高岳親王航海記
貞観七(865)年正月、高丘親王は唐の広州から海路天竺へ向った。幼時から父・平城帝の寵姫・藤原薬子に天竺への夢を吹きこまれた親王は、エクゾティシズムの徒と化していたのだ。占城、真臘、魔海を経て一路天竺へ。鳥の下半身をした女、良い夢を食すると芳香を放つ糞をたれる獏、塔ほど高い蟻塚、蜜人、犬頭人の国など、怪奇と幻想の世界を遍歴した親王が、旅に病んで考えたことは…。遺作となった読売文学賞受賞作。 奇跡としか表現のできない大傑作なのだ。今世紀どころか、これまでの日本文学の中でも、これほどの水準に達した物語を私は読んだ記憶がない。高丘親王の日本から天竺に至る七つの夢幻譚は、読者である自分の垢染みた心の殻を一枚ずつ剥がしていく怖さと喜びに満たしてくれた。(高橋克彦氏の解説より)