月刊ピアノ
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月刊ピアノ2022年6月号 P111
誰でも弾ける!愛しのストリートピアノ vol.49
東京・北区、正光寺の「岩淵パブリックピアノ」
地域コミュニティの輪を広げる、週2日開催の寺ピアノ
ピアノが弾けなくても、通いたくなる
演奏そっちのけでおしゃべりに花が咲くストピもいいな(2022.5.20発売)
東京・北区の名刹(めいさつ)「正光寺」の広々とした境内に、週2日ピアノの音が流れる。管理者は、岩淵パブリックピアノ実行委員会代表の武藤正義さん。本業は芝浦工業大学システム理工学部教授だが、地元赤羽の地域活性化の一環でピアノを媒介にしたまちづくりに取り組む。
多忙な本業の傍ら、毎日曜に寺ピアノのリアル動画配信や管理も行っている武藤さんは、「演奏者と聴き手が集まるだけでなく、寺ピアノを媒介に多世代の交流が深まる場所にしたい」と話す。理想は、ピアノを起点にコミュニティの輪が広がることだ。
「ピアノが観音堂の中にあるため、半分個室のような雰囲気があって弾きやすい」と明治大学3年の粟根颯哉さん。大学入学後に独学でピアノを始め、ストリートピアノ巡りをするうちに、正光寺に辿り着いた。毎週寺ピアノを聴きにやってくるご近所の大久保さんは一人暮らし。「家に一人でいてもつまらない。ここは、いろいろな人とお話できますから」。やはりご近所の諏訪晃嗣さんは紙ヒコーキが趣味で、自作の折り紙を持参しては居合わせた人に折り方を伝授する。2人ともピアノは弾けない。「いろいろな世代、職業の人と会えるから楽しいですよ」(諏訪さん)。いつの間にか演奏そっちのけで、おしゃべりに花が咲いてしまった。だれでも気軽に弾けて、即席演奏会場にできてしまうのもストリートピアノの良さだが、寺ピアノの魅力は人々の交流がより豊かなことだ。
JR赤羽駅周辺の再開発が進み、岩淵の街も劇的に生まれ変わっている。そんな岩淵の魅力を積極的に発信する武藤さんは、正光寺周辺の古い長屋群をエリアリノベーションして起業スポットにするコトイロ(co-toiro iwabuchi)での活動や、JR赤羽駅東口のストリートピアノ設置にも関わっている。
「地域に根ざしたストリートピアノは、多世代が集って交流できる地域コミュニティの核になれる可能性を秘めています」と武藤さん。神奈川県逗子市出身で、同郷のキマグレンが立ち上げ、ビーチクリーンもする海の家のライヴハウス「音霊」との出会いも大きかったと言う。
帰り際に3人の親子連れがやって来た。聴こえてきたのは、中学生らしい女の子が弾く、見事なクラシック曲の演奏だった。
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2020年10月から東京・北区の正光寺観音堂に常設されて約1年半。「岩淵パブリックピアノ」は地域に根ざした寺ピアノとして、子どもから高齢者まで多世代交流の場となっている。
構成・撮影・文/相田知恵