肩をすくめるアトラス
ディストピア化するアメリカ
政府は「富める者への規制と再分配」を強化。革新的な実業家や科学者は「略奪者(looters)」と呼ばれる政治家・寄生的利害集団に搾取され、産業は急速に衰退する。
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主人公たちの奮闘
ダグニー・タガート:大手鉄道会社タガート・トランスコンチネンタルの運行副社長。
ハンク・リアーデン:超合金〈リアーデン・メタル〉を開発した製鉄王。
二人は激しい規制の中でも鉄道と鋼鉄で経済を支えようとするが、周囲の無理解と政府の統制で追い詰められていく。
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謎のキーワード「Who is John Galt?」
各界の逸材が忽然と姿を消し、街にはこの謎のフレーズだけが残る。実は〈生産者〉たちを陰で糸引く人物ジョン・ガルトが、「理性をもって世界を支える人々によるストライキ」を呼び掛けていた。
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ストライキの帰結
産業家が次々と“肩をすくめ”(=責任を放棄し)山中の隠れ里〈ガルトの峡谷〉へ去ると、国家経済は崩壊寸前に。最後はガルト自身がラジオ演説(70ページに及ぶ名高い“ガルト演説”)で自らの哲学を提示し、ストライキ側が新しい資本主義社会を築く決意を示して物語は終わる。
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タイトルの意味
ギリシア神話で天空を支える巨人アトラスになぞらえ、「世界を支えているのは少数の創造的頭脳だ。彼らが“肩をすくめ”て荷を降ろしたらどうなるか?」という作者の問いを象徴する。
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主要テーマ・メッセージ
テーマ 作中の描写/主張
理性 人間社会の根源的エンジンは“考える頭脳”であり、強制ではなく自由意思と論理が進歩を生む。
合理的利己(オブジェクティビズム) 自身の幸福追求こそ道徳的であり、利己と利他は対立しない。
資本主義擁護 自由市場は才能を最も生かし、強権的再分配は文明を蝕む。
犠牲者の承認 「奪われる側」が自らの価値を認めずに奉仕を続けると、搾取は永続する。
構成上の特徴
3部・10章×各部の巨大構造。
ミステリ仕立ての“ガルトは誰か”という謎解きが読者を引っ張る。
第3部の「ガルト演説」は文学史上最長級の演説シーンで、ランド哲学の総決算。
受容と影響
初刊時は文壇の酷評を受けたが、その後累計1,000万部以上を販売し、アメリカ保守・リバタリアン運動のバイブル的存在に。
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経済危機や規制強化の局面で再評価され、政治家・起業家にも愛読者が多い。
2010年代にかけ映画3部作が製作(評価は低調)。
VC視点での読みどころ
起業家精神 vs. 規制:スタートアップがイノベーションで社会を牽引する構図と、国の介入が与えるインセンティブゆがみを極端化して描写。
インセンティブ設計:才能が流出するメカニズムは、タレントリテンションや国家間競争を考えるヒントになる。
哲学と経営:ランドの〈合理的利己〉は、創業者の“ミッションと報酬”の関係を再考させる視座を提供。
ざっくり言えば――「もし世界を動かすトップクリエーターや起業家が、ついに堪忍袋の緒を切って一斉にストライキしたら?」
――そのディストピア実験を通じて、理性・自由・価値創造の意義を問う1000ページ超の問題作です。
ビジネスと規制の摩擦を日々考えるVCの立場から読むと、やや極端ながら「才能と資本が動きやすい環境とは何か」を考察する格好の材料になります。