オールオーヴァー絵画
all overね。
全面を覆う」という意味の絵画用語。「ドリッピング」や「ポーリング」といった技法を開発し画面の全体を均質に処理していく1947年以降のJ・ポロックの絵画にたいして、主として50年代以降に使用された。批評家のC・グリーンバーグは論文「イーゼル画の危機」でその特質を「明白な対立を欠いた」「多声的な」絵画と形容している。その後、抽象表現主義などの同様の画面構造を備えた作風に対してもこの語が使われ、徐々に一般化した。ポロックの作品では、部分と全体との階層差が打ち消され、また中心・周縁から上下左右に至る序列が排されていると見なされるため、結果的に奥行のない表面(平面性)や均質性、統一性が強調されることになる。こうしたポロックの絵画構造は、モンドリアンやキュビスムの画面に残存していたようなコンポジションを排除することになった。この際モダニズム批評はポロックの絵画の「オールオーヴァーネス」を強調することで、瞬間的かつ統一的な作品把握がもたらされるような作品の現前性を確保しようとしたともいえる。ゆえにD・ジャッドが重視した「全体性」や「単一性」、さらにはM・フリードがモダニズムの作品経験において強調する「即時性」などの概念とも関わりが深く、ミニマリズムやカラー・フィールド・ペインティングの一部の作品も同様の傾向を示している。