ソフトシステム方法論(SSM)
問題状況の認識を共有し、改善案を考え出し、どの案を実施するかを決定するためのシステム思考をベースとするツール
ソフトシステム方法論とは?
ソフトシステム方法論(SSM)は、複雑な現実世界の問題を構造化し、多様なアクターが集まったグループで実現可能な望ましい変化を発展させ、見きわめるための方法論です。特に、(個々の)考え方の違い(SSMを開発したチェックランドの用語で「世界観(Weltanschauung)」)に対処するのに役立ちます。
なぜ使うべきか?
多様な人々から成るグループを対象とした数少ない方法の1つで、これを使うと、複雑な問題を構造化し、起こりうる変化を発展させるところから、実現可能な最善策を選択して実行するという一環のプロセスを実施することができます。
いつ使うべきか?
問題分析から結果の実現まで、知識共創プロセスの全過程で行えます。
どのように実施するか?
基本ステップは次のとおりです。これらのステップを反復しながら進めます。
1 問題状況の表現:グループのメンバーが共同でリッチピクチャー*と呼ばれる絵を描いて問題状況の全体像を表現します。個別に絵を描いて、1つの全体的なリッチピクチャーにまとめても構いません。
2 根底定義:全体的なリッチピクチャーから始めて、問題状況の改善可能な点をブレインストーミングします。この改善点を根底定義として整理します。根底定義とは、問題状況の探求に妥当だと考えられる目的のはっきりしたシステムを指します。 これは「……という活動のシステム」と表現するようにし、インプットは何でアウトプット**は何か、目的をはっきりさせた問題状況の変容としてまとめた考えを述べます。根底定義は、何を・誰が・何のために変えるのかを明示するもので、以下の6つ の問いに答える内容を含みます。(CATWOEと6つの頭文字で覚えるとよいでしょう。)
C(customers、顧客):このシステムが存在するとすれば誰が犠牲者もしくは受益者か?
A(actors、アクター):このシステムの活動を誰が実行するか?
T(transformation process、変容プロセス):このシステムによって、どんなインプットがどんなアウトプットに変容するか?
W(Weltanschauung、世界観):このシステムを意味あるものにするのはどのような世界観か?
O(owners、所有者):このシステムを廃止できるのは誰か?
E(environmental constraints、環境的制約):このシステムは外部環境のどんな制約を前提としているか?(Checkland、1985年、pp 763)
3 概念モデルの作成と検証:根底定義で述べた問題状況の改善に必要な具体的活 動をグループのメンバーで議論し、準備します。次のように進めます。
改善を実行するために必要な7(±2)つの具体的活動について
ブレインストーミングする(その際、命令形の動詞で表現する)。
それぞれの活動を枠で囲み、矢印でつないで相互依存関係を表す。
システムに、「モニタリング」と「コントロール」の2つの活動を追加する。
4 概念モデルと現実の比較:ステップ1~3は、概念と着想の範囲で行うことですが、ステップ4では、概念モデルを再び現実に照らして考えます(例:両者の違いを話し合う。)主なねらいは、チェックランドが「実現可能な望ましい」変化と呼ぶ「対立する利害のアコモデーション✽✽✽」に至る変化を明らかにすることです。
5「実現可能な望ましい」変化を実行する。考え方の相違をどう埋めるのか?グループの各メンバーの問題認識を知ること、問題と解決策の案の概念を支える世界観をプロセス全体で明確に維持することによって考え方の相違が埋まります。
アウトプット・アウトカム✽✽は何か?
ソフトシステム方法論(SSM)を行った結果、実現可能で現実的な、十分な考慮を重ねて望ましいとされる活動の全体が分かり、問題が起こっている状況をどう変えるかを示すことができます。
誰がどんな役割を担うのか?
ソフトシステム方法論(SSM)に精通しているファシリテーターが進行をリードしますが、プロ セスは全参加者が行うことが大切です。SSMは多様なステークホルダーとの知識共創を目的としています。
何を準備すべきか?
ファシリテーターは、フリップチャートやマーカーペンなど、通常のワークショップの道具を準備します。事前に、口頭での発言を記録し、まとめる方法を考えておきましょう。4つのステップを行うには、数日かかる(集中的な)ワークショップが必要になることもあります。
チェックランドは、システム思考に由来する、理解しやすいとは言えない表現を用いています(顧客、根底定義、活動システムなど)。そのため、ファシリテーターは参考文献を読んでSSMの背景知識を学んでおくことを推奨します。また、各ステップを実際にどう実行するか、グループメンバーの貢献をどう扱い、まとめるのがよいか、計画する時間も必要です。
やらないほうがいい場合は?
問題が何かはっきりしており、解決を図れる場合 (目標が明確で、最適化することを課題としている場合)は、SSMは適していません。
もっと知るには?
Checkland P 1985. From Optimizing to Learning: A Development of Systems Thinking for the 1990s. Journal of the Operational Research Society, V36, pp 757-767.
Checkland P 1994. Systems Thinking, Systems Practice. Chichester: Wiley.
Checkland P 2000. Soft systems methodology: a thirty year retrospective. Systems Research and Behavioral Science, V17, Supplement 1, pp S11–S58.
【訳注】
✽ 「リッチピクチャー」は、状況や関係者の関連等を1枚の絵として描いたもの。課題を取り巻くシステム全体を俯瞰するために使われるツール。
✽✽ 「アウトプット」は、短期的に得られる、活動の結果(成果物等)。「アウトカム」は、中期的に得られる、活動の効果成果。
✽✽✽「コンセンサス(ハードなシステム思考での合意)とは異なるSSMでの合意のこと。
★このウェブページの情報は、スイスアカデミー『td-net ツールボックス』の英語(オリジナル)版を翻訳したものです。訳文の質と解釈に関しては監訳者(大西有子)に責任があります。(This profile has been translated into Japanese by Yuko Onishi. Cultural translation and quality assurance is in the responsibility of the translator.)
原 題:Soft systems methodology. td-net toolbox profile (7)
著 者:Pohl, C.
ETH Zurich • Transdisciplinarity Lab (TdLab)
発行所:Swiss Academies of Arts and Sciences (a+)
Network for Transdisciplinary Research (td-net)
www.transdisciplinarity.ch • td-net@scnat.ch • @td-net
House of Academies • Laupenstrasse 7
P.O.Box 3001 Bern • Switzerland
ソフトシステム方法論(td-net ツールボックス ツール No.7)
監 訳:大西有子
発行日:2023年10月1日(改訂第2版)
発行所:総合地球環境学研究所