アンビエント・ミュージックことはじめ
昨日はゆーしんの「多趣味バンザイ」をお送りしました。楽しめる範囲が広いのは素敵ですよね。趣味の範囲が狭いので、あんまり人と話と合わないことが多いんですよね。。。。見習いたいです。
てなわけで、以下本題。
アンビエント・ミュージックを知っていますか。名前から察せられる通り、音楽の一ジャンルです。
日本語では環境音楽と言ったりします。
どういった音楽か、一言で言い表すのが難しいジャンルなのですが、アンビエント・ミュージックを生み出した(もしくは初めて提唱した)と言われる英国出身の音楽家、ブライアン・イーノ(Windows 95の起動音を作曲した音楽家です)によると、アンビエント・ミュージックとは"興味深いと同時に無視されうる"(must be as ignorable as it is interesting、訳あってるか若干不安) 音楽なんだそうです。うーん、なんだかよくわからない表現ですが、実際に聞いてもらうと少し感じが掴めると思います。ブライアン・イーノが1978年に発表した、アンビエント・ミュージックを定義したとされる歴史的名盤、「Ambient Music:1 Music for Airports」より、「1/1」。
https://youtu.be/CWu4ieBqGFg
曲の長さが17分あります。正直とっつきにくいですね。しかも、同じようなシンセとピアノのフレーズが延々と繰り返されます。美しいフレーズですが、17分繰り返されても…という感じですよね。でもずっと耳を傾けている必要はないんです。たとえば作業用BGMなんかにして、仕事するなり本を読むなり、ソシャゲの周回なりをすればいいんです。そんな中でふと、BGMに意識が向いた時に「あ、なんかきれいな曲だな」なんて思える。それが"興味深いと同時に無視されうる"ということなんだと個人的に思ってます。ということでアンビエント・ミュージックはジャンルの発明であると同時に、音楽の鑑賞方法の発明でもあったわけです。BGMの再発明とも言えるんじゃないでしょうか。たぶん。
ブライアン・イーノがアンビエント・ミュージックという言葉を発明したのは事実ですが、そのアイデア自体はもっと昔から存在していました。イーノもその影響を公言していますが、エリック・サティという近代フランスの作曲家がいました。サティといえばまずはこの曲、
「ジムノペディ第一番」。
https://youtu.be/S-Xm7s9eGxU
恐ろしいほど美しい旋律です。日本でも耳馴染みの多い曲だと思います。そんなサティが1920年に発表した「家具の音楽 」が、今日では元祖環境音楽と言われています。
https://youtu.be/CU2mDkZoYsc
イーノの曲に比べるとだいぶ賑やかですね。ここでいう「元祖」というのは、音楽のフォーマット(作曲・編曲技法とか)というよりは作品に込められた思想的な意味合いが強いようです。
この曲にまつわる、こんなエピソードがあります(Wikipedia調べ)。
サティはこの「家具の音楽」を、ダリウス・ミヨーらの協力を得てバルバザンジュ・ギャラリーでのコンサートで実験的に演奏した。コンサートのプログラムには「休憩時に演奏される音楽をどうぞ聴いてくれませんように……くれぐれも」といった内容の注意書きが添えられていた。しかし休憩時に、劇場のさまざまな場所にスタンバイしていた演奏者により演奏が始まると、聴衆はこの曲に興味を示し、自分の席に戻って静かに聴き入ろうとした。そこでサティが「おしゃべりを続けて!」と呼びかけたものの、聴衆は会話をやめて曲に耳を傾けた。
この曲調で無視しろ言われても…という気もしますが、ともかく、サティは意図してその場の環境に溶け込む音楽=BGMを作ろうとし、聴衆へその鑑賞法を提案までしたわけです。
当時の人はどう思ったんでしょうか。相当な先進性といいましょうか、物凄い先見の明ですよね。
時代は進んで、1960年代末。この頃になりますと、アナログ・シンセの登場も手伝って、後のアンビエント・ミュージックに通ずる構造を持った作品が登場し始めます。先にも述べましたが、イーノはあくまで最初の提唱者であって、そうした音楽自体は既にあったわけですね。代表的なものとしては、1969年に発表された、テリー・ライリーの「A Rainbow In Curved Air」。
https://youtu.be/5PNbEfLIEDs
ミニマル・ミュージックに分類されてはいますが、シンセの音色や楽曲の構成に後への影響が伺えます。約18分と長尺の曲ではありますが、癒されますね。途中でパーカッション入るのも素敵。
さらっと書いてしまいましたが、ミニマル・ミュージックにも触れておきましょう。ミニマル・ミュージックというのは「音の動きを最小限に抑え、パターン化された音型を反復させる音楽(Wikipedia調べ)」なんだそうです。現代音楽の作曲家たちがこのフォーマットを作り上げました。スティーブ・ライヒが代表的ですね。私も大して詳しくないのですが、このミニマル・ミュージックがアンビエント・ミュージックに与えた影響はかなり大きいようです。最小単位のパターンを繰り返し反復していく流れは通ずるものがあります。
https://youtu.be/g0WVh1D0N50
またモダンジャズの大家、マイルス・デイビスがアンビエントの成立に与えた影響も広く指摘されているようです。私もお気に入りの一枚、「In a Silent Way」より「In a Silent Way"/"It's About That Time」。
https://youtu.be/AotbNbrYR3s
またまた時代は飛んで、今度は1980年代。70年代末に定義されたアンビエント・ミュージックですが、80年代になりますと、このジャンル下に置かれた、もしくは影響を受けた作品が続々と出現します。
この時代のアンビエントは「ニューエイジ」なんて呼ばれ方をすることもあります。
アンビエントの歴史の中でも個人的にイチオシなのがこの時代です。アナログ・シンセの優しい音色が非常に癒されるんですね。
中でもオススメなのが、アメリカの作曲家、スティーブ・ローチが80年代に発表した諸作です。
優しげで温かみのある音色と繰り返されるシンセ・パターン、時には環境音までサンプリングされていたりと、正にアンビエントの典型と言えるんじゃないでしょうか。1986年にリリースされました「Quiet Music 3」より「Sleep and Dreaming」。
https://youtu.be/0R53-GBdBzQ
ちなみに、ここまで海外の音楽家の作品ばかり取り上げてきましたが、日本の音楽家も優れたアンビエントの作品を多数生み出しています。その中でも80年代の日本産アンビエントが近頃世界的な注目を集めています。昨年、Light In The Atticレーベルよりリリースされた、80年代〜90年代日本産アンビエントミュージックを集めたコンピレーション、「KANKYO ONGAKU: JAPANESE AMBIENT ENVIRONMENTAL & NEW AGE MUSIC 1980-90 」はなんとグラミー賞にノミネートまでされています。
その中に収められている一曲、YMOを始めとする数々の活動でおなじみ、細野晴臣作の「Original BGM」。
https://youtu.be/mVFf4U6pssI
無印良品の店内BGMとして作られた曲なんだそうです。不勉強ながら私もこの記事を書くにあたって初めて聴いたんですが、べらぼうに良いですね。。。
音楽ジャンル全般に言えることですが、アンビエントも時代を経ると共に周辺のジャンルと融合したり、微妙に分家したりで、ジャンルが細分化されていきます。ざっと挙げるだけでも、アンビエント・テクノ、アンビエント・ハウス、アンビエント・ジャズ、ダーク・アンビエント、ドローン… キリがありません。もはや分類学の領域ですね。
90年代になりますと、テクノ/エレクトロと結びついた名作が登場します。まずは日本でも大人気、イギリスの代表的なテクノ・ミュージシャン、エイフェックス・ツインが1992年に発表した「Selected Ambient Works 85–92」より、「Xtal」。
https://youtu.be/uXpKC8TIAxE
これまでに紹介したようなアンビエント的空間系のシンセをバックに、無機質なビートが淡々と刻まれます。これまでに紹介した楽曲とは趣が異なり、もはやBGMうんぬんとも言えなくなってきておりますが、それはそれ、時代と共にアンビエントも作家の主義主張を表す手段として改めて用いられるようになったということなのでしょう、たぶん。
また、この頃になりますと「チル・アウト」という言葉が生まれます。クラブで踊り狂ったあと、BPMの低い、ゆったりした曲を聴いて落ち着く(チルする)といった行為を指し、転じて音楽のジャンル名としても扱われるようになりました。チル・アウト中にはアンビエントもよく聴かれていたということで、アンビエントに新たな意味合いが付与されるようになったわけですね。先の「Xtal」はそうしたクラブ的な流れも汲んでいると思われます。
90年代からもう一曲、ノルウェーのテクノミュージシャン、バイオスフィアが1997年に発表した「Substrata」より「Poa Alpina」。
https://youtu.be/94jABJjpDrc
サウンドの質感は90年代ですが、雰囲気は80年代のニューエイジに近いものがありますね。
この後2000年代、そして現在に至るまでアンビエント・ミュージックの系譜は脈々と受け継がれています。最近ではVaporwaveと呼ばれる、主に80年代の文化(音楽、アニメ、ファッションetc...)から影響を受けたインターネット発の音楽が人気を博していたりしまして、その中にもアンビエント的な要素が伺えます。私がアンビエントに興味を持つきっかけにもなりました、猫シCorp(どんな名前やねん、と思われるかもしれませんが、Vaporwaveのアーティストたちはこんなんばっかです)が2014年に発表した「Palm Mall」はその一つです。
https://youtu.be/5zHslbR0FBo
こうした楽曲にはサブジャンルがありまして、「Mallsoft」なんて呼ばれたりします。ショッピングモールで流れていそうな音楽をシュミレートした音楽、というわけですが、つまりはBGMのパロディ、再構築ということで、アンビエントの概念下(BGMそのものを作品とする)にある動きだと思います。
てなわけで、アンビエント・ミュージックの歴史を駆け足ではありますがお送りしました。まだまだdigりと知識が足りないですね。更に精進したいです。もっと書くべきことがあったと思いますが、完全に力尽きてしまいました。またいつかの機会にということで。
ロックやジャズ、クラシックなどに比べると知名度が低く、またとっつき辛い(長尺の曲が多い、基本インストかつ展開に起伏がない)アンビエント・ミュージックというジャンルですが、ストレスフル(人によりけりですが)なコロナ禍の中、癒しの手段としてもその価値は見直されていくような気がしています。通勤退勤中や、リモートワーク中など、ちょっと疲れたな…なんて時のBGMに、アンビエント・ミュージック、いかがでしょうか。
明日の記事はあーさーの「刃牙実用知識ランキング」をお届けします。救命阿!お楽しみに。