キーワード:巨大楽器
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オルガン奏者からキャリアをはじめたチュードアは、西洋音楽史上もっとも大きな楽器であり、設置された教会の建築と一体化して響きを作り出すオルガンによって「自分の音に対する想像力が制御(control)されていた」と晩年のインタヴューで認めている。だが、その「制御」は音だけではなく音を作り出す楽器に対する想像力にも及んでいた。つまり、チュードアは「楽器」を、手元にあって人間と対峙する何らかの物体ではなく、演奏者と聞き手もろともその内部に含んだ、さまざまな構成要素のネットワークとして思い描いていたふしがあるのだ。じっさいチュードアは、ピアニスト時代から会場全体を組み込んだ音響設計を心がけることで知られ、ツアー先で避けがたく出会うオンボロのピアノの音の周波数特性を「エコライズ(equalize)」、つまり補正するためにステージ上で楽器を動かしていたことでも知られる。このような傾向は、1960年代に電子楽器にのめりこむようになってからますます強まり、1966年の自作《Bandoneon !(バンドネオン階乗)》を皮切りに、人間のリスナーと演奏者をともに包むさまざまな巨大楽器を自作自演するようになっていく。