コマラジは開局前に災害情報を発信したコミュニティFM
ということを、今回のラジオ出演をきっかけに勉強させていただきました。
開局前に災害情報を発信したコマラジ 存在感高まるコミュニティFM:ひとまち結び
2020.01.15
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リアルタイムで地域ごとの細やかな情報を提供するラジオ局「コミュニティFM」が、注目を集めている。とくに重要性が高まるのが災害発生時だ。猛威を振るった2019年10月の台風19号上陸時、開局前にも関わらず臨時災害放送局として市民に情報を提供した東京・狛江市の「コマラジ」の事例から、コミュニティFMの存在意義とその可能性を紹介したい。 https://gyazo.com/1b4d0112eac3655933b25048e9cf9f08
コマラジ代表の松崎学さん(写真提供:コマラジ)
2019年10月12日から13日にかけて、台風19号が日本に上陸。各地が記録的な大雨となり、各地に大きな被害をもたらした。このとき、11月に放送スタート予定だった狛江市のコミュニティFM「こまえエフエム(通称・コマラジ)」は、開局前にも関わらず、急きょ、臨時災害放送局として台風通過後まで災害情報を発信した。
地域密着型メディアであるコミュニティFMの最も重要な役割の一つは、災害発生時に地域住民たちの安心・安全確保のため、リアルタイムできめ細やかな情報を提供すること。台風19号への対応を通じて、コマラジは正式な開局前ながら、狛江市民たちにコミュニティFMの意義を示すことになった。
コミュニティFMは市町村単位の地域を放送対象とするラジオとして1992年に制度化。阪神淡路大震災をきっかけに注目を集めるようになり、今では全国各地に331局が開局している(2019年11月現在、日本コミュニティ放送協会調べ)。大手の広域放送とは異なるコミュニティFMならではの役割、そして可能性とはどのようなものなのか。コマラジ代表の松崎学さんに聞く。
災害時に地域ごとの細やかな情報を提供
コマラジは2019年11月11日に本放送がスタートしました。まず、なぜコミュニティFMを開局しようと考えたのでしょうか。発足の経緯を教えてください。
松崎 市内在住の友人たちと5年ぐらい前から「地域コミュニティのためにラジオ局があればいいね」なんていう話をよくしていました。僕自身はラジオというメディアにそこまでこだわりはなかったんですが、ラジオ関係の仕事をしている知人がいて、阪神淡路大震災当時のことを聞いているうちにコミュニティFMの必要性を感じるようになりました。
災害発生時にラジオは情報伝達の重要な手段のひとつです。しかし、阪神淡路大震災当時は広域放送が主流。広域放送だとエリアが広すぎて放送内容に地域差が出てしまうため、地域ごとの情報や被災状況を放送することができなかったそうなんですね。そこで市町村単位で細やかな情報を提供できるコミュニティFMが必要なんだ、と。
狛江市に隣接する調布市や世田谷区、川崎市にはコミュニティFMがすでに開局されていて、実は狛江市も放送圏内なんです。ただ、当然ですが、それぞれの地域に密着した局なので実際に災害が起きたときに、狛江市の情報を発信してくれるわけではありません。狛江市は1974年に大きな水害が発生していますから、いざというときのためにもコミュニティFMは絶対にあったほうがいい。そう考える有志数人で3年ほど前に“FM狛江設立準備委員会”を発足。月に1度程度の会議を重ねてきました。
開局に至るまで、どのような苦労がありましたか。
松崎 準備委員会といっても私を含めて基本的には素人ばかり。知らないことだらけでしたが、市内や近隣在住の大手ラジオ局の元番組制作担当者や電波技術のスペシャリストといった方々の協力を受けることができて、本当に一つずつ手探りで進めてきた感じです。
資金繰りでも苦労がありました。コミュニティFMは災害発生のたびに局が増えてきていて、とくに東日本大震災後は一気に伸びているのですが、それでもまだ認知が行き届いていません。出資を募ろうとしても、怪しまれてしまって思うようにいかないこともありました。ただ、狛江市の松原俊雄市長は、1974年の狛江水害時に市役所職員として現場に出ていた経験があるそうで、市長にコミュニティFM開局について当初から理解と賛同をしていただいたことはありがたかったですね。
