上のヴィクトリア朝末期の倫敦では、『導引機械』という名の巨大な算術機械群が駆動し、人々は架空の人格を楽しみ、高性能の義手や義足の存在する「改変された歴史」が流れています。この世界ではフィクションすらも現実なのです! 『蒸気爆発野郎!』のプレイヤーキャラクターであるスチームパンクス達は、この幻想都市『倫敦』で、日夜血湧き肉躍る大冒険を繰り広げることになります。
ゲームの舞台には、史実の十九世紀末と既刊のフィクション作品の内容とともに、ゲームデザイナーの仕掛けたフィクションも含まれています。さらに、ゲームを進行させるに従って、ゲームマスターとプレイヤーによる創作の歴史も織り込まれていきます。このようにして編まれた歴史を管理するのもゲーム参加者全員の仕事です。