意外と面倒な速度の問題
あるランナーが10kmの区間を走ったところ,時速の変化は図のようになり,数式では時速$ vが距離$ sの関数として次の関係があった。
https://gyazo.com/4b4884e0299eee53cee1b624311ce95c
$ v(s)=12-0.4s
このとき,区間を走破したタイムを求めよ。
…という問題では,単純に平均速度10km/hだから1時間丁度,としてはならない。
まず一般論から。
https://gyazo.com/7fe65d448d3050d1c0f16e2e658dfb94
微小区間$ dsにおいて速度$ v(s)を一定とみなすと,この間の所要時間$ dtは次式となる。
$ dt = \frac{ds}{v(s)}
これを積分すると,速度$ v(s)が与えられた時の区間$ s_{0} \sim s_{1}の総所要時間$ tが求められる。 $ t = \int_{s_{0}}^{s_{1}} \frac{1}{v(s)} ds
今回の問題に当てはめると,次のように計算できる。
$ t = \int_{0}^{10}\frac{1}{12-0.4s} ds = \int_{0}^{10}\frac{-2.5}{s-30}ds
$ = -2.5 \log | s-30 | = -2.5 (\log 20 - \log 30)
$ = 2.5(\log 3 + \log 10 - \log 2 - \log 10)
$ = 2.5 (\log 3 - \log 2) = 2.5 \log \frac{3}{2} = 2.5\log 1.5 = 1.0158557\cdots (時間)
これを秒まで表すと,約1時間0分57秒であり,単純計算よりも約57秒長い。
元の問題が$ v(t)=12-4tのように時間の関数で与えられていれば,平均速度からの単純な計算で正しい。しかし,今回の場合は距離の関数である。この問題の場合,実は減速度が一定ではなく,最初の方の減速度が僅かに大きく,最後の方が僅かに小さいのである。このため,平均速度が丁度10km/hより僅かに小さくなって57秒延びてしまったのである。正確な軌道は,$ v= \frac{ds}{dt}=12-0.4sの微分方程式を解けば求められるので,それで減速度が出せる。(以下の計算は未検算) $ \frac{1}{s-30}\frac{ds}{dt} = -0.4 $ \int \frac{1}{s-30}ds = -0.4 dt
$ \ln | s-30| = -0.4 t + C
$ \therefore s=30\left(1- e^{-0.4t}\right) (初期条件を考慮)
$ v=\frac{ds}{dt}=12e^{-0.4t}
$ a=\frac{dv}{dt}=-4.8e^{-0.4t}
減速度は一定でなく、最初は大きく、少しずつ小さくなる。
グラフにしたのが下の図である。case 1 は今回の問題,case 2は減速度一定の問題である。
https://scrapbox.io/files/672a34e2513b31b3f9f13ba2.png
一番最初のグラフは,縦軸に横軸を微分した変数を取ったものであり,位相面と呼ばれる。非線形制御などで用いられてきた。別な見方では,状態空間(状態平面)とも呼べる。(現時点では説明は省略) さらには,鉄道においては,列車の軌跡をこの平面にプロットしたものを「運転曲線」または「ランカーブ」と呼ぶ。なお,英語では speed profile とか speed trajectory と呼ばれる。 2019/6/16