狛江市からも協力を得られたことで、狛江市役所向かいのビル2階にスタジオと事務所を構え、市役所に隣接する狛江市防災センターに送信機器とアンテナを設置。7月31日に総務大臣から予備免許を付与していただき、当初の予定よりは遅れてしまったのですが、11月11日の本放送開始に向けて準備を進めていました。
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(写真:編集部)
予期せぬ臨時災害放送局としての災害放送
そこへ10月12日の台風19号の接近があり、コマラジが臨時災害放送局として予期せぬ形で災害情報を提供することになったのですね。その経緯を教えてください。
松崎 台風19号は上陸前から東日本で過去最大級と伝えられていましたし、狛江市は多摩川増水による水害の可能性があります。私たちはすでに市内全域に電波を通して試験放送をしている段階だったので、もし危険な状態になるようなら当然、災害情報を放送したいと考えました。それで9日(水曜)の時点で総務省に相談したのですが、回答は「竣工検査前の放送はNG」。ただし、狛江市が総務省に“臨時災害放送局”の許可申請を行えば、すぐにコマラジの設備、機材を使用して災害放送ができるよう免許手続きを行う、ということになったんです。そこで狛江市役所に打診したのですが、「市民に広くコマラジの存在を通知することが間に合わない」という理由で、その時点では災害放送は行わないという判断でした。
しかし、すぐに状況は変化して「やはり災害放送をするかもしれない」と連絡を受け、私たちも準備を進めつつ、対応についてミーティングを重ねていました。そして12日(土曜)の午後3時半過ぎ、狛江市の災害対策本部の会議にオブザーバーとして出席。担当課長から市長へ臨時災害放送について確認があり、市長が正式に放送を決定したのです。
もともと臨時災害放送は行政が主体で行うものですから、当初、私たちは市の防災センターに設置したばかりだった機材などの準備を行い、放送開始に立ち会うだけの予定でした。ところが、台風が接近するにつれて防災センターは電話が鳴りっぱなし、てんやわんやの大騒ぎ状態。その場で担当課長からの要請があり、私たちが放送も担当することになったのです。
放送を担当することも想定外で、急きょ決まったことだったのですね。
松崎 そうなんです。そのときは4人ぐらいしかいなくて、どうしようかと(笑)。原稿は市役所が用意してくれたのですが、放送に合った読み原稿にはなっていなかったので、それを大急ぎで修正、情報を整理して手書きで書き直し、では誰が話すのか──となったときには、みんなやっぱり尻込みをしてしまって。結局、私が第一声を担当することになり、本当に震えながら、約15分間どうにか初放送を行いました。その後は順々に交代しながら、放送に慣れていくにつれていろいろと工夫もできるようになりました。たとえば、防災センターのホワイトボードに更新されていく情報を自分たちでチェックして、市の担当者に確認しながら自分たちで原稿を作ったり……。途中でパーソナリティをお願いしている市内に在住する俳優の笠原ちゃこさんや、他のスタッフも駆けつけてくれて、手探りではありましたが、なんとか災害情報を放送することができました。
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開局式のイベント(写真提供:コマラジ)
狛江市は浸水などの被害が大きかったと聞いています。臨時災害放送ではどのような情報を、いつまで放送していたのでしょうか。
松崎 避難勧告エリア停電地域の状況、開設した避難所の案内といった情報を流していました。避難所が「寒い」という声があれば、「暖かい格好を」と呼びかけたり、満員になった避難所があれば近くの避難所への誘導をしたり。それと防災センターのモニターで多摩川の様子を見に行こうとする人が見えたので、「絶対に近づかないでください」という注意など、できるだけリアルタイムの情報を流すように心がけました。消防団が引き上げた深夜2時過ぎ、私たちも基本的な災害情報を録音したものをリピート放送することにして、いったん解散。もう雨も風もやんで、月も星もきれいに見える穏やかな夜になっていました。
翌13日(日曜)は7時から放送を再開。避難所の閉鎖や浸水の状況、家に帰り着くまでの注意点といった放送をしばらく流してから、災害対策本部の最終会議で市長の確認を取って閉局。10月12日の16時46分から13日の10時49分までの臨時災害放送でした。
初めての臨時災害放送について市民の反応はどんなものだったのでしょうか。振り返ってみて見えてきた課題などはありますか。
松崎 予想外にラジオを聴いてくれた方が多く、放送後は市民の皆さんから感謝の言葉やコメントをさまざまなところでいただきました。コミュニティFMの必要性も感じていただけたんじゃないかな、と。本当にやってよかったと思えましたね。市の防災無線はほとんど聞こえなかったという声も多くて、私たち自身、改めて災害時のコミュニティFMの重要性を実感しました。ただ、電波は市内全域に届いているはずなのに、建物によっては聴こえないというところが結構あることもわかりました。この問題については、市とも相談して新たなアンテナの設置や電波の出力調整を随時行っていきます。
それと痛感したのは体制づくりの必要性です。災害放送時には役回りとして、アナウンス担当、情報収集担当、原稿作成担当の3人が絶対に必要です。これを基本の1チームとして、災害放送をするためには最低3チームで交代、共同作業をしないと回せないでしょう。台風19号のときは1日だったからギリギリなんとかなりましたが、これが1週間とか1ヵ月という期間になったら、まず無理でした。パーソナリティの方を含めてネットワークを作り、災害時の体制を準備していこうと思います。 https://gyazo.com/31b7560bae1512ce648df9d289ab03ce
(写真提供:コマラジ)
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(写真提供:コマラジ)
コミュニケーションツールとしてのコミュニティFM
11月11日にはコマラジの本放送がスタートしました。大半がオリジナル番組でとても充実した内容になっていますね。
松崎 深夜帯の音楽番組配信サービス以外は、ほとんど生放送のオリジナル番組です。コミュニティFMは災害時の情報提供だけでなく、地域の活性化に果たす役割も大きい。ですから、市民まつりの中継や地元の小学校紹介、商店街の店主インタビューなど、狛江市の人々に身近な話題を提供できるような番組を数多く企画しています。狛江市長がスタジオに遊びに来て、飛び入りで生放送に出演したこともあるんですよ。 広域放送のラジオ局にはできない地域性、柔軟性があるのですね。今後、コミュニティFM局としてのコマラジが目指すところを教えてください。
松崎 コミュニティFMの一番の役割は災害時の情報提供や防災といったところにありますが、そのために一番大事なことは街のコミュニケーションなんですね。人と人とがつながっていないと、助け合いが広がらないんです。どこにお年寄りがいて、どこに小さな子どもがいるなど、普段からみんながそういった情報を共有しておけば、いざというときに人を助けることにつながっていきます。市民の皆さんにはコマラジをそういうコミュニケーションをつくるためのツールの一つにしてもらいたいですね。まだ放送がスタートして間もないですが、先日はネットラジオサービス「リスラジ」の聴取率ランキングで全国4位に入りました。少しずつですが、市民の皆さんに浸透してきているのかな、と思います。
それと狛江市は“音楽の街”をテーマに掲げていて、市民の音楽活動がとても活発なんです。私自身も「AURA」というビジュアル系ロックバンドでベースを担当していますし、市内には音楽関係者やアーティストが多く住んでいます。コマラジとしても人と人とのつながりを活かして、コンサートやライブイベントを企画するなど、狛江市ならではの魅力を発信していきたいですね。 https://gyazo.com/24bc0a184c7724d85168d07c5c22d92c
(写真:編集部)
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(写真提供:コマラジ)
コマラジのウェブサイト