キーワード:グランド・ホテル形式
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1932年に制作された『グランド・ホテル』(エドマンド・グールディング監督)という映画は、「ホテル」と名付けられたひとつの場所に集った複数の登場人物がそれぞれ経験する出来事を、フォーカスの度重なる切り替えによって並行的に描き出し、その後「グランド・ホテル形式」と呼ばれるようになる手法を編み出したことで知られている。その中では登場人物がホテルについて語るシーンが何度か登場するが、そのひとつでは次のようなセリフがつぶやかれる:「何百というドアが並ぶが誰も隣の客の素性を知らぬ。君が去れば別の誰かが同じ部屋のベッドに寝る。それだけさ。」確かにホテルとは、見知らぬ他人同士が行き交う場である。でも「グランド・ホテル形式」において、無関係のものたちの共通のグランドである「ホテル」は、あくまでも出発点にすぎない。なぜなら、はじめは孤島のようにバラバラに描かれていた登場人物はやがて互いに絡み合い出し、紛いなりにもひとつの物語を形作るようになるからだ。