デコロニアル
デコロニアル理論は、ラテンアメリカを中心に形成された**「近代=植民地性(modernity/coloniality)」研究計画に端を発する批判思考で、政治的な脱植民地化(decolonization)が形式上終わった後もなお持続する支配の“深層構造”—すなわち植民地性(coloniality)—を暴く枠組みです。核を担うのは、アニーバル・キハーノ(権力の植民地性)、ウォルター・ミニョーロ(デリンク/認識論的不服従)、ネルソン・マルドナド=トーレス(存在の植民地性)、マリア・ルゴネス(ジェンダーの植民地性)ら。彼らは、1492年以後の世界資本主義・人種化・知の序列化が統合された「植民地性のマトリクス」**が、今日の制度・指標・学知・日常にまで浸透していると論じます。特にキハーノは、近代世界システムの持続的な支配が「人種化」「労働の分節」「知のヒエラルキー」といった軸で作動することを示しました。SAGE JournalsDecolonial Translation
ポストコロニアル研究との違いも要点です。ポストコロニアルは主に1970–90年代に文学・文化研究から展開した「表象批判」の系譜で、植民地言説や知の制度への介入を志向しました。一方デコロニアルは、近代そのものの“裏面”としての植民地性に焦点を当て、「学界の内部改革」にとどまらず**知の回路から“離脱(delinking)”し、周縁の知を起点に再構成する実践を含意します。ミニョーロは、脱植民地化(国家の独立運動)とデコロニアリティ(植民地性からの離脱実践)を区別し、後者を認識論的不服従(epistemic disobedience)**として位置づけました。E-International RelationsUniversidade Federal do ParanáEscholarship
三つの“植民地性”がよく参照されます。①権力の植民地性(キハーノ):労働・権威・性/人種・知の分業がグローバルに組み合わさる支配マトリクス。②存在の植民地性(マルドナド=トーレス):人間存在の位階化や「誰が人間と見なされるか」を決める深層構造。③ジェンダーの植民地性(ルゴネス):近代/植民地的過程で輸入された異性愛中心・二分法的ジェンダー秩序が他の支配軸と交差する問題。これらは「知の植民地性(epistemic)」—西洋中心の知の規範—と結びつきます。ram-wan.netudesc.brNYC Stands with Standing Rock
さらに、エヴ・タック/K・ウェイン・ヤンの論文は、「脱植民地化は比喩ではない」と釘を刺します。土地と生命の回復という具体的政治課題を、教育改革や多様性施策の婉曲表現に置換することを拒みます。デコロニアル実践はこの緊張を踏まえ、政策・所有・ガバナンスの再設計にまで踏み込みます。clas.osu.edu
近年の応用では、データ植民地主義が重要テーマです。個人やコミュニティの生活からデータを恒常抽出し資源化する秩序を、コルドリ/メヒアスは「人間生活の植民地化」と捉え、規範・市場・技術が絡む新たな収奪を記述しました。AI・プラットフォームの設計やデータ主権の議論は、デコロニアル枠組みの実験場になっています。Melbourne Law SchoolStanford University Press
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