キーワード:ヴァーチャル・リアリティ
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電子音楽を作るようになる前のチュードアは、世界でも有数の技術を持つピアニストとして知られていたが、1950年にフランスの作曲家ピエール・ブーレーズが書いた『ピアノソナタ第二番』という曲を演奏しようとした際に、どれだけ練習してもうまく弾けないという困った事態に陥った。コンサートが近づく中、焦ったチュードアは藁にもすがるような気持ちで、入手できたブーレーズのインタヴューに片っ端から目を通していった。するとそのひとつで作曲家が「エステティクスに関してはアルトーの方向性が正しい」と言っているのが見つかる。そこで「アルトー」というのは誰なのかを調べ、それがフランスの俳優であり演劇理論家であることを突き止めたチュードアは、このアントナン・アルトーという人物が1938年に出版した『演劇とその分身』という本を入手する。そしてフランス語の辞書を引きながらそれを読んだことでブーレーズの難曲が弾けるようになったという嘘のような本当の話が知られている。アルトーはこの演劇論の中で「演劇」の別名として「réalité virtuelle」というフランス語の言葉を使っていた。そして、チュードアの当時のパートナーで、彼に勧められてアルトーを読みはじめた詩人のM.C.リチャーズが1958年に出版した『演劇とその分身』の英訳において「ヴァーチャル・リアリティ」という言葉が英語圏ではじめて登場する